著者
折茂 慎一
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、制御ミリングプロセスにより炭素系材料(特にグラファイト)に対して高濃度の欠陥構造を導入し、水素を高効率で貯蔵・輸送するための新規な炭素系材料の設計指針を得ることを目的とする。これまで得られた研究成果(即ち、欠陥構造の導入過程では高密度の刃状転位が観察できるとともにσ^*結合の減衰などの電子構造変調も確認できたこと、この欠陥構造の発達に伴って水素貯蔵機能が増大してCH_<0.95>にも達すること、さらには「弱い化学吸着状態」も含めた少なくとも2種類の水素貯蔵サイトがあること、など)をもとにして、さらに詳細かつ実用性を視野に入れた研究も進めた。その結果、水素放出特性を調べるための昇温脱離質量数分析では、水素の放出反応が600K及び950Kから始まるふたつのピークをもって進行することが解明された。重要な知見は、この第1ピークがカーボンナノチューブに代表される毛細管(キャピラリー)を有した炭素系材料からの水素放出と同様の温度である、ということである。第2ピークは、試料の再結晶化に関係していることも見出された。すなわち、この第2ピークの温度以下では、試料中には水素貯蔵に適した欠陥構造が維持されていると考えられる。また、グラファイト以外の類似の物質系として六方晶窒化ホウ素(h-BN)を選定したところ、最大水素量はグラファイトの場合の約35%にとどまるなど、水素貯蔵機能が「局所」電子構造の相違に起因することなども新たに判明した。これら成果は、次世代水素貯蔵媒体としての新規な炭素系材料を開発するための設計指針として、国内外で注目されている。