著者
河野 美江 執行 三佳 武田 美輪子 折橋 洋介 大草 亘孝 川島 渉 布施 泰子
出版者
全国大学メンタルヘルス学会
雑誌
大学のメンタルヘルス (ISSN:24332615)
巻号頁・発行日
no.2, pp.82-89, 2018-10

近年、大学生の性暴力事件が報道されているが、実際は大学相談機関に被害者が相談に来ることは少なく、被害者が安心して支援を求められる体制整備は喫緊の課題である。今回我々は、大学における性暴力被害者に対する支援や性暴力に対する予防教育の必要性を明らかにすることを目的に、大学生における性暴力被害の実態と性暴力に関連する知識を調査し、性暴力被害経験と精神健康度との関連について検討した。 対象と方法:機縁法にて協力の得られた10大学20歳以上の大学生3,357人に無記名・自記式のアンケート調査を実施、有効回答の得られた643部を分析対象とした(回収率19.6%)。結果:レイプ未遂は7.8%(男子3.1%、女子9.7%)、レイプ既遂は2.6%(男子1.6%、女子3.1%)、何らかの性暴力被害経験は42.5%にあった。緊急避妊ピルについての知識は60.0%にあったものの、性暴力救援センターについては13.7%であった。また、性暴力被害経験のある学生のGHQ 得点は4.2±3.2点と被害経験のない学生に比べ有意に高く(p<0.001)、被害強度、被害重複数と弱い相関が認められ(p<0.001)、重度の被害ではメンタルヘルスに深刻な影響をもたらすことがわかった。 以上より、大学生に対して、性暴力に対する予防教育を行うと共に、大学の相談機関における性暴力被害者に対する支援方法の確立が急務と考えられた。
著者
折橋 洋介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は死因調査に関する法的仕組みの構造的な把握を進めた。このことは死因調査に関する情報が法医解剖情報のデータベース化等により利活用されるための前提となる理論的基礎を提示することに資するものである。具体的には、死体解剖保存法や刑事訴訟法などに基づく各種の解剖・検視・検案が、行政各部においていかなる目的のもとにどのような仕組みをもって運用されているかについて整理・検討するとともに、現行法制度の形成に至る歴史的な経緯について調査した。明治期の刑法制定過程と現代の法医学につながる裁判医学の成立過程の関係からは国家による死因調査の対外的な要請も垣間見られ、また昭和の初期においては医学教育研究の進展に伴う死体解剖の構造的な変革を伴った社会的要請が行政による死因調査に大きくのしかかってきていたのではないかという仮説を持つにいたった。これら史的調査によって浮かび上がってきた課題をここに集約すれば、「なぜ行政が死因調査を担うのか」という観点からの再検討の必要性であり、かつ、この議論の成熟化の要請である。とくに第二次大戦後、検視規則と死体取扱規則によってある種の整理をみたと考えられた行政上の死因調査の枠組みも、その根源的な目的についての議論の成熟化をみないままになされたと考えられるふしがあり、そうしたことが司法検視と行政検視の後付けによる振り分け等、現行制度に内在的な問題を生じさせている一因であると考えられた。こんにちの死因調査法制の整備にあたっては、行政による死因調査の目的に対する議論の成熟化がより一層求められるものと考えるが、本研究はそうした議論の一助となるものと思われる。