著者
巖城 隆 佐田 直也 長谷川 英男 松尾 加代子 中野 隆文 古島 拓哉
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.129-134, 2020-12-24 (Released:2021-02-24)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

2011年から2019年に西日本各地で捕獲された4種のヘビ類(シマヘビ,アオダイショウ,ヤマカガシ,ニホンマムシ)の口腔から吸虫を採取した。これらは形態観察と分子遺伝子解析によりOchetosoma kansenseと同定した。この種は北アメリカのヘビ類への寄生が以前から知られているが,日本に生息するヘビ類での確認は初であり,今回の結果は新宿主・新分布報告となる。
著者
倉林 敦 大島 一彦 松田 洋一 森 哲 細 将貴 佐藤 宏 長谷川 英男 太田 英利
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は、ヘビからカエルに水平伝播した奇妙なLINE転移因子(以降TE-X)を発見した。本研究ではこの水平伝播現象について、(1)水平伝播発生地域の解明、(2)水平伝播の系統学的起源、(3)ベクター生物の特定、を目的とした。世界各地からカエル類29科161種194サンプル、ヘビ類17科125種139サンプル、寄生虫類166サンプルを収集し、各サンプルのTE-XをPCRと次世代シークエンサーを用いて解析した。その結果、TE-Xの水平伝播は、世界各地で複数回生じており、特にマダガスカルでは様々な寄生虫に仲介されて、現在進行形で脊椎動物間TE-X水平伝播が生じている可能性が高いことを明らかにした。
著者
宮田 彬 YONG Hoi Sen 池田 八果穂 長谷川 英男
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.47-67, 2003-01-10

この論文では鱗翅類の交尾形式を総括・整理した.鱗翅類が垂直面あるいは斜面で交尾する時の体位は,常に雌が上に位置し,雄は下向きに静止する.この現象を「雌上位」と呼び,同一種でも希に逆位つまり「雄上位」がある.「雄上位」は滅多に見られず,蛾類では「雌上位」が基本である.また尾端でつながり雌雄の頭が反対方向を向く交尾中のペアの翅が左右に傾斜し,典型的な場合胴部が屋根の下に隠れているので「屋根型交尾」と呼ぶことにした.もちろん翅の面積,長さが変化すれば胴部が露出し屋根のようでなくなるが,尾端でつながり雌雄が反対方向を向く交尾形式は広義の「屋根型交尾」とする.この場合,雌の翅が雄の翅を覆う「雌上翅」と,その逆の「雄上翅」があり,基本形は「雌上翅」である.しかし,翅の重ね方については雌も妥協的で「雄上翅」が時々見られる.屋根型交尾では,以上の2点を確認することが望ましい.また写真は必ず上下関係がはっきり分かるように撮影するべきである.わざわざ写真を横向きにして発表したと思われる例があるが困ったことである.次に屋根型交尾から由来する二大系列がある.一つは交尾中の雌雄の頭部が同じ方向を向く場合である.垂直面での交尾では両性の頭部はどちらも上を向く.これは食樹上の繭または茂みに羽化直後の雌が止まって雄を迎える場合で,雄は雌の側面から翅を背中で畳んで接近しそのまま結合する.V字状になるので「V字状交尾」と呼ぶ.結合後,雄が雌の腹面に回り翅を開いて静止すると「対面交尾」となる.V字状交尾から対面交尾に移行するためには雌雄の間に葉や枝など,夾雑物がないことが条件である.もしあればV字状交尾のまま交尾を終わる.この両型は,ヤママユガ科のほとんど全部とドクガ科,カレハガ科の一部で観察されている.またヒトリガ科の一部でも見られるかも知れない.第二の変化は,屋根型交尾の屋根の傾斜が翅の面積増大と胴が細くなった結果,屋根の勾配が次第に緩やかになり,ほとんど水平になった蛾類で見られ,「水平翅型交尾」と呼ぶ.シャクガ科,ヤガ科と蝶類で見られる.この型はさらに進むと背中で翅の表面と表面を合わせて閉じる「蝶型交尾」になる.シャクガ科では上の両型が一つの種または属で見られる場合がある.しかし種によってどちらか一型に落ち着くことが多い.ヤガ科のアツバ類には水平翅型交尾は見られるが,この科では「蝶型交尾」はまったく見られない.蝶でしばしば問題になる交尾飛翔は,雌雄が共同しないと成立しない.夜行性の蛾の場合,飛行が観察された例はない.はっきりと一方向へある距離飛んだことが分かっているのは蝶の一部と蛾ではオニベニシタバである.この蛾は昼間樹幹から樹幹に飛んだという.昼行性のカノコガやスカシバガ科は刺激されると雌雄が混乱し,強い側か強引に引っ張ることが観察されている.オオスカシバは右へ飛んだり左へ飛んだり,右往左往し一方向へスムーズに飛翔できなかった.蝶の交尾飛翔も無理に刺激し飛ばした報告が含まれているが,これはまったく無意味な観察である.もし蝶との間に距離をおいてじっくり観察すれば蝶は交尾中決して飛ばない.また雌雄が驚いて落下した場合,どちらかが少し翅を開閉したとしても交尾飛翔したとは言えない.蝶の交尾飛翔も本当に飛んだと言える例がどれほどあるか,再吟味が必要であろう.
著者
宮田 彬 池田 八果穂 長谷川 英男 藤崎 晶子 揚 海星
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.27-44, 2002-01-10
参考文献数
6

日本鱗翅学会自然保護委員会の提唱を受け入れ,1998年から2000年の3年間,大分市富士見ヶ丘18-16の宮田宅の庭で継続したチョウ観察の記録を再検討した.3年間に合計50種のチョウが記録されたので,それらのチョウの記録時の状況と個体数の多さの程度を,(1)年間の延べ出現日数と(2)半月毎の個体数の多さを表す3段階評価法の二通りの方法で示した(第1表).その結果,今回著者らが採用した方法は,ルート・センサス法と同様チョウのモニターリングの有効な一方法として推奨出来るという結論に達した.この方法では一定の観察場所として個人の庭とその庭から観察可能な数メートルほどの外側を含む地域を決めた.しかし一定の観察時間は設けず,たまたま在宅し,庭へ出たりあるいは庭を見たときに見かけたチョウの記録を随時取ることにした.もちろんチョウを見た時間,その時の天候,個体数,チョウは何をしていたか等を参考のため記録しておく.通常,サラリーマンの場合,観察時間は朝夕の短い時間と週末の休日,祭日だけに限定される.その休日も様々の事情で必ずしも在宅出来るとは限らない.忙しい時は帰宅時間も遅いし,休日も一日中家を空けることが多い.しかしそのような状態でも年間を通して記録を継続した.3年間の記録を調べて見ると,確かに休日にチョウを見かける機会が圧倒的に多く,もし休日がまったくないとすれば記録される種類数は著しく減少することが予想される.とは言えどんなに忙しい身でも休日の朝は少し遅く外出する場合が多く,午後も少し早く帰宅することが多い.そこで休日の場合,どの時間帯にもっともチョウが多いか検討してみた.夏の観察では,7-12時の午前中にその日記録されたチョウの70-100%が飛来した.しかも8時から10時までの2時間に多くの種類が現れるピークがあった.そして午後の暑い時間帯はチョウの個体数が著しく減少する中休みがあり,夕方,4時から4時半に再び多くのチョウが飛来する時間があることが分かった.このようなことを少し考慮して,休日の外出を朝10時少し前まで遅らせる事が出来るならば,夏のチョウはだいたい漏らさず記録可能であることが分かった.また午後5時までに帰宅して観察を再開すればさらにいくつかの種が追加されるかも知れない.以上のようなことを少し意識して休日の観察可能な時間を設定するならば,昼間別の場所で働いている多忙な人でも庭のチョウの観察運動に参加し重要な役割を果たすことができる.むしろ断片的な記録を全国的に集積することによって見えてくることがあるに違いないと確信した.チョウのモニターリングに多くの人が参加することを期待したい.
著者
安里 龍二 長谷川 英男 池城 毅
出版者
Japanese Society of Tropical Medicine
雑誌
Japanese Journal of Tropical Medicine and Hygiene (ISSN:03042146)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.239-246, 1984-12-15 (Released:2011-05-20)
参考文献数
24

沖縄県に収容されたベトナム難民662名について消化管寄生蠕虫類の調査を行い, 444名 (67.1%) に寄生を認めた。回虫が最も高率 (56.3%) で, 次いで鞭虫 (21.8%), 鉤虫 (18.4%), 糞線虫 (2.3%) の順であり, 他に小形条虫 (3名), 無鉤条虫, 肥大吸虫, 肝吸虫 (各1名) がみられた。年齢別ではほとんどの年齢層で50%以上の高い保有率を示し, 性別では男子の保有率が高かった。これら蠕虫類の寄生状況はベトナム国内での都市部のものに類似していた。消化管寄生原虫類の調査は274名について行い, 50名 (18.2%) に原虫嚢子を認めた!内訳はランブル鞭毛虫 (3.6%), 大腸アメーバ (4.7%), 小形アメーバ (11.3%) で, 赤痢アメーバは検出されなかつた。住血性寄生虫の検査は311名について行ったが, マラリア原虫, ミクロフィラリアは証明されなかった。ベトナム難民の寄生虫が難民自身並びに収容施設周辺の住民に与える影響, 及び対策等について論じた。
著者
佐々 学 長谷川 英男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.305-341, 1983
被引用文献数
6 16

琉球列島の淡水域に住むユスリカについてはこれまでまったく報告がなかった。著者らは1981年12月から翌年2月にかけて, 沖繩本島, 宮古群島(池間島を含む), 石垣島の家庭ないし畜舎排水を受ける川と, 養鰻池, 溜池, エビ養殖池などを主たる対象として, これらに発生するユスリカの種類を調べた。Table 1に示す各採集地点では, 空中を群飛する成虫や発生源の近くの草むらなどに休息する成虫を捕虫網で集めることと, 幼虫の生息する水底の泥や草などを採集して研究室にもちかえり, これを水槽に入れて通気し, 成虫を羽化させたうえで標本とするという方法を併用した。この報告にはChironominae亜科のChironomini族に属する種だけについて, その同定, 分布, 形態の記載をまとめたものであるが, この族のみでも26種が区別され, うち17種は沖繩本島より, 14種は石垣島より, 13種は宮古群島より採集された。これらのうち養鰻池など富栄養化のすすんだたまり水からは13種, 下水のまざった流水からは9種(うち5種は前者と共通種), 下水のまざらない湧水や山間の渓流などからは7種(前者と共通種なし), 水の清浄な上水道の濾過池より2種, エビ養殖池をあふれた海水の溝より1種で, これら水域の水質とユスリカ各種の分布にきわめて特異的な相関がみられた。こりら26種のうち, 18種はその形態がすでにタイ, 台湾, 韓国, インドネシア, 日本本土などから報告された種の記載と一致ないし類似するため, 既知種として同定したが, 残り8種についてはその学名を保留した。今回琉球列島から見いだされた本族のユスリカには, 台湾等から報告された珍奇な構造をもつ諸種も含まれていた。しかし, 日本本土の下水溝などに圧倒的な優占種として発生しているChironomus yoshimatsui Martin et Sublette, 1972が1匹も採集されず, その代りに同じような環境の下水溝にChironomus属等の他の数種が混生していたことが注目される。
著者
浅川 満彦 坂田 金正 ネベドンスカヤ イリーナ A. 近藤 憲久 長谷川 英男
出版者
根室市歴史と自然の資料館
雑誌
根室市歴史と自然の資料館紀要 (ISSN:18806279)
巻号頁・発行日
no.24, pp.45-48, 2012-03

Two mammalian species including Myodes rufocanus (abbreviated to ruf) and M. rex (rex) (Microtidae: Rodentia) were collected on Habomai Is. including Shikotan I. (abbreviated to Sk), Shibotsu I. (Sb) and Taraku I. (Tr) , and they were examined helminthologically. Up to now, 4 nematode species including Rhabditis orbitalis (Locality/host abbrev.: Tr/ruf) , Heligmosomum .yamagutii (Sk/ruf, Sk/rex) , Syphacia montana (Sk/ruf) and Heterakis spumosa (Sb/ruf, Tr/ruf) , and 2 cestode species Hymenolepis horrida (Sk/ruf, Sk/rex, Tr/ruf) and Anoplocephaloides sp. (Sk/ruf). This seems to be the first report of the parasitic helmitnhs from the mammalian species in the islands.
著者
森 徹 三砂 範幸 成澤 寛 茂木 幹義 長谷川 英男 宮田 彬
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.55-57, 2002-02-01 (Released:2010-09-02)
参考文献数
12
被引用文献数
3 1

69歳,男性。初診の約1年前より左側膝窩部に自覚症状のない皮下腫瘤が出現しているのに気付いた。1年後,左下腹部に同様の腫瘤が出現したが,これは膝窩部から移動したものと患者は訴えた。山水の飲水歴はあったが,明らかな生食の既往はなかった。初診時,左下腹部に2ヵ所,左鼠径部に1ヵ所,弾性軟の腫瘤を触知した。3ヵ所の腫瘤をすべて摘出したところ,各々から虫体が検出された。虫体の肉眼所見および組織所見よりマンソン裂頭条虫の幼虫であるプレロセルコイドと同定し,マンソン孤虫症と診断した。通常,多くのマンソン孤虫症は単発例であるが,自験例はその後,右下肢にも虫体を認めており,計4匹の多発例であった。
著者
早川 祥子 Hernandez Alexander D. 鈴木 真理子 菅谷 和沙 香田 啓貴 長谷川 英男 遠藤 秀紀
出版者
Primate Society of Japan
雑誌
霊長類研究 = Primate research (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.3-10, 2011-06-20
参考文献数
21
被引用文献数
2

屋久島にて見つかったおよそ26歳という,非常に老齢であるニホンザル(メス)の死体の剖検結果を報告する。年齢の推定は死体の歯のエナメル質をヘマトキシリンで染色する方法によって行った。これは餌付けの経験のない野生ニホンザルとしては例外的に高齢であると考えてよい。外傷は見当たらず,病理解剖における主な病変は肺出血であり,対象個体が肺炎に罹患していたことが示唆された。さらに特筆すべきことは,このサルの体内から大量の寄生虫感染が見つかったことである。感染していたのは線虫4種,総数1524個体(<i>Streptopharagus pigmentatus</i> 1270, <i>Gongylonema pulchrum</i> 208, <i>Oesophagostomum aculeatum</i> 36, <i>Trichuris</i> sp. 10)であった。対象個体は老齢のため免疫力が低下しており,寄生虫の感染および蓄積を防ぐことができず,さらには肺炎にも感染して死を迎えたものと考えられる。
著者
西川 清文 森 昇子 白木 雪乃 佐藤 伸高 福井 大祐 長谷川 英男 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.27-29, 2014-03-31 (Released:2014-05-31)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

国内外来種化による寄生虫相の変遷を分析するため,2010年と 2011年に旭川市内で捕獲されたアズマヒキガエル Bufo japonicus formosusの蠕虫調査をした。その結果,このカエルで既報告の 3線虫種と 1鉤頭虫種が検出された。北海道における当該カエル種の調査はなく,新記録となったが,寄生蠕虫相は本州に生息していた時の状態をほぼ保持したまま定着していたことが判明した。
著者
宮城 一郎 當間 孝子 長谷川 英男 只野 昌之 福永 利彦
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.259-262, 1992
被引用文献数
2 5

1990年5月, 8月, 石垣島での日本脳炎伝搬蚊の調査時に, 水田からCulex vishnuiの幼虫と蛹が多数発見された。本種はCx. pseudovishnui Collessと形態的特徴が酷似するためしばしば混同されてきた。Cx. vishnui幼虫の形態的特徴は胸部背面に微細な突起(spicules)を有し, 腹部6-III&acd;VI毛は2分岐, 1-VI, 1-VI毛は3&acd;4分岐, 1-V毛は4&acd;5分岐, 側鱗(combscales)は通常18&acd;25個であった。本種はこれまで明確な記録はなく, 今回が琉球列島で初の生息記録となる。