著者
正能 千明 荻野 拓也 我妻 朋美 小塚 和豊 大林 茂 小川 真司 原 行弘
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2166, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 リズミカルな下肢のペダリング運動が、健常人の上肢筋を制御する脊髄の反射弓と皮質脊髄路の興奮性に影響を及ぼすことは報告されている。しかし脳卒中片麻痺患者における報告及び実際の上肢機能(パフォーマンス)への影響に対する報告は無く、これを明らかにすることは機能訓練を行う上で重要と考えた。今回、脳卒中片麻痺患者に対する自転車エルゴメーター駆動が麻痺側上肢の痙縮及びパフォーマンスに与える影響について、駆動前後での上肢機能と神経生理学的評価により検証した。【方法】 対象は当院リハビリテーション科に入院あるいは通院中である慢性期の脳卒中片麻痺患者5名(男性3名、女性2名、平均年齢:50±21.9歳)。疾患の内訳は脳梗塞1名、脳出血4名で、左片麻痺4名、右片麻痺1名、発症からの期間は平均2619日(273~8408日)、Stroke Impairment Assessment Set-Motor(SIAS-Motor)上肢近位3:1名、4:1名、上肢遠位1b:5名。利き手は右4名、左1名。Modified Ashworth Scale(MAS)は前腕・手関節・手指grade1~2。本研究への除外条件は重度の高次脳機能障害と手関節・指関節の関節可動域制限、運動の支障となる重度な合併症を有するものとした。 上記対象者5名に対し、自動車エルゴメーター駆動前後に上肢の機能評価と神経生理学的評価を行った。 自転車エルゴメーター(コンビ社製エアロバイク75XL)の設定条件として、乗車姿勢は肘関節屈曲位にて両手でハンドルを保持した座位で、座面はペダルが最下位の時膝関節軽度屈曲となる高さとした。負荷は運動時間10分間、運動強度は年齢推定予測最大心拍数(220-年齢)の60%の値と自覚的運動強度(Borg2~3)を指標とし、リズミカルに駆動でき、連合反応を生じない回転速度(50rpm)とした。 評価方法として、上肢機能は(1)麻痺側手関節・手指の自動関節可動域を測定した。測定肢位は端座位とし、テーブル上に20cm台を置き両肘関節を前腕回内位にて接地した。測定方法は、手関節背屈・掌屈をゴニオメーターにて測定し、手指屈曲・伸展可動域は第2・第5指の指腹―手掌間距離にて測定した。(2)SIAS-Motor上肢近位・上肢遠位評価、(3)手関節・指関節MASの評価を行った。 神経生理学的評価は、誘発電位・筋電図検査装置(日本光電社製Neuropackμ)を用い、(1)麻痺側手関節の自動背屈時、長橈側手根伸筋(ECRL)と橈側手根屈筋(FCR)の表面筋電図を記録した。手関節自動背屈5秒間保持を6セット施行し、5秒間中の2秒間を導出してroot mean square(RMS)値を求めた。RMS6セットの平均値よりECRLとFCRのRMS比(主動作筋/拮抗筋比=ECRL/FCR比)を算出した。(2)麻痺側FCRのH波を導出し、さらに最大上刺激で得られたM波の振幅との比(H/M比)を算出した。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に従い、対象者に研究目的・内容・方法を事前に口頭で説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 上肢機能評価では、自転車エルゴメーター駆動後全ての症例において、手関節掌背屈の自動関節可動域は15~35°増加、指腹-手掌間距離は0.5~2.5cm改善が認められた。SIASとMASでは明らかな変化は認められなかった。神経生理学的評価では、自転車エルゴメーター後ECRL/FCR比は11.11~83.55%の増加が認められた。また5名中FCRのH波を誘発できた3名のH/M比は自転車エルゴメーター後、8.2~27.36%減少を認めた。【考察】 今回の結果から、脳卒中片麻痺患者に対しリズミカルな下肢のペダリング運動は、上肢の自動可動域向上、主動作筋(ECRL)の促通、健常人と同様にFCRのH反射減弱の結果が得られた。 H/M比は脊髄反射弓の興奮性を示し、一般的に痙縮患者において増加すると言われている。リズミカルな下肢のペダリング運動は麻痺側上肢脊髄前角細胞の活動を抑制し、痙縮を減弱する作用があると考えられる。また主動作筋/拮抗筋比の増大より相反抑制が増強し、動作効率の改善により上肢の随意運動が向上したと推定できる。また、上肢と下肢の機能的連関が示唆されたが、メカニズムは不明瞭な点が多く、今後その解明が課題であるとともに、更に症例数を増やし検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、慢性期の脳卒中患者に対する運動療法として、自転車エルゴメーター駆動は、麻痺側上肢の痙縮を即時的に抑制し、相反抑制を増強する効果がある事が示された。また自転車エルゴメーター駆動後、更に上肢の随意性促通訓練、巧緻性訓練等を連続して行う事は相乗効果を生み、訓練効果が期待できる可能性があると思われる。
著者
我妻 朋美 萩原 祐介 伏屋 洋志 菅野 麻希 高橋 美香 松元 秀次
出版者
日本医科大学医学会
雑誌
日本医科大学医学会雑誌 (ISSN:13498975)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.125-130, 2018-06-15 (Released:2018-08-08)
参考文献数
7

Background: We have observed that patients with restricted thumb opposition sometimes develop dysfunction of the intrinsic muscles around the metacarpal joint of the middle finger. Therefore, we developed a middle finger abduction exercise program which focuses on improvement of intrinsic muscle function during post-operative rehabilitation after thumb carpometacarpal arthroplasty. We report on the efficacy of the program herein.Methods: Three patients with Eaton stage III-IV thumb carpometacarpal arthritis were included in the study. The effects of the exercise program were recorded. Ultrasonography and surface electromyography were used to evaluate the effects of the exercise in two healthy volunteers.Results: Five minutes of exercise resulted in a 1- to 2-point improvement in the Kapandji opposition score, and a 1- to 3-cm improvement in thumb opposition to the base of the small finger. Ultrasonography and electromyography revealed that adductor pollicis, abductor pollicis brevis, opponens pollicis, and abductor digiti minimi contractions became more synchronous.Conclusion: Our middle finger abduction exercise program improves thumb opposition significantly. The program may be particularly useful for post-operative rehabilitation after thumb surgeries: thumb opposition can be improved without thumb motion, which can be painful in the early post-operative period.