著者
戸渡 敏之 久野 雅彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D0692-D0692, 2005

【はじめに】糖尿病(以下DM)患者の運動療法においてwalkingを指導する機会は多い。当院では8日間の入院DM教室において、理学療法士が1回の講義と5回の運動療法の一種目としてwalkingを実施している。講義内容は運動療法の目的、注意点に加え、脈拍触診法、自覚的運動強度の説明などであり、運動強度の処方は個別に換気性作業閾値(VT)もしくはKarvonen法により算出した脈拍数の80~100%として設定している。またwalkingは病院敷地内に1周450mのコースを作成しており、カロリーカウンターを装着して実際に25分程度運動を体験してもらっている。そこで今回、今後の参考とする目的で、walking実施状況に関する実態調査を行い、若干の知見を得たので報告する。<BR>【対象と方法】平成12年5月~平成16年4月までのDM教室にてwalkingに3回以上参加し、コースを3周(1,350m)以上可能であった者136名(男性96名、女性40名、年齢55.1±12.6歳;以下平均±SD)を対象とした。調査方法はPT実施記録よりretrospectiveにデータを調べた。統計処理は、解析ソフトDr SPSS II for Windowsを使用し、有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】対象者の入院時HbA1cは、10.8±2.4%であり、DM発症から6.4±6.8年経過していた。合併症については、網膜症:35名(25.7%)、腎症:23名(16.9%)、神経障害:25名(18.4%)にみられた。walking実施回数は4.8±1.6回であり、歩行距離は1831.5±239.9mで、歩数は3075.7±423.4歩となっていた。また運動時間は27.3±4.1分であり、消費カロリーは102±26.7kcalであった。さらにwalking指導中に低血糖や胸痛発作はなかった。脈拍触診法については、可能97名(71.3%)、不能39名(28.7%)であり、触診可能群と不能群との比較では、年齢:可能群52.4±12歳、不能群61.9±11.6歳(p<.001)、発症からの期間:可能群5.3±6年、不能群8.9±8.1年(p<.05)、性別:可能群(男性74名、女性23名)、不能群(男性22名、女性17名)(p<.05)で有意差を認めた。そして処方脈拍数と実施脈拍数の差は、処方範囲内115名(84.6%)、超えた者15名(11%)、下回った者6名(4.4%)となっており、3群の比較で統計学的有意差はなかった。<BR>【考察】参加者に脈拍触診法を指導しているが、自己で触診できる者は約7割程度であり、残りの3割は脈拍により運動強度を判断することができなかった。触診ができないケースの特徴として、年齢が高く、罹患期間が長く、女性に多い傾向がみられており、触診能力を早期より把握し不能な場合、自覚的運動強度の指導を積極的に行う必要性が再認識された。また処方脈拍数との差異については、処方範囲内が約85%となっており、残りの約15%は適切な運動強度に達していないと考えられ、運動強度の指導方法を再検討する必要性が示唆された。
著者
鈴木 歩美 戸渡 敏之 赤津 嘉樹 鈴木 善幸 野本 恵司
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.23, pp.O044, 2007

【はじめに】破傷風は傷口から感染した破傷風菌の産生する神経毒素によって起こる重篤な中毒性感染症で、主症状は全身横紋筋の持続緊張・強直性痙攣などである。破傷風は潜伏期、第_I_期(前駆症状期)、第_II_期(開口障害から痙攣発症まで)、第_III_期(全身痙攣・後弓反張持続期)、第_IV_期(回復期)と分類される。第_II_期をonset timeと言い、この期間が48時間以内のものは重症で予後不良とされる。今回onset timeが6時間で致死率80%と推定され、且つ87歳という高齢にも関わらず、自宅退院となった症例の理学療法(以下PT)を担当したので報告する。<BR>【症例提示】】(学会発表に対し文書による同意を頂いた。)<BR>症例:87歳男性。主病名:破傷風。既往歴:特になし。<BR>現病歴:農作業中に右前腕挫傷し、1週後構音障害や嚥下障害認め、精査目的にて当院入院となった。翌日呼吸停止し経鼻挿管施行された。さらに自律神経障害による徐脈と頻脈出現し、一時的に体外式ペースメーカー挿入された。その後痙攣発作頻発し抗痙攣薬・筋弛緩薬を投与された。第18病日より状態安定しPT開始となった。<BR>【理学療法初期評価】意識レベルはJCS_III_‐200で、人工呼吸器管理中(SIMV+PS)であった。深部腱反射は上肢で亢進を認め、筋緊張は全体的に亢進していた。ROM‐Tは両肩関節・右肘関節・両足関節に制限があり、ADLはBarthel Index0点で全介助であった。<BR>【理学療法経過】排痰、ROM訓練よりPT開始し、第25病日よりギャッチアップ開始した。この時期には自律神経障害による血圧変動が見られた。第32病日より端座位開始したが、後弓反張強く後方へ転倒傾向があった。第35病日より車椅子乗車し離床を進め、第53病日より歩行訓練開始し、その後起居・歩行などの基本動作は向上し作業療法士(以下OT)によりトイレ動作・更衣動作訓練を進め、院内ADLほぼ自立となった。第129病日スピーチカニューレにて発語可能となり、言語聴覚士(以下ST)により発声・嚥下訓練などを進め、第157病日自宅退院となった。<BR>【理学療法最終評価】意識清明で精神機能は良好であった。ROM-Tは頚部・両肩関節に軽度制限を残した。MMTは全体で5レベルであり、深部腱反射は正常であった。ADLはBarthel Index100点となり基本動作は自立し、屋内外とも独歩にて移動可能となった。<BR>【考察】PTの留意点として、早期は随伴症状である自律神経障害や痙攣発作など不安定な全身状態に対するリスク管理や、病態の把握に必要な情報を聴取し慎重に対応することが必要であった。さらに回復期は、高齢と長期臥床の影響による二次的な筋力低下に加え、後弓反張による姿勢保持困難、筋緊張亢進によるROM制限とそれに伴う更衣動作困難や気管切開に伴う発声・摂食嚥下障害などが問題となり、OT・STなど他職種との連携による生活機能改善を目標としたアプローチが重要であった。
著者
戸渡 敏之 久野 雅彦 鈴木 歩美 天野 直樹 杉山 良信 平嶋 純代 赤津 嘉樹
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第23回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O021, 2007 (Released:2007-11-02)

【背景】勤労者を対象とした痛みに関する調査では、腰痛の有訴率は高く社会問題化されてきた。この対策として、中央労働災害防止協会において「職場における腰痛予防の推進について」が通達され、職業性腰痛予防への取り組みが実践されている。一方、我々理学療法士(以下、PT)も、対象者のトランスファー介助や中腰姿勢など腰部にストレスのかかる動作を行う機会も頻繁にあり、腰痛経験者も多いと推測されるが、不明な部分も多い。そこで今回PTに伴う腰痛に関する予備的調査を実施し、若干の知見を得たので報告する。【対象と方法】対象は、静岡県士会教育局研修部が平成18年度に開催した計3回の研修会参加者である。方法は、開始時に無記名式のアンケート調査票を配布し、終了時に回収した。調査内容は、年齢などの基礎データと腰痛に関する情報とした。【結果】有効回答数は138名であり、腰痛経験あり(以下、LBP+群):115名(83.3%)、腰痛経験なし(以下、LBP-群):23名(16.7%)であった。LBP+群では、就職後の腰痛経験は、就職後1年以内:83名(60.1%)、2年以内:17名(12.3%)、3年以内:4名(2.9%)であり、腰痛を感じる内容は、トランスファー:73名(52.9%)、立位訓練時:29名(21%)、座位訓練時:24名(17.4%)、歩行訓練時:18名(13%)などであった。PT業務との関連性に関しては、非常にある:26名(18.8%)、少しある:72名(52.2%)、ない:4名(2.9%)などであり、困難な動作については、1時間程度の座位:34名(24.6%)、立ち上がり:8名(5.8%)、中腰の姿勢:72名(52.2%)、立位の持続:40名(29%)、重量物の挙上61名(44.2%)であった。また全対象(n=138)において、平均年齢:26.4±5.3歳、性別:男性;79名(57.2%)女性;59名(42.8%)、腰痛体操の実施:34名(24.6%)、柔軟体操・ストレッチの実施:73名(52.9%)、筋力トレーニングの実施:36名(26.1%)、ボディメカニクスの利用:99名(71.7%)、装具着用:17名(12.3%)となっており、これらの項目でLBP+群とLBP-群間に有意差はなかった。【考察】調査結果では、PTの8割以上が腰痛を経験しており、その多くは就職後1年以内で発症し、7割以上がPT業務との関連性を感じていた。以上よりPTに伴う腰痛有訴率の高さを再認識し、各施設において新規採用PTを対象とした腰痛予防に関する労働衛生教育の実施、及び再発防止や自分の腰を守る為の自己管理を各自で実践していくことが対応策になると示唆される。さらに今後の課題として、快適な職場環境の構築に向けて電動ベッドやリフトの導入など個々の施設特性を考慮しながら、PTの身体的負担軽減を目標とした作業管理を模索していく必要がある。