著者
及川 真司 渡部 輝久 高田 兵衛 鈴木 千吉 中原 元和 御園生 淳
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.455-474, 2013-06-05 (Released:2013-06-27)
参考文献数
31
被引用文献数
6 20 3

漁場環境の放射能モニタリングを主たる目的とし,昭和58年度(1983年度)に「海洋環境における放射能調査及び総合評価事業」が開始された.本事業の一環として,全国の原子力発電所の前面海域(計15海域)で海水,海底土及び海産生物を採取し,90Sr(海水のみ)や137Csなどの人工放射性核種の継続的な調査を行い,局所的な影響評価はもとより全国規模での評価を行う上で基礎となる調査結果を蓄積してきた.これまでの調査結果のうち海水に関しては,昭和61年に発生した旧ソ連邦チェルノブイリ原子力発電所事故の影響を受けて一部の海域で137Cs濃度の一時的な上昇が確認されたが,翌年には元の水準に戻り,それ以来137Csの物理的半減期(約30年)よりも短い12~20年の半減期で漸減傾向を続けてきた.またその水準は,福島第一原子力発電所事故前年では1~2 mBq L−1程度であった.事故後平成23年5~6月に全国で採取した海水試料のうち福島近傍海域に加え,北海道や新潟及び佐賀海域の表層海水に事故由来と考えられる放射性セシウムを検出している.一方,海水に含まれる90Srは137Csと同様な漸減傾向を示していたが事故以降の福島海域で近年にない値を観測したが,そのほかの海域では事故以前の水準と同様であった.海底土に含まれる137Cs濃度は同一海域であっても採取点間でばらつきが大きく,砂質の場合には検出されないことが多々あったが,調査開始以来,137Csの物理的半減期と同等かそれよりも若干速い漸減傾向を続けており,事故前の水準は,「検出されない」~8 Bq kg−1乾土程度であった.事故後の調査では,福島海域に加え宮城及び茨城海域で近年にない値を観測したがその他の海域では顕著な上昇は確認されていない.海産生物の可食部位(筋肉)に含まれる137Cs濃度は,浮魚あるいは底魚といった棲息域の違いによる差はみられず,魚食性の食物連鎖上高次なスズキやヒラメが比較的高く,イカ・タコ類で低い結果を得てきた.チェルノブイリ原子力発電所事故の影響として一部魚種(スズキ)で翌年あるいは翌々年に若干の濃度上昇を確認したが,それ以降,137Csの物理的半減期と同等かあるいは若干速い漸減傾向を続け,事故前年の水準は「検出されない」~0.24 Bq kg−1生鮮物程度を示していた.平成23年3月に発生した福島第一原子力発電所事故以降,海洋環境における放射能問題には強い関心が寄せられてきた.本稿では,昭和58年度から継続して得られた海洋環境放射能モニタリング結果の概要について報告し,これまでの海洋環境放射能水準の推移を示すとともに福島第一原子力発電所事故の影響の程度の概略を示した.
著者
磯山 直彦 及川 真司 御園生 淳 中原 元和 中村 良一 鈴木 奈緒子 吉野 美紀 鈴木 千吉 佐藤 肇 原 猛也
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.763-769, 2008 (Released:2008-11-07)
参考文献数
13
被引用文献数
2 4

For the purpose of marine environmental radioactivity monitoring, stable Cs and 137Cs concentrations were obtained from 214 marbled flounder (Pleuronectes yokohamae) samples collected from off the coast of Ibaraki prefecture in Japan in 2005 and 2006. Prior to the investigation, an analytical method for the determination of Cs in muscle of marbled flounder samples by inductively coupled plasma mass spectrometry (ICP-MS) was seriously considered from the view point of sample preparation (wet way) to a Cs measurement. Since major problems in determining Cs by the ICP-MS is the interference of matrix materials and molecular ions on Cs peak area (m/z 133), a known amount of In (m/z 115) was added to the sample solutions as an internal standard. To check the accuracy of the determination, duplication analysis and standard reference materials were used. Analytical results of Cs in muscles samples by ICP-MS agreed well with duplicated samples, and standard reference materials. The standard length and body weight were obtained from a total of 214 flounder samples. The stable Cs, stable K and 137Cs concentrations in muscle were determined by ICP-MS, flame photometry and radiochemical analysis, respectively. The mean standard length correlates closely with the mean body weight. The stable Cs concentration was in proportion to the body weight, also, the 137Cs concentration correlated closely with the stable Cs concentration in muscle. On the other hand, a stable K concentration was found to be uniform, and unrelated with 137Cs and stable Cs concentrations. The specific activities, the ratio of 137Cs/stable Cs in muscle, was found to be 5.5∼6.7 with an average of 6.2±0.35 (SD) among five different size groups of the standard length of marbled flounder samples. From these results, ICP-MS provided useful tools for the determination of a trace amount of Cs in muscle samples, combined with wet way pretreatment techniques. In addition, marbled flounder proved to be a useful species for comparing the radioactivity of fishes in coastal seas around Japan with each other in the environmental radioactivity monitoring program.
著者
御園生 淳 磯山 直彦 森薗 繁光 鈴木 千吉 及川 真司 藤井 誠二
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会 年会・大会予稿集 2009年春の年会
巻号頁・発行日
pp.702, 2009 (Released:2009-04-15)

平成18年度から下北沖合を主に海水の安定ヨウ素及びヨウ素129濃度を測定して来た。安定ヨウ素及びヨウ素129濃度のバックグラウンド濃度は、それぞれ、52μg/l、20~30nBq/l程度である。
著者
及川 真司 Song Sung-Jun 前山 健司 岸本 武士 戸村 健児 樋口 英雄
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.551-557, 2003-08-05
参考文献数
10
被引用文献数
4 8

海洋環境における放射能モニタリングに海産生物試料を応用することを視野に入れ,日本近海で採取したスルメイカ中に含まれる13元素(V, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru, Ag, Cd, Cs, Ba, Pb)を,前処理後,誘導結合プラズマ質量分析法によって定量する方法を検討した.このうち,放射能モニタリングを行う上で特に重要であると考えられる9元素(V, Mn, Fe, Co, Cu, Zn, Rb, Ag, Cd)については,中性子放射化分析法によって分析値を比較した.その結果,両者は誤差の範囲内で一致し,誘導結合プラズマに特有な分子イオン形成やマトリックス効果等の影響は見られず,誘導結合プラズマ質量分析法による定量値の妥当性を確認した.この方法で1996年に千葉・銚子沖で採取したスルメイカの可食部,骨部,胃,肝臓及びその他の部位に含まれる上記13元素を定量し,海水に含まれる標準的な濃度と比較することによって濃縮係数を算出した.定量した重金属元素のうち,Mn, Fe, Co, Cu, Ag, Cd及びPb等の肝臓への濃縮が顕著であることが分かった.また,同じ部位であってもZn, Rb及びCsは濃縮係数に差がほとんど見られなかった。一方,その他の元素は同じ部位であっても濃縮係数に差が見られた.本研究で得られた結果から,回遊性のスルメイカが海洋環境の重金属や放射能汚染のための環境影響評価に利用できる天然の指標生物になると考えている.