著者
宮田 彬 池田 八果穂 長谷川 英男 藤崎 晶子 揚 海星
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.27-44, 2002-01-10
参考文献数
6

日本鱗翅学会自然保護委員会の提唱を受け入れ,1998年から2000年の3年間,大分市富士見ヶ丘18-16の宮田宅の庭で継続したチョウ観察の記録を再検討した.3年間に合計50種のチョウが記録されたので,それらのチョウの記録時の状況と個体数の多さの程度を,(1)年間の延べ出現日数と(2)半月毎の個体数の多さを表す3段階評価法の二通りの方法で示した(第1表).その結果,今回著者らが採用した方法は,ルート・センサス法と同様チョウのモニターリングの有効な一方法として推奨出来るという結論に達した.この方法では一定の観察場所として個人の庭とその庭から観察可能な数メートルほどの外側を含む地域を決めた.しかし一定の観察時間は設けず,たまたま在宅し,庭へ出たりあるいは庭を見たときに見かけたチョウの記録を随時取ることにした.もちろんチョウを見た時間,その時の天候,個体数,チョウは何をしていたか等を参考のため記録しておく.通常,サラリーマンの場合,観察時間は朝夕の短い時間と週末の休日,祭日だけに限定される.その休日も様々の事情で必ずしも在宅出来るとは限らない.忙しい時は帰宅時間も遅いし,休日も一日中家を空けることが多い.しかしそのような状態でも年間を通して記録を継続した.3年間の記録を調べて見ると,確かに休日にチョウを見かける機会が圧倒的に多く,もし休日がまったくないとすれば記録される種類数は著しく減少することが予想される.とは言えどんなに忙しい身でも休日の朝は少し遅く外出する場合が多く,午後も少し早く帰宅することが多い.そこで休日の場合,どの時間帯にもっともチョウが多いか検討してみた.夏の観察では,7-12時の午前中にその日記録されたチョウの70-100%が飛来した.しかも8時から10時までの2時間に多くの種類が現れるピークがあった.そして午後の暑い時間帯はチョウの個体数が著しく減少する中休みがあり,夕方,4時から4時半に再び多くのチョウが飛来する時間があることが分かった.このようなことを少し考慮して,休日の外出を朝10時少し前まで遅らせる事が出来るならば,夏のチョウはだいたい漏らさず記録可能であることが分かった.また午後5時までに帰宅して観察を再開すればさらにいくつかの種が追加されるかも知れない.以上のようなことを少し意識して休日の観察可能な時間を設定するならば,昼間別の場所で働いている多忙な人でも庭のチョウの観察運動に参加し重要な役割を果たすことができる.むしろ断片的な記録を全国的に集積することによって見えてくることがあるに違いないと確信した.チョウのモニターリングに多くの人が参加することを期待したい.