著者
大歳 恒彦 塩見 哲也 戸村 健児 橋本 芳一
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.25, no.9, pp.620-625, 1976
被引用文献数
1 3

中性子放射化分析の多元素同時分析における標準試料の簡易調製法及び,その保存性について検討した.大気中浮遊粒子状物質の非破壊分析に用いる標準試料を例として,短寿命核種の11元素及び長寿命核種の24元素について,そのグルーピングによる調製の簡易化をはかるとともに,約半年間の期間における各々の単一元素標準溶液(単一標準液)及び多元素混合標準溶液(混合標準液)の保存性を調べた.その結果,i)混合標準液の保存性は単一標準液と差異が認められない.ii)22元素(銀,アルミニウム,金,バリウム,臭素,カルシウム,塩素,コバルト,クロム,セシウム,ユウロピウム,鉄,ガリウム,インジウム,カリウム,ナトリウム,ニッケル,スカンジウム,サマリウム,チタン,タングステン,亜鉛)については約6か月にわたって濃度が不変であった.iii)11元素(ヒ素,セリウム,銅,ハフニウム,ランタン,ルテチウム,マグネシウム,マンガン,セレン,トリウム,バナジウム)についてはわずかではあるが濃度が減少した.iv)アンチモンについては標準液の保存は不適当であることが結論された.又,混合溶液の使用によって,これまで標準溶液の調製に必要とした延べ人員約10人日の労働力が(2~3)人日に減少した.
著者
及川 真司 Song Sung-Jun 前山 健司 岸本 武士 戸村 健児 樋口 英雄
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.551-557, 2003-08-05
参考文献数
10
被引用文献数
4 8

海洋環境における放射能モニタリングに海産生物試料を応用することを視野に入れ,日本近海で採取したスルメイカ中に含まれる13元素(V, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru, Ag, Cd, Cs, Ba, Pb)を,前処理後,誘導結合プラズマ質量分析法によって定量する方法を検討した.このうち,放射能モニタリングを行う上で特に重要であると考えられる9元素(V, Mn, Fe, Co, Cu, Zn, Rb, Ag, Cd)については,中性子放射化分析法によって分析値を比較した.その結果,両者は誤差の範囲内で一致し,誘導結合プラズマに特有な分子イオン形成やマトリックス効果等の影響は見られず,誘導結合プラズマ質量分析法による定量値の妥当性を確認した.この方法で1996年に千葉・銚子沖で採取したスルメイカの可食部,骨部,胃,肝臓及びその他の部位に含まれる上記13元素を定量し,海水に含まれる標準的な濃度と比較することによって濃縮係数を算出した.定量した重金属元素のうち,Mn, Fe, Co, Cu, Ag, Cd及びPb等の肝臓への濃縮が顕著であることが分かった.また,同じ部位であってもZn, Rb及びCsは濃縮係数に差がほとんど見られなかった。一方,その他の元素は同じ部位であっても濃縮係数に差が見られた.本研究で得られた結果から,回遊性のスルメイカが海洋環境の重金属や放射能汚染のための環境影響評価に利用できる天然の指標生物になると考えている.