著者
鈴木 啓司 児玉 靖司 渡邉 正己
出版者
日本環境変異原学会
雑誌
環境変異原研究 (ISSN:09100865)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.111-115, 2005 (Released:2005-12-26)
参考文献数
29

Ionizing radiation induces genomic instability, which is transmitted through many generations after irradiation in the progeny of surviving cells. We have hypothesized that radiation-induced large deletion causes potentially unstable chromosome regions, which are involved in delayed induction of radiation-induced genomic instability. Using phosphorylation-specific antibodies against ATM and histone H2AX, whose phosphorylation is induced by DNA double strand breaks, we detected delayed induction of phosphorylated ATM and H2AX foci in the progeny of X-ray-surviving cells, which indicated delayed induction of DNA double strand breaks. Furthermore, we found delayed chromosomal instability in X chromosomes in clones which contain large deletion involving the HPRT loci. It is suggested that large deletion involving —Mb region causes unstable chromatin structure, and it results in delayed rearrangement of chromosomes involved. These findings provide the possibility that manifestation of radiation-induced genomic instability results from delayed DNA breaks, i.e., the breaks lead to delayed chromosome rearrangements, delayed cell death etc., many generations after irradiation.
著者
児玉 靖司 鈴木 啓司 渡邊 正己
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

放射線被曝後の生存細胞に、遅延性に染色体異常が誘導されることが知られている。本研究は、放射線による遅延型染色体異常の形成に、テロメア不安定化が関与するという仮説について検証するものである。まず、ヒト正常細胞を用いて、放射線誘発遅延型染色体異常に対する酸素濃度の影響を調べた。通常20%の酸素分圧を、1/10の2%に低下させることにより、放射線による遅延型染色体異常は、約65%減少することが明らかになった。このことは、放射線被曝後の酸素ストレスが遅延型染色体異常形成に関与していることを示している。次に、scidマウス細胞にみられるDNA二重鎖切断の修復欠損が、放射線誘発遅延型染色体異常にどの様な影響を及ぼすかについて調べた。その結果、scid突然変異は、自然発生および放射線誘発遅延型染色体異常の頻度を増加させることが明らかになった。この結果は、scidマウス細胞で欠損している非相同末端結合修復が、自然発生および放射線誘発遺伝的不安定性を抑制していることを示唆している。次に、テロメア不安定化について、テロメアFISH法により調べたところ、放射線照射によりテロメア不安定化が促進され、テロメア構造が残存した状態で2つの染色体が融合する染色体異常が増加することが分かった。さらに、scidマウス細胞で欠損しているDNA依存的プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs)が、テロメアの安定維持に寄与していることが示唆された。以上の結果を踏まえて、放射線による遅延型染色体異常の誘発メカニズムについて、次のモデルを提唱する。すなわち、放射線被曝した細胞にテロメア不安定化が誘発され、テロメア融合(fusion)-架橋形成(bridge)-染色体切断(breakage)と続く一連のFBBサイクルが誘起されることにより、遺伝的不安定性が持続的に生じ、遅延型染色体異常が形成される。
著者
縄田 寿克 白石 一乗 松本 真里 押村 光雄 児玉 靖司
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2007 (Released:2007-10-20)

【緒言】 放射線が被曝した生存細胞の子孫に遅延性染色体異常を誘発することはよく知られている。そこで本研究は、被ばくした1本のヒト染色体を被ばくしていないマウス受容細胞に移入する手法を用いて、被ばく染色体が遅延性染色体異常誘発にどのような役割を果たすのかを明らかにすることを目的として行った。 【材料と方法】 遅延性染色体異常誘発に被ばく染色体が果たす役割を知るために、軟X線により4Gyを照射したヒト6番、及び8番染色体を被ばくしていないマウス不死化細胞に微小核融合法を用いて移入した。その後、微小核融合細胞における移入ヒト染色体の安定性を、ヒト染色体に特異的な蛍光DNAプローブを用いた蛍光着色法により解析した。 【結果と考察】 被ばくしていないヒト6番、及び8番染色体を移入した微小核融合細胞では、染色体移入後のヒト染色体の構造異常は全く見られなかった。このことは染色体移入過程で染色体構造が不安定化することはないことを示している。しかし、被ばくしていないヒト8番染色体を移入した5種の微小核融合細胞では、3種で8番染色体のコピー数が倍加していた。同様の変化は被ばくヒト8番染色体を移入した4種の微小核融合細胞のうち3種でも見られた。この結果は、ヒト8番染色体は数的変化を起こしやすいこと、さらに、放射線被ばくはこの変化に関与しないことを示唆している。一方、被ばくヒト6番染色体を移入した5種の微小核融合細胞では、4種において移入後に2~7種類の染色体異常が生じていた。これに対して、被ばくヒト8番染色体を移入した4種の微小核融合細胞では、移入後に2種類以上の染色体異常が生じていたのは1種のみであった。以上の結果は、被ばくヒト染色体が遅延性染色体異常誘発の引き金を担っていること、さらに、放射線による遅延性染色体異常誘発効果はヒト6番染色体と8番染色体では異なることを示唆している。
著者
鈴木 啓司 児玉 靖司 渡邉 正己
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.126, no.10, pp.859-867, 2006-10-01 (Released:2006-10-01)
参考文献数
48
被引用文献数
6 6

Accumulated evidence has shown that exposure to low-dose radiation, especially doses less than 0.1 Gy, induces observable effects on mammalian cells. However, the underlying molecular mechanisms have not yet been clarified. Recently, it has been shown that low-dose radiation stimulates growth factor receptor, which results in a sequential activation of the mitogen-activated protein kinase pathway. In addition to the activation of the membrane-bound pathways, it is becoming evident that nuclear pathways are also activated by low-dose radiation. Ionizing radiation has detrimental effects on chromatin structure, since radiation-induced DNA double-strand breaks result in discontinuity of nucleosomes. Recently, it has been shown that ATM protein, the product of the ATM gene mutated in ataxia-telangiectasia, recognizes alteration in the chromatin structure, and it is activated through intermolecular autophosphorylation at serine 1981. Using antibodies against phosphorylated ATM, we found that the activated and phosphorylated ATM protein is detected as discrete foci in the nucleus between doses of 10 mGy and 1 Gy. Interestingly, the size of the foci induced by low-dose radiation was equivalent to the foci induced by high-dose radiation. These results indicate that the initial signal is amplified through foci growth, and cells evolve a system by which they can respond to a small number of DNA double-strand breaks. From these results, it can be concluded that low-dose radiation is sensed both in the membrane and in the nucleus, and activation of multiple signal transduction pathways could be involved in manifestations of low-dose effects.
著者
渡邉 正己 児玉 靖司 鈴木 啓司
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

我々は、これまでにX線あるいはγ線照射された哺乳類細胞に室温で20時間程度の寿命を持つ超寿命ラジカル(LLR ; Long Lived Radical)が生ずることをESRによるラジカル解析によって発見した。さらに、LLRは、放射線被曝後数十分から数十時間後に5mM程度のビタミンCで2時間処理することによって完全に消失することがわかった。活性の高いOHやO_2^-ラジカルの革命は200ナノ秒以下であるので、ビタミンC処理で捕捉されるラジカルは、LLRであると考えられる。LLRの消失に伴って細胞突然変異や細胞がん化誘導は抑制されるが、染色体異常や細胞死誘導を抑制することは出来ない。システアミンやDMSO処理でOHやO_2^-ラジカルを消去することで細胞死や染色体異常誘導を抑制することができるが、細胞突然変異や細胞がん化誘導を抑制することはできない。これらのことから、我々は、LLRこそが放射線による細胞の突然変異と細胞がん化の主因であると結論している。さらに、電子スピン共鳴解析法による解析から、LLRは、細胞内の疎水性のバイオポリマー部位で、恐らくDNAや脂質でなく、システインなどのスルフィニル基に年じていることなどが明らかになった。これら一連の結果は、これまで放射線生物学的に信じられてきた"放射線突然変異や発がんの原因は活性が高い酸素ラジカル種(ROS)がDNAや染色体を破壊することである"という予想を覆すものであり、ヒトにおける突然変異や発がんがタンパク質に生じた変異を起源とするという極めて新しく放射線の遺伝影響の本体を知るために極めて重要な知見である。
著者
菓子野 元郎 漆原 あゆみ 児玉 靖司 小林 純也 劉 勇 鈴木 実 増永 慎一郎 木梨 友子 渡邉 正己 小野 公二
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.209, 2008 (Released:2008-10-15)

我々は、DMSOによる放射線防護効果が、放射線による間接作用の抑制ではなく、DNA-PK依存的なDNA二重鎖切断修復の活性化によりもたらされているという仮説の検証を行った。細胞は、マウス由来細胞のCB09、及びそのDNA-PKcsを欠損するSD01を用いた。DMSOの濃度は、1時間処理しても細胞毒性がなく、放射線防護効果が大きく現れる2% (256 mM)とした。DMSO処理のタイミングは、照射前から1時間とし、照射直後にDMSOを除いた。放射線防護効果については、コロニー形成法による生存率試験及び微小核試験法を用いて調べた。DMSO処理細胞により放射線防護効果が現れることが、CB09細胞の生存率試験により分かった。微小核試験においても、同処理により、微小核保持細胞頻度が有意に抑制された。これに対して、DNA-PKcs欠損細胞(SD01)では、同処理による放射線防護効果がほとんど見られなかった。DNA-PKの有無がDMSOによる防護効果の機構に関わる可能性が考えられるので、照射15分後から2時間後までDNA二重鎖切断修復の効率を解析した。その結果、DNA二重鎖切断部位を反映すると考えられる53BP1のフォーカスの数は、照射15分後ではDMSO処理により約10%減っていた。これに対し、照射2時間後ではDMSO処理により約30%のフォーカス数の減少が見られ、照射15分後よりも2時間後に残存するDNA二重鎖切断の方が、DMSO処理により大きく軽減されることが分かった。これらの結果は、放射線照射により誘発されたDNA二重鎖切断生成がDMSOにより抑制されるわけではなく、照射直後からスタートするDNA-PKcsに依存したDNA二重鎖切断修復機構がDMSOの照射前処理により効率よく行われている可能性を示唆している。
著者
鈴木 啓司 児玉 靖司 渡邉 正己
出版者
日本環境変異原学会
雑誌
環境変異原研究 (ISSN:09100865)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.111-115, 2005-07-31

Ionizing radiation induces genomic instability, which is transmitted through many generations after irradiation in the progeny of surviving cells. We have hypothesized that radiation-induced large deletion causes potentially unstable chromosome regions, which are involved in delayed induction of radiation-induced genomic instability. Using phosphorylation-specific antibodies against ATM and histone H2AX, whose phosphorylation is induced by DNA double strand breaks, we detected delayed induction of phosphorylated ATM and H2AX foci in the progeny of X-ray-surviving cells, which indicated delayed induction of DNA double strand breaks. Furthermore, we found delayed chromosomal instability in X chromosomes in clones which contain large deletion involving the HPRT loci. It is suggested that large deletion involving ~Mb region causes unstable chromatin structure, and it results in delayed rearrangement of chromosomes involved. These findings provide the possibility that manifestation of radiation-induced genomic instability results from delayed DNA breaks, i.e., the breaks lead to delayed chromosome rearrangements, delayed cell death etc., many generations after irradiation.
著者
村山 尚 児玉 靖司 原田 賢一
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.7-8, 1996-03-06

プログラミング言語は、型付き言語と型無しの言語に、大別できる。型付き言語は,静的型検査によって型誤りを起こさないことが保証される強く型付けされた言語、型誤りを起こす可能性のあるプログラムも型検査に合格してしまう弱く型付けされた言語とに分けられる。強く型付けされた言語では,型に関して安全で,信頼性の高いプログラムを作ることが可能である。型無しの言語では,型を明示的に指定する必要がないので,プログラムが簡潔に記述でき、変更などに対しても柔軟に対応できる。 強く型付けされた言語と型無しの言語の両方の長所を実現するために,型推論が考案された。型推論とは,プログラム中に現われる,非明示的な型に関する情報を使って,式の持ち得る型を厳密な推論規則によって、決定することである。型推論を行うことにより、明示的に型を指定しなくても,強い型検査を行うことができ,実行時の型誤りが起きないことが保証できる。