著者
戸谷 智明 鈴木 健 藤井 義晴
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.373-379, 2020 (Released:2020-12-31)
参考文献数
16
被引用文献数
2

ニホンナシでは前作樹の残根がいや地現象の発生要因であるかが明らかになっていない.そこで,本研究ではニホンナシ根を混和した土壌のいや地リスクの経時変化に加え,根を混和した土壌に定植したニホンナシ1年生苗木の樹体生育への影響を調査した.まず,ニホンナシ未植栽土壌にニホンナシの生根もしくは乾燥根を混和した区を設け,土壌をニホンナシのいや地リスクを評価できる根圏土壌アッセイ法を用いて経時的に測定した.その結果,ニホンナシでは根の乾燥条件にかかわらず,土壌の阻害率は根を混和しない区と差がなく,根の分解過程では生育阻害物質が放出されない可能性が高いことが示唆された.次に,ニホンナシ未植栽土壌にニホンナシ乾燥根を混和し,ニホンナシ1年生苗木を定植した区を設け,根を混和していないニホンナシ未植栽土壌やいや地現象が発現する連作土に定植した区と樹体生育を比較した.その結果,連作土区では樹体生育が抑制されたが,根を混和した区の生育は混和していない区と同様に抑制されなかった.以上の結果から,ニホンナシでは,土壌への根の混和は,いや地現象の発生要因ではない可能性が高いことが明らかになった.一方で,ニホンナシ1年生苗木をニホンナシ未植栽土壌に定植後,土壌を根圏土壌アッセイ法で経時的に測定した結果,樹の生育が進むに従い土壌の阻害率が上昇した.これらのことから,ニホンナシでは樹が生育する過程で根から生育阻害物質が分泌され,土壌に蓄積されることでいや地現象が発現する可能性があることが示唆された.