著者
戸田 須恵子
出版者
北海道教育大学
雑誌
釧路論集 : 北海道教育大学釧路分校研究報告 (ISSN:02878216)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.101-108, 2005-10-30

本研究は、乳児が初語としてどのようなことばを発し、24ケ月までにことばをどれだけ獲得していくのかを明らかにすることを目的とした。27組(男児16名、女児11名)の母子の協力が得られた。縦断的方法によって、生後5ケ月から24ヶ月まで約2ケ月毎に家庭訪問をし、計10回の母子遊びを観察した。言語については、13ケ月から訪問時に母親から乳児の発語について聞いた。しかし、遊びで発したことばはデータに含まれていない。結果は、13ケ月から24ヶ月まで乳児はことばを獲得していき、18ヶ月以降の語彙獲得の増加は著しかった。最初の13ケ月時の調査で既に20語を獲得している乳児もおり、乳児はそれ以前に既にことばを獲得していることが推測された。13ヶ月〜24ケ月までに最も多く獲得した乳児の語数は470語で、反対に最も少ない語数は12語と、個人差が非常に大きいことが明らかになった。又、初語としては、パパ、ママのことばが一番多く、次いで、食べ物のマンマが多く、イナイイナイバー、イタイなどのことばも多く出ていた。さらに、24ケ月までに発語したことばを領域別に分類すると、乳児は、動詞・活勅語を最も多く獲得していることが明らかとなった。次いで、食べ物の名前が多く、そして質と属性のことぼか続いた。又、時間に関することばの出現は一番遅かった。時間に関することばは「あとで」ということばが多く、24ケ月までに時間に関することばが出ている乳児は11人であった。二語文については15ケ月頃から二語文が出ている乳児もいるが、一般には、20ケ月頃から発語する乳児が多かった。二語文が出始めると、三語文も出てくるようであった。言語が発達するにつれて、母子遊びはことばと行動を交えた遊びが加齢と共に展開していった。又、ことばの発達の個人差を見るために、4ケースについて検討した結果、母親のコミュニケーションと環境の重要性が示唆された。
著者
戸田 須恵子
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

幼児の仲間関係に影響を及ぼす親の諸要因を明らかにする為に、幼稚園へ通っている4歳以上の幼児を持つ両親へ研究への参加を求め、214名の母親と186名の父親から協力が得られた。仲間関係に影響する社会的行動(向社会的行動、攻撃的行動、引っ込み思案行動、情緒性、不安傾向/散漫性)については先生に評価してもらった。ソシオメトリー指名法は、親の反対によって中止された。親の養育態度は、権威的、権威主義的、許容的養育態度とその下位因子を因子分析によって抽出し、社会的行動との関係を見た。母親の権威主義的養育態度は、向社会的行動や自己主張と負の相関が見られ、父親の権威主義的養育態度は幼児の暴力/破壊的行動と正の相関が認められた。母親の権威主義的養育態度に影響を及ぼす要因としては、幼児の落ち着きのなさ、未熟な行動、頑固さといった性格が影響し、自分の不安・うつ的性格や暗い性格(感情的、不安定、不満ぽい、嫉妬深い、神経質等)も権威主義的養育態度を規定する要因であった。又、権威主義的養育態度を示す母親は、家族を喧嘩の多い、感情的でストレスのある家庭として見ていた。又、夫婦関係においても言い争いが多く、問題を無視・回避するといった態度が見られた。権威的養育態度を示す母親は、家族を調和のとれた理想的家族と見ており、夫婦関係においても相互に援助しあっている関係として捉えていた。このような母親の養育態度は、幼児の友好的性格や自分の明るい性格が影響していた。父親に関しても同様な傾向が見られた。又、両親の父母の養育態度の影響に関して見ると、父母が権威主義的養育態度であれば両親も権威主義的養育態度を示し、父母が権威的養育態度だった場合は、両親も権威的養育態度を示した。即ち、子どもに示す親の行動・態度は、親から娘、息子へと受け継がれ、彼らが親になった時、又同じ行動様式をとる事が明らかにされた。
著者
戸田 須恵子
出版者
北海道教育大学
雑誌
釧路論集 : 北海道教育大学釧路分校研究報告 (ISSN:02878216)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.59-69, 2006

母親の養育態度と幼児の自己制御機能及び社会的行動との関係を検討することを目的に、幼稚園に通っている母親を対象に研究への協力を求め、176名(男児86名,女児90名)の母親から研究への参加協力を得た。質問紙は、幼稚園を通して母親に配布された。質問紙は50項目からなり、因子分析の結果、7因子が抽出された(受容/子ども中心主義、統制/専制的、一貫性のないしつけ、服従的、過保護、甘やかし、放任)。幼児の自己制御機能及び社会的行動に関しては、幼稚園の先生に評価してもらった。自己制御機能については、因子分析の結果、自己主張と自己抑制の2因子が抽出され、社会的行動については因子分析の結果、思いやり行動と攻撃的行動の2因子が抽出された。母親の養育態度と幼児の制御機能との関係では、自己主張と母親の養育態度、服従的、過保護、甘やかしに負の関係が認められた。又、思いやり行動と過保護と負の関係が認められた。さらに、幼児の制御機能や社会的行動に影響を及ぼす母親の養育態度について重回帰分析を行ったところ、幼児の自己主張にマイナスの影響を与えていたのは、母親の養育態度の中で、過保護と甘やかしであった。又、思いやり行動に影響を与えている養育態度は、過保護であった。これらの結果は、母親が幼児を育てる過程で、自己主張や思いやり行動を育てるには、過保護や甘やかしといった行き過ぎた母親の養育行動がマイナスの影響を及ぼしていることを示唆している。どのような育て方をすれば、幼児の自己主張や向社会的行動が育てられるのか、さらに継続して検討していくことが必要である。
著者
戸田 須恵子
出版者
北海道教育大学
雑誌
釧路論集 : 北海道教育大学釧路分校研究報告 (ISSN:02878216)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.57-64, 2004-11-30

母子相互作用における認知の発達(言語・遊び)を生後5ヶ月から2歳まで縦断的研究をするため、第1子を持つ母親へ研究協力を求め、27組の母子が参加した(男児16名,女児11名)。本研究は、5ヶ月児への母親の反応、乳児の注意、親の役割に関する自己意識に焦点を当てそれらの関係を検討した。乳児が5ヶ月に達した時、家庭訪問を行い1時間の日常生活場面と母子遊び、一人遊びを30分観察した。日常生活場面では乳児行動と母親の反応について頻度数を分析し、母子遊びでは乳児の注意を1秒単位でマイクロ分析を行った。さらに、質問紙によって親となる事や子育て観に関する情報を得た。結果は、乳児は観察中ネガティブな声を出すことが多く、母親の反応については、社会的反応や養育的反応が多く見られた。乳児の注意については、おもちやを見たり、母親の手元を見る時間が多かったが、周りを見る時間が最も多かった。男児はおもちゃを見ている時間が女児より長く、女児は母親との共同注意が男児より長かった。又、母親の反応との関係を見たところ、全体的には有意な関係は認められなかったが、男女差が見られた。男児においては、母親がネガティブな声に反応する事と乳児のおもちゃへの注意と正の相関が認められ、母親の声への模倣と母子遊びで母親に注意を向けることと正の相関が認められた。女児においては、ネガティブでない声への反応と母子遊びで母を見る事と負の相関が認められた。母親の役割に関する自己意識の結果は、親になる事において男女差が認められ、女児を持つ母親ほど親になった事に満足していた。又、男児において子育てについての自信・満足感と母親の養育的反応との間に負の相関が認められた。即ち、子育てに自信のない男児の母親ほど乳児行動に対して養育的行動で応えていることが明らかとなった。これらの結果はさらに、詳細な検討が必要である。