著者
児山 新 又吉 一仁 押部 郁朗 江尻 友三
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.2072-2076, 2004-08-25
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

症例は51歳,女性,乳腺悪性葉状腫瘍にて左乳房切除術を施行した.手術3年後,発熱,咳嗽が出現し頭頂部に皮下腫瘤を認めた.胸部CTにて右胸腔内と左肺上葉に腫瘤を認め,上部消化管内視鏡にて牛眼像, 1型様所見,不整隆起を呈す病変を認めた.胸腔内腫瘍,胃腫瘍とも組織生検では,前回切除した乳腺悪性葉状腫瘍の組織と類似しており,異時性の転移と診断した.いずれの組織もc-kit陽性であったことより,メシル酸イマティニブによる化学療法を施行した.肉眼的には頭頂部皮下転移巣のわずかな縮小効果を認めたものの,全身状態悪化のため死亡した.<br>乳腺悪性葉状腫瘍の転移は,肺,骨,脳への血行性転移の報告は多いが,胃への転移報告例はいまだない.また, c-kit陽性悪性葉状腫瘍に対して,メシル酸イマティニブを投与された症例も報告されていないことからも貴重な症例と考えられたので報告した.
著者
斎藤 拓朗 添田 暢俊 樋口 光徳 押部 郁朗 渡部 晶之 根本 鉄太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.299-313, 2017-07-25 (Released:2017-08-29)
参考文献数
123

わが国は,2035年には3人に1人が65歳以上という超高齢化社会を迎える.高齢者の周術期管理では術前,すでに複数の慢性疾患を有する場合が多く,特に糖尿病に対する対策は重要である.血糖コントロールの目標は日本糖尿病学会と日本老年医学会合同委員会の目標設定に準じる.周術期における具体的な血糖値は強化インスリン療法ではなく血糖180 mg/dlを目安とし,インスリンを併用する管理が推奨されている.手術に伴うリスク評価では,フレイル,サルコペニアなどに留意し,さらに社会的背景も考慮した高齢者総合的機能評価(CGA)に基づく総合的評価を要する.フレイル,サルコペニアは栄養障害と密接な関係にあり,感染症をはじめとする術後合併症を回避するという観点から,術前および術後における適切な栄養管理とリハビリテーションを行う必要がある.術後は術後回復力強化プログラムが注目されており,高齢者を対象とした研究でも一定の成果を認めている.しかし,高齢者では,術式によりその優位性が明らかとならない場合もあり,対象者の選択基準を詳細に検討するなどの慎重な適用が望まれる.術後せん妄は,多くの高齢者にみられ,また制御に難渋する合併症である.せん妄の治療には,まず原因の除去と環境調整を行い,適切な評価ツールにより鎮静レベルを評価しつつ薬物療法を併用する.周術期感染症管理では栄養状態の維持・改善につとめ,各種ガイドラインを遵守し適切な管理を行う.高齢であることはすでに手術部位感染(SSI)の高リスクであることを念頭におき,手術侵襲に応じた抗菌薬の選択と投与期間を設定する必要がある.