著者
小倉 啓司 小穴 孝夫
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.257, 2007 (Released:2007-10-20)

我々はショウジョウバエに低線量・低線量率の電離放射線を照射すると非照射に比べて突然変異の頻度が低くなることがあることを報告してきた。ショウジョウバエの未成熟精子を持つ胚に60Coを線源とし、500µGyのガンマ線を1.5分間でショウジョウバエの未成熟精子に照射し、伴性劣性致死突然変異法によって遺伝的影響を観察した。この放射線量ではDNAの二重鎖切断やそれに伴うDNAの修復はほとんど起きないと言われているが、子孫における伴性劣性致死頻度が自然突然変異頻度(0.3%程度)より有意に低下し、約0.1%であった(P<0.05)ことを昨年度報告した。この現象がどのようにして起きるのかを調べるために、この低線量刺激効果が観察できなくなる線量を調べることにした。本発表では40µGyのガンマ線を1.5分間で照射を行うと伴性劣性致死突然変異の頻度が0.29%とほぼ非照射のレベルに戻り(P=0.86)、500µGyのガンマ線照射を受けたときの突然変異率よりも変異率が有意に増加する(P<0.01)ことを報告する。さらに、500µGyのガンマ線照射を受けたショウジョウバエの胚で発現量が変動するdefense response関連の遺伝子群やアポトーシス関連遺伝子について報告する。
著者
縄田 寿克 白石 一乗 松本 真里 押村 光雄 児玉 靖司
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2007 (Released:2007-10-20)

【緒言】 放射線が被曝した生存細胞の子孫に遅延性染色体異常を誘発することはよく知られている。そこで本研究は、被ばくした1本のヒト染色体を被ばくしていないマウス受容細胞に移入する手法を用いて、被ばく染色体が遅延性染色体異常誘発にどのような役割を果たすのかを明らかにすることを目的として行った。 【材料と方法】 遅延性染色体異常誘発に被ばく染色体が果たす役割を知るために、軟X線により4Gyを照射したヒト6番、及び8番染色体を被ばくしていないマウス不死化細胞に微小核融合法を用いて移入した。その後、微小核融合細胞における移入ヒト染色体の安定性を、ヒト染色体に特異的な蛍光DNAプローブを用いた蛍光着色法により解析した。 【結果と考察】 被ばくしていないヒト6番、及び8番染色体を移入した微小核融合細胞では、染色体移入後のヒト染色体の構造異常は全く見られなかった。このことは染色体移入過程で染色体構造が不安定化することはないことを示している。しかし、被ばくしていないヒト8番染色体を移入した5種の微小核融合細胞では、3種で8番染色体のコピー数が倍加していた。同様の変化は被ばくヒト8番染色体を移入した4種の微小核融合細胞のうち3種でも見られた。この結果は、ヒト8番染色体は数的変化を起こしやすいこと、さらに、放射線被ばくはこの変化に関与しないことを示唆している。一方、被ばくヒト6番染色体を移入した5種の微小核融合細胞では、4種において移入後に2~7種類の染色体異常が生じていた。これに対して、被ばくヒト8番染色体を移入した4種の微小核融合細胞では、移入後に2種類以上の染色体異常が生じていたのは1種のみであった。以上の結果は、被ばくヒト染色体が遅延性染色体異常誘発の引き金を担っていること、さらに、放射線による遅延性染色体異常誘発効果はヒト6番染色体と8番染色体では異なることを示唆している。
著者
小林 憲正
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.21, 2007 (Released:2007-10-20)

生命の誕生に必要な有機物の生成の場としては原始惑星大気や星間環境が考えられる。特に,星間で生成した有機物は隕石や彗星により原始地球に届けられたと考えられ,その役割が注目されている。われわれは原始惑星や星間を模した環境下で,高エネルギー粒子線などの放射線による有機物の生成や変成について実験を行っている。隕石や彗星中にみられる有機物は,元来,分子雲中の星間塵中で生成したと考えられる。そのシミュレーションには,紫外線照射が使われることが多いが,宇宙線の効果が重要であると考えられる。そこで,(1)一酸化炭素・アンモニア・水(気相・固相)への陽子線照射,(2)メタノール・アンモニア・水(液相・固相)への重粒子線照射を行った。いずれの実験においても分子量数千の複雑な有機物が生成するが,その酸加水分解により種々のアミノ酸等を生じることがわかった。これは,宇宙線により高分子状の複雑な構造を有するアミノ酸前駆体がすでに生成していることが強く示唆される。この複雑有機物態のアミノ酸は,遊離アミノ酸と比べて放射線や熱に対して安定である。これらは,星間で紫外線や熱などによる変成を受けたと考えられる。模擬実験で生成した有機物の変成実験を行い,隕石中にみられる有機物との相関を調べる実験を計画中である。星間での有機物の生成や変成を調べるためには,実際の宇宙環境下での実験が有効と考えられる。現在,宇宙ステーション曝露部を用いた宇宙線や極端紫外光を用いた有機物の生成・変成実験や,惑星間塵の捕捉実験を計画中である。
著者
菓子野 元郎 鈴木 実 木梨 友子 増永 慎一郎 小野 公二 渡邉 正己
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.231, 2007 (Released:2007-10-20)

放射線照射された細胞では、活性酸素種などの短寿命ラジカルが大量に生成し、それらがDNA損傷をはじめとする様々な障害を誘発すると考えられている。DMSOは、照射に伴い生成するヒドロキシラジカルを軽減させ、放射線防護効果を示すと理解されているが、DMSOの作用は多岐に渡るので、DMSO処理細胞が如何にして放射線防護作用を示すのかは、依然、不明な点が多く残されている。そこで我々は、細胞毒性と酸化ストレス抑制作用をほとんど示さない0.5% DMSOで処理された細胞の放射線防護効果について検討を行った。その結果、0.5%DMSOで処理されたCHO細胞は、放射線により誘発する微小核生成が抑制され、生存率の上昇が見られた。しかし、興味深いことに、Ku80を欠損し非相同末端結合能に異常を持ち放射線高感受性を示すxrs5細胞では、同様のDMSO処理により放射線防護効果が見られなかった。DNA-PKcs欠損マウス(Scid)細胞でも、DMSO処理による防護効果は見られなかった。このことは、DMSOによる放射線防護効果が、DNA二重鎖切断修復機構と関連していることを示唆している。さらに、DNA二重鎖切断部位を反映すると考えられる53BP1のフォーカス形成を調べたところ、照射15分後における53BP1フォーカス数は、0.5%DMSO処理細胞と未処理細胞で変わらなかった。一方、照射1時間後から2時間後にかけて、DSBの修復に伴う53BP1フォーカスの消失が見られたが、0.5%DMSO処理細胞の方が未処理細胞に比べ、その消失速度が早いことがわかった。これらの結果は、DMSOによる放射線防護効果が細胞内活性酸素種の軽減効果に起因するものではなく、非相同末端結合修復をはじめとするDNA二重鎖切断修復機能の活性化に起因している可能性を示唆する。
著者
大津山 彰 岡崎 龍史 法村 俊之
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2007 (Released:2007-10-20)

p53遺伝子野生マウスでは、p53依存ならびに非依存性修復能により損傷DNAの修復が行われ、修復不能損傷はp53依存アポトーシスによって細胞ごと排除され、放射線催奇形の実験では低線量放射線(LDR)域でほぼ完全に奇形発生が抑えられる。一方p53遺伝子KOマウスではp53非依存性の修復しか働かず、LDR照射であっても奇形発生は完全に押さえられない。このp53による生体防御機構の一端は放射線での奇形発生のみならず、発がんにも関与すると考えられる。もし野生マウスで、LDR照射でがんが発生せず、KOマウスで高率に生じるとすれば、放射線発がんで常に問題となるしきい値存在の有無がこの機構によって解釈できる。p53遺伝子が野生、ヘテロ、KOマウスの背部皮膚を円盤型β線線源(15Gy/min.)で週3回反復照射をマウスの生涯に渡り行った。実験群は各マウス1 回当り照射線量2.5Gy群と5.0Gy群とした。発生した腫瘍は組織学検査ならびに、DNA抽出後p53遺伝子についてSSCPによる突然変異とLOHの解析を行った。KOマウスでは生存期間内に腫瘍の発生はなかった。ヘテロマウスでは2.5Gy群で8/21、5.0Gy群で25/45の腫瘍発生がみられ、野生マウスでは2.5Gy群で8/22、5.0Gy群で6/33の腫瘍発生がみられ発がん開始時期もヘテロマウスより約150日遅れた。ヘテロマウスの腫瘍のうち14/23例でLOHがみられたが、突然変異はなかった。野生マウスでは7/9例に突然変異がみられ、LOHは3/9例にみられた。p53遺伝子の存在状態は明らかに放射線による発がん率と発生時期に影響し、放射線で生じる変異の型がp53遺伝子の存在状態によって異なることが理由であると考えられた。
著者
高畠 貴志 柿沼 志津子 廣内 篤久 中村 正子 藤川 勝義 西村 まゆみ 小木曽 洋一 島田 義也 田中 公夫
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.153, 2007 (Released:2007-10-20)

放射線誘発胸腺リンパ腫は、放射線発がんメカニズムの解析だけでなく、発がん感受性に影響する遺伝的要因についての研究にも有用なモデル実験系である。我々は、放射線誘発胸腺リンパ腫を誘発しやすいC57BL/6系統、誘発しにくいC3H系統、およびこれらを親とし比較的誘発しやすいC3B6F1系統とB6C3F1系統で放射線誘発した胸腺リンパ腫を対象として、DNAコピー数の異常をゲノム網羅的にアレイCGH法で解析した。胸腺リンパ腫発症に関与することが知られているIkarosやBcl11bなどの遺伝子座での変異や15番染色体のトリソミー以外に、5番染色体、10番染色体、16番染色体での異常が系統依存的に高頻度であること、および、14番染色体のトリソミーが系統によらず高頻度であることを見出した。さらに、T細胞受容体ベーター遺伝子領域の2つの対立遺伝子で共に遺伝子再構成が生じている頻度は、C3H系統でのリンパ腫より、C57BL/6系統でのリンパ腫で高頻度に検出された。このことから、C57BL/6系統では異常なV(D)J組換えを起こしやすいためにリンパ腫を誘発しやすい、という可能性が示唆された。また、C3B6F1系統やB6C3F1系統でのリンパ腫における、これら各種異常の頻度や染色体上での異常頻発領域の分布は、C57BL/6系統で誘発されたリンパ腫についての結果と似ていた。さらに、F1系統での腫瘍についてのヘテロ接合性消失の解析と合わせると、IkarosやBcl11b遺伝子座でのヘテロ接合性消失は主として欠失型異常により生じ、他方Cdkn2やPten遺伝子座では主として片親性ダイソミーにより生じると示唆された。これらの結果は、放射線によりリンパ腫が誘発される際に変異が蓄積される機構や、放射線により胸腺リンパ腫を誘発しやすい系統と誘発し難い系統が存在することの原因を知る上で重要な知見となる。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
著者
甘崎 佳子 柿沼 志津子 古渡 礼恵 山内 一己 西村 まゆみ 今岡 達彦 有吉 健太郎 渡邊 正己 島田 義也
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.167, 2007 (Released:2007-10-20)

【目的】放射線照射によって生じる長寿命ラジカルは、培養細胞の系において遅延型の点突然変異を誘発し細胞をがん化させるが、放射線照射後にビタミンC(VC)を添加すると突然変異頻度が低下し、がん化が抑制されることが報告されている。しかし、放射線発がんにおける長寿命ラジカルの関与について、動物を用いて検証した報告は少ない。そこで本研究では、マウスの放射線誘発胸腺リンパ腫(TL)の系を用いて、放射線照射後にVCを投与した場合のTL発生率とがん関連遺伝子の変異パターンを解析し、放射線誘発TL発生における長寿命ラジカルの関与について明らかにすることを目的とした。 【材料と方法】4週齢B6C3F1マウス(雌)に、X線1.4 Gyを1週間間隔で4回照射しTLを誘発した。VCは生体内半減期の長い誘導体Sodium-L-ascorbyl-2 phosphate(共立薬科大学小林静子先生より供与)を100mg/kg腹空投与した。実験群は、1) X線単独(X線)、2) X線照射直後に毎回VC投与(X+VC)、3) X線照射直後に毎回VCを投与しさらに継続して毎週1回(3ヶ月間)VC投与(X+VC継続)の3群を設定し、各群における照射後生存日数とTLの発生率を調べた。また、放射線誘発TLにおいて変異パターンが明らかとなっているがん抑制遺伝子Ikarosの遺伝子発現、点突然変異およびタンパクの発現を解析した。 【結果】照射後の生存日数は、X線群と比較してX+ VC群ではやや短くなる傾向を示したが、X+VC継続群では長くなった。また生後400日におけるTLの発生率もX+VC継続群で若干低下した。さらに、Ikarosの変異解析の結果、X+VC継続群ではIkaros遺伝子の点突然変異が認められなかった。以上の結果から、マウスの放射線誘発TL発生に長寿命ラジカルが関与している可能性があることが示唆された。
著者
井尻 憲一
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2007 (Released:2007-10-20)

多くの遺伝子の発現が微小重力(無重力)で変化することは宇宙実験で示されている。転写の上昇が認められる遺伝子があると思えば、抑制される遺伝子もある。このような遺伝子発現の変化は、細胞骨格の状態変化と結びつけて説明される。これまでに報告されたデータの紹介とともに、宇宙放射線によるDNA損傷がどうなるかについても議論したい。
著者
笹野 仲史 榎本 敦 細井 義夫 白石 憲史郎 宮川 清 勝村 庸介 中川 恵一
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.233, 2007 (Released:2007-10-20)

エダラボン(商品名:ラジカット)はフリーラジカルスカベンジャーとして知られており、脳梗塞の治療薬として臨床的に広く使われている薬剤である。今回の我々の実験では、エダラボンの放射線照射後のMOLT-4細胞のアポトーシスに与える影響をin vitroで研究した。アポトーシスについては、色素排除試験、Annexin_V_-PI染色、caspaseの分割により解析した。エダラボンにより、X線照射によるアポトーシスが有意に抑制されることが分かった。細胞内フリーラジカルをCM-H2-DCFDAにより、解析した。細胞内フリーラジカルの産生量は、照射によりほぼ完全に抑制されていることが分かった。p53の蓄積、リン酸化およびp21WAF1の発現は、エダラボンにより抑制されていることが分かった。以上より、フリーラジカルスカベンジャーのエダラボンは、p53経路の抑制を介して、MOLT-4の照射によるアポトーシスを抑制していることが分かった。