著者
縄田 寿克 白石 一乗 松本 真里 押村 光雄 児玉 靖司
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2007 (Released:2007-10-20)

【緒言】 放射線が被曝した生存細胞の子孫に遅延性染色体異常を誘発することはよく知られている。そこで本研究は、被ばくした1本のヒト染色体を被ばくしていないマウス受容細胞に移入する手法を用いて、被ばく染色体が遅延性染色体異常誘発にどのような役割を果たすのかを明らかにすることを目的として行った。 【材料と方法】 遅延性染色体異常誘発に被ばく染色体が果たす役割を知るために、軟X線により4Gyを照射したヒト6番、及び8番染色体を被ばくしていないマウス不死化細胞に微小核融合法を用いて移入した。その後、微小核融合細胞における移入ヒト染色体の安定性を、ヒト染色体に特異的な蛍光DNAプローブを用いた蛍光着色法により解析した。 【結果と考察】 被ばくしていないヒト6番、及び8番染色体を移入した微小核融合細胞では、染色体移入後のヒト染色体の構造異常は全く見られなかった。このことは染色体移入過程で染色体構造が不安定化することはないことを示している。しかし、被ばくしていないヒト8番染色体を移入した5種の微小核融合細胞では、3種で8番染色体のコピー数が倍加していた。同様の変化は被ばくヒト8番染色体を移入した4種の微小核融合細胞のうち3種でも見られた。この結果は、ヒト8番染色体は数的変化を起こしやすいこと、さらに、放射線被ばくはこの変化に関与しないことを示唆している。一方、被ばくヒト6番染色体を移入した5種の微小核融合細胞では、4種において移入後に2~7種類の染色体異常が生じていた。これに対して、被ばくヒト8番染色体を移入した4種の微小核融合細胞では、移入後に2種類以上の染色体異常が生じていたのは1種のみであった。以上の結果は、被ばくヒト染色体が遅延性染色体異常誘発の引き金を担っていること、さらに、放射線による遅延性染色体異常誘発効果はヒト6番染色体と8番染色体では異なることを示唆している。
著者
押村 光雄 久郷 裕之 清水 素行
出版者
鳥取大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1991

ヒト膀胱がんのがん抑制染色体の同定を目的としてpSV2neo遺伝子で標識した正常ヒト線維芽細胞由来の7,9,11,12番染色体を微小核融合法によりヒト膀胱がん細胞株H-15細胞に移入した。11番染色体移入クロ-ンでは,5回の移入実験によって得られた20クロ-ンにおいては,細胞形態の顕著は変化(Flat)が認められ,そのうち15クロ-ンは早期の段階で老死化した。残る5クロ-ンは,Flatな細胞と親細胞と同様な形態を示す細胞とが混在していた。また,7,9,12番染色体導入クロ-ンの細胞形態は親細胞と同様の形態と増殖速度を示し,クロ-ニング後も老死化することはなかった。現在までに,細胞老死化にかかわる遺伝子はヒト1番および4番染色体に存在することを示す報告がなされているが,上述の結果は,細胞老化にかかわる遺伝子がヒト11番染色体上にも存在することを示す。放射線照射により断片化したヒト3番染色体をヒト腎細胞がん細胞株RCC23に導入した。その結果,D3S22〜H3S30領域(3p25)およびD3F15S2〜D3S30領域(3p21)を含む染色体を導入した場合において,細胞形態の変化ならびに細胞増殖速度の低下が認められ,これらの領域にRCC23細胞の腫瘍形質抑制にかかわる遺伝子(群)の存在が示された。この領域は,ヒト腎細胞がんにみられる特異的染色体欠失領域であった。Kirsten肉腫ウイルス形質転換NIH3T3(DT)細胞の増殖抑制にかかわる遺伝子は1qcenー1q25に存在することが示されているが,RTーAluーPCR法により,この領域に存在し,発現されているDNA断片を2クロ-ン得た。このクロ-ンをプロ-ブとして,コスミッドクロ-ンのスクリ-ニングを行う予定である。