著者
宮田 彬
出版者
Japanese Society of Tropical Medicine
雑誌
Japanese Journal of Tropical Medicine and Hygiene (ISSN:03042146)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.161-200, 1975-09-15 (Released:2011-05-20)
参考文献数
199
被引用文献数
3 7

最近30年間に発表された原虫の凍結保存に関する論文は, 200篇を越えている。そこでこの論文では, それらのうち主な論文を紹介するとともに凍結保存が可能な原虫類の保存方法や保存期間などを総括し, さらに今後の問題点を論じた。また今までに十分な検討を加えずに用いられていた凍害保護剤について, 特にグリセリンとDMSOの用い方, 平衡時間などについて, 著者の研究を中心に紹介した。原虫類の最適保存法及びこの論文の論旨は次の通りである。1) 原虫は, 適当な保護剤を含む溶液あるいは培地中に攪伴し, 試験管またはアンプルに分注する。2) 保護剤の濃度は, グリセリンは10%前後, DMSOは, 7.5%前後が適当である。グリセリンの場合は, 比較的高い温度 (例えば37C) で30-60分平衡させる。高温に耐えない原虫は, 25C前後で60-90分平衡させる。DMSOは, 低い温度 (例えばOC) で加え, 平衡時間をおかず直ちに凍結する。3) 凍結は2段階を用いる。すなわち, -30C前後のフリーザー中で約90分予備凍結し (この時冷却率は約1C, 1分), ついで保存温度へ移す。4) 保存温度としては, 液体窒素のような超低温が好ましいが, -75Cでも数カ月程度は保存可能である。5) 凍結材料は, 37~40Cの恒温槽中で急速融解し, 融解後は, すみやかに動物あるいは培地へ接種する。6) 原虫の種類によっては, もっと簡単に保存できる。原虫ごとに予備試験を行い, 目的の保存温度に数日保存して高い生存率の得られる方法を採用するとよい。7) 今後の問題点としては, 保存原虫の性質 (薬剤耐性, 抗原性, 感染性など) の長期保存における安定性を検討することと純低温生物学的な立場から超低温下における細胞の生死のメカニズムを解明することである。前者については, 多くの研究者が凍結保存による実験株の性質の変化は認められないと指摘している。8) 終りに数多くの実験株を保存し, 研究者に提供する低温保存センターの設置の必要性を提案した。
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.43-46, 2007-01-10

晩秋の寒い朝,夜の間に灯火に来たアケビコノハやムクゲコノハの胸部に触っても彼らは飛ぶことが出来ない.その代わり翅を開いて,逆立ちするような威嚇姿勢を取り,後翅の目玉模様を露出し,翅を小刻みに振動させる(Miyata, 2005).目玉模様を持つガは敵に出会うと,自らその模様を見せびらかすらしい.しかし気温が高い夏の朝,ムクゲコノハに触ると直ちに飛び去る.晩秋の頃と反応が違う.ウチスズメも後翅に目玉模様を持つので,威嚇姿勢を取るかどうか試した.6月の早朝,白布に止まっているウチスズメの胸部をパチンと指ではじくか,触り,反応を観察した.驚いたガは脚を突っ張り尾端や翅の先端を腹方に強く曲げる.そのまま地面に落下する個体や白布に止まったままの個体もあるが,いずれも脚を突っ張って胸部を突き出し翅を腹方に曲げる運動と,力を抜き翅が水平に近くなる運動,つまり一種の屈伸運動を反復する.その運動を初めて観察した個体は地面に落ちてそこで屈伸運動をしたもので,35秒間に6回その運動を繰り返した.また触った時,白布に止まったままの1頭は35秒間に20回屈伸運動を繰り返した.屈伸運動のリズムは受けた刺激の大きさ,屈伸運動を始めてからの経過時間によって違う.この運動は後翅にある目玉模様を一層際だたせる効果があると考えられる.同属のコウチスズメの場合は,驚くと翅を広げ後翅の目玉模様を露出する.触った後,相当長い間,少なくとも10分以上,翅を開いたままであるが,ウチスズメのような屈伸運動は見られない.また後翅の赤いモモスズメやウンモンスズメも調べたが,触ると一瞬翅を開くだけで,コウチスズメのように長い時間後翅を露出することはなかった.その他のスズメガも同様であった.ウチスズメは古くから知られている普通種なのに今回発見した威嚇行動を,今まで誰も報告していなかったのは誠に不思議である.ヨーロッパと北アフリカに分布するウチスズメの近縁種S. ocellatusでも同様の行動が見られると予想される.誰か調べて欲しい.またヒメウチスズメは九州には産せず,威嚇行動が見られるかどうか調べることが出来なかった.
著者
宮田 彬 YONG Hoi Sen 池田 八果穂 長谷川 英男
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.47-67, 2003-01-10

この論文では鱗翅類の交尾形式を総括・整理した.鱗翅類が垂直面あるいは斜面で交尾する時の体位は,常に雌が上に位置し,雄は下向きに静止する.この現象を「雌上位」と呼び,同一種でも希に逆位つまり「雄上位」がある.「雄上位」は滅多に見られず,蛾類では「雌上位」が基本である.また尾端でつながり雌雄の頭が反対方向を向く交尾中のペアの翅が左右に傾斜し,典型的な場合胴部が屋根の下に隠れているので「屋根型交尾」と呼ぶことにした.もちろん翅の面積,長さが変化すれば胴部が露出し屋根のようでなくなるが,尾端でつながり雌雄が反対方向を向く交尾形式は広義の「屋根型交尾」とする.この場合,雌の翅が雄の翅を覆う「雌上翅」と,その逆の「雄上翅」があり,基本形は「雌上翅」である.しかし,翅の重ね方については雌も妥協的で「雄上翅」が時々見られる.屋根型交尾では,以上の2点を確認することが望ましい.また写真は必ず上下関係がはっきり分かるように撮影するべきである.わざわざ写真を横向きにして発表したと思われる例があるが困ったことである.次に屋根型交尾から由来する二大系列がある.一つは交尾中の雌雄の頭部が同じ方向を向く場合である.垂直面での交尾では両性の頭部はどちらも上を向く.これは食樹上の繭または茂みに羽化直後の雌が止まって雄を迎える場合で,雄は雌の側面から翅を背中で畳んで接近しそのまま結合する.V字状になるので「V字状交尾」と呼ぶ.結合後,雄が雌の腹面に回り翅を開いて静止すると「対面交尾」となる.V字状交尾から対面交尾に移行するためには雌雄の間に葉や枝など,夾雑物がないことが条件である.もしあればV字状交尾のまま交尾を終わる.この両型は,ヤママユガ科のほとんど全部とドクガ科,カレハガ科の一部で観察されている.またヒトリガ科の一部でも見られるかも知れない.第二の変化は,屋根型交尾の屋根の傾斜が翅の面積増大と胴が細くなった結果,屋根の勾配が次第に緩やかになり,ほとんど水平になった蛾類で見られ,「水平翅型交尾」と呼ぶ.シャクガ科,ヤガ科と蝶類で見られる.この型はさらに進むと背中で翅の表面と表面を合わせて閉じる「蝶型交尾」になる.シャクガ科では上の両型が一つの種または属で見られる場合がある.しかし種によってどちらか一型に落ち着くことが多い.ヤガ科のアツバ類には水平翅型交尾は見られるが,この科では「蝶型交尾」はまったく見られない.蝶でしばしば問題になる交尾飛翔は,雌雄が共同しないと成立しない.夜行性の蛾の場合,飛行が観察された例はない.はっきりと一方向へある距離飛んだことが分かっているのは蝶の一部と蛾ではオニベニシタバである.この蛾は昼間樹幹から樹幹に飛んだという.昼行性のカノコガやスカシバガ科は刺激されると雌雄が混乱し,強い側か強引に引っ張ることが観察されている.オオスカシバは右へ飛んだり左へ飛んだり,右往左往し一方向へスムーズに飛翔できなかった.蝶の交尾飛翔も無理に刺激し飛ばした報告が含まれているが,これはまったく無意味な観察である.もし蝶との間に距離をおいてじっくり観察すれば蝶は交尾中決して飛ばない.また雌雄が驚いて落下した場合,どちらかが少し翅を開閉したとしても交尾飛翔したとは言えない.蝶の交尾飛翔も本当に飛んだと言える例がどれほどあるか,再吟味が必要であろう.
著者
宮田 彬 池田 八果穂 長谷川 英男 藤崎 晶子 揚 海星
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.27-44, 2002-01-10
参考文献数
6

日本鱗翅学会自然保護委員会の提唱を受け入れ,1998年から2000年の3年間,大分市富士見ヶ丘18-16の宮田宅の庭で継続したチョウ観察の記録を再検討した.3年間に合計50種のチョウが記録されたので,それらのチョウの記録時の状況と個体数の多さの程度を,(1)年間の延べ出現日数と(2)半月毎の個体数の多さを表す3段階評価法の二通りの方法で示した(第1表).その結果,今回著者らが採用した方法は,ルート・センサス法と同様チョウのモニターリングの有効な一方法として推奨出来るという結論に達した.この方法では一定の観察場所として個人の庭とその庭から観察可能な数メートルほどの外側を含む地域を決めた.しかし一定の観察時間は設けず,たまたま在宅し,庭へ出たりあるいは庭を見たときに見かけたチョウの記録を随時取ることにした.もちろんチョウを見た時間,その時の天候,個体数,チョウは何をしていたか等を参考のため記録しておく.通常,サラリーマンの場合,観察時間は朝夕の短い時間と週末の休日,祭日だけに限定される.その休日も様々の事情で必ずしも在宅出来るとは限らない.忙しい時は帰宅時間も遅いし,休日も一日中家を空けることが多い.しかしそのような状態でも年間を通して記録を継続した.3年間の記録を調べて見ると,確かに休日にチョウを見かける機会が圧倒的に多く,もし休日がまったくないとすれば記録される種類数は著しく減少することが予想される.とは言えどんなに忙しい身でも休日の朝は少し遅く外出する場合が多く,午後も少し早く帰宅することが多い.そこで休日の場合,どの時間帯にもっともチョウが多いか検討してみた.夏の観察では,7-12時の午前中にその日記録されたチョウの70-100%が飛来した.しかも8時から10時までの2時間に多くの種類が現れるピークがあった.そして午後の暑い時間帯はチョウの個体数が著しく減少する中休みがあり,夕方,4時から4時半に再び多くのチョウが飛来する時間があることが分かった.このようなことを少し考慮して,休日の外出を朝10時少し前まで遅らせる事が出来るならば,夏のチョウはだいたい漏らさず記録可能であることが分かった.また午後5時までに帰宅して観察を再開すればさらにいくつかの種が追加されるかも知れない.以上のようなことを少し意識して休日の観察可能な時間を設定するならば,昼間別の場所で働いている多忙な人でも庭のチョウの観察運動に参加し重要な役割を果たすことができる.むしろ断片的な記録を全国的に集積することによって見えてくることがあるに違いないと確信した.チョウのモニターリングに多くの人が参加することを期待したい.
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-5, 2005-01-01

ツリフネソウトラガSarbanissa yunnanaの発見を報告した論文(宮田・野崎,1989)で,ノブドウにつく謎の幼虫について言及し,おそらくそれがベニモントラガSarbanissa venuataの幼虫であろうと述べた.その後,長い間調べる機会が無かったが,大分県九重町地蔵原に移って間もなく2003年9月27日再びノブドウにつく幼虫を発見した.前2回の遭遇では幼虫は茎に70頭から100頭の大きな群れを作っていた.しかし今回は1本のノブドウに12-19頭からなる小さな4つの群れが見つかった.群れにはリーダーがおり,敵を威嚇するときはリーダーが頭を上にそらせ体を震動させると,メンバーが一斉に同じ行動を行った.また摂食の際,群れは解散したが,終わると元の葉に戻ってまったく前と同じように並んだ.地蔵原は海抜約830mの高原で涼しいためか低地では二度も失敗した幼虫飼育は順調で,数日でクヌギの朽ち木に潜り込み蛹化した.2004年8月10日から15日にかけてベニモントラガ2♂1♀が羽化した.ツリフネソウトラガもベニモントラガも地蔵原には多いので,両種の成虫の発生期を調べた.その結果,ベニモントラガは年1回8月に出現する一化性の種であるが,ツリフネソウトラガは初夏と夏の年2化であることがはっきりした.
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.115-121, 2001-06-30
参考文献数
6

筆者の知る限りでは,ヒメジャノメとヒメウラナミジャノメの「縄張り行動」に関する具体的な報告はない.「縄張り」と関係深い「一定の場所に滞在し見張る」,「同種個体あるいは異種のチョウを追跡する」などの行動は,ジャノメチョウ科に限らず多くの科でも観察されているが,当たり前の現象なのか意外に記録が少ない.そこで予報としてヒメジャノメとヒメウラナミジャノメについて観察した事実を記録し,チョウ類同好者の注意を喚起したい.観察場所は,大分市富士見ヶ丘の自宅の庭とその付近である.ヒメジャノメM-1個体:2000年7月27日-8月1日まで,B地点の数本のベニカナメモチが植わったやや暗い一角に本種の雄がおり,早朝,いつも高さ約1mあたりから飛び出した.夜はその辺りで眠ったらしい.8月1日,捕えマークした(M-1).その雄は8月5日まで5日間毎日同じ場所に出現したが,その日から8月8日まで留守をし,帰宅後は見られなかった.マーク前の7月27日から31日まで見られた個体も同一個体と思われ,それはベニカナメモチの垣根を中心に直径約2-3mほどの狭い「縄張り」を10日間も占拠していた.その間,同種または異種のチョウとの関係は観察出来なかった.ヒメジャノメM-2とM-3:8月8日以来,新鮮な雄がBの外側の隣家のヤマモモの木陰付近を占拠していた.8月12日,早朝,Bに来たので,捕らえマークした(M-2).翌日の朝,M-2はAのアラカシの高さ160-170cmの葉上にいた.午前8時30分,そこから2mほど南のAのブルーベリーの葉上に別の新鮮な雄(M-3)がいた.その時,M-2の所在は分からなかった.午後6時50分,M-2が突然Eの池の縁に現れ,やがて東側のアジサイの茂みに姿を消した.その後,両個体とも二度と見られなかった.マーク前の8月8日から11日まで4日間見られた雄と,M-2は同一個体らしい.8月13日に縄張り外のAやEに姿を見せたのは,別の雄M-3がAに現れたことと関係があるかも知れない.ヒメウラナミジャノメの場合:8月27日からDのアベリアの垣根で毎日見かけた雌と同一と思われる個体が,30-31日,アベリアの高さ60cmの下草で翅を閉じぶら下がり眠っていた.その雌はマーク後もDの狭い場所に留まり,9月2日まで見られ,縄張り内のキク科植物の花をよく吸蜜し,また時々ガクアジサイの葉上で翅を半開きにして静止していた.この個体も同種の他個体または異種と接触する場面は観察出来なかった.
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.215-228, 2000-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
10
被引用文献数
6

'Sleep' behavior of butterflies at night was observed in 46 individuals belonging to 13 species in 1999 at my house garden. The main sleeping place of Papilio xuthus receives little sunshine, having a high humidity, and is windless compared with the other areas. This species slept hanging from a twig of the tree or at the top of a grass stem 60-150cm high, and usually kept its wings closed. I observed two cases that seemed to be the same individual spending two nights on the same spot. Argyreus hyperbius slept with its wings closed and selected a twig 150-200cm high. This species probably spent two nights at the same spot like P. xuthus. Therefore, I believe that those species had an exact memory of the sleeping place of the previous night, hence they came back to sleep the next evening. Eurema hecabe always slept with its wings closed and hanging from the underside of a leaf of short grass. They preferred a rather dry and open place. Zizeeria maha always slept with both wings closed at the top of a short grass stem 40-50cm high.
著者
森 徹 三砂 範幸 成澤 寛 茂木 幹義 長谷川 英男 宮田 彬
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.55-57, 2002-02-01 (Released:2010-09-02)
参考文献数
12
被引用文献数
3 1

69歳,男性。初診の約1年前より左側膝窩部に自覚症状のない皮下腫瘤が出現しているのに気付いた。1年後,左下腹部に同様の腫瘤が出現したが,これは膝窩部から移動したものと患者は訴えた。山水の飲水歴はあったが,明らかな生食の既往はなかった。初診時,左下腹部に2ヵ所,左鼠径部に1ヵ所,弾性軟の腫瘤を触知した。3ヵ所の腫瘤をすべて摘出したところ,各々から虫体が検出された。虫体の肉眼所見および組織所見よりマンソン裂頭条虫の幼虫であるプレロセルコイドと同定し,マンソン孤虫症と診断した。通常,多くのマンソン孤虫症は単発例であるが,自験例はその後,右下肢にも虫体を認めており,計4匹の多発例であった。
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.215-228, 2000-06-30
被引用文献数
3

'Sleep' behavior of butterflies at night was observed in 46 individuals belonging to 13 species in 1999 at my house garden. The main sleeping place of Papilio xuthus receives little sunshine, having a high humidity, and is windless compared with the other areas. This species slept hanging from a twig of the tree or at the top of a grass stem 60-150cm high, and usually kept its wings closed. I observed two cases that seemed to be the same individual spending two nights on the same spot. Argyreus hyperbius slept with its wings closed and selected a twig 150-200cm high. This species probably spent two nights at the same spot like P. xuthus. Therefore, I believe that those species had an exact memory of the sleeping place of the previous night, hence they came back to sleep the next evening. Eurema hecabe always slept with its wings closed and hanging from the underside of a leaf of short grass. They preferred a rather dry and open place. Zizeeria maha always slept with both wings closed at the top of a short grass stem 40-50cm high.
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.281-286, 2000-09-30

1995年9月16日と17日の2日間にわたって,ドミニカ共和国サント・ドミンゴ市でシロチョウ科のクリコゴニアシロチョウ,Kricogonia lysideの西から東へ向かう大移動に遭遇した.その規模は実際に確認しただけでも南北に幅3.7kmにわたる蝶の帯が,2日間にわたって少なくとも合計10時間以上東へ向かって動いていた.初日はゆっくり観察する時間を取ることが出来なかったが,午前9時にはすでに移動が始まっており,午後遅くまで続いていた.蝶の大移動は海岸と平行して走っているワシントン通りを東へ約4km先の旧市街(Ciudad Colonial)までたどることが出来た.その先まで行くことが出来なかったが,もっと先まで続いていたことは間違いない.2日目の9月17日午前9時,3階の自宅の窓から南側を見ると白い蝶がまた西から東へ次々と飛んで行った.幸い3階の窓から見ると南側約100m先のショッピング・センター"プラザ・セントラル"の建物までは2階建てのビルの屋上になっておりまったく障害物がなかった.それでその間を通過する蝶の数を数えたところ1分間に25個体であった.南北の幅を調べるために歩いて出かけ,少なくともほぼ東西に走っているケネディ通りとワシントン通りの間(約3.7km)は蝶が続々と移動していることが分かった.ケネディ通りより先へは行かず引き返した.途中で捕らえた蝶は5種でいずれも移動に参加しており,どの蝶も狂ったように東へ東へ向かっていた.白い蝶はシロチョウ科のクリコゴニアシロチョウ,Kricogonia lysideで,この蝶は上述のように100m幅を1分間25個体通過した.2日目だけでも幅3.7kmの移動が5時間継続したとすると,移動した蝶の数は277,500に達する,この状態が2日間で合計10時間続いたと仮定すると蝶の数は約55万頭という膨大な数である.しかも飛来が続いた時間は実際にはもっと長く,個体数も初日の方がはるかに多かった.またケネディ通りのさらに北まで蝶が広がっていたことは間違いないので,実際に移動したクリコゴニアシロチョウの個体数は,百万あるいは二百万という驚くべき数に達したことになる.なお初日の移動は,JICA事務所の中島伸克所長によれば120km離れたアスアでも見られたという.その時も蝶は東方向へ向かって飛び続けていたという.もしその移動とサント・ドミンゴ市で2日間続いた移動が同一グループの蝶であったとすると,参加した蝶の数は数百万に達することになる.なお移動が続いた2日間は晴天で,ほとんど無風であった.2番目に個体数が多かったのはシロチョウ科のフォエビス・センナエ,Phoebis sennaeで,大ざっぱな見積もりであるが,クリコゴニアシロチョウの数の5%程度の個体数が移動したと推定された.また個体数は多くなかったが,時々タテハチョウ科のオイプトイエタ・クラウディア,Euptoieta claudiaやオイプトイエタ・ヘゲシア,Euptoieta hegesiaや,ドクチョウ科のヴァニラエウラギンドクチョウ,Agraulis vanillaeも,やはりクリコゴニアシロチョウと同じく東へ向かって飛んでいた.以上3種は市街地でも緑地があれば見られる蝶ではあるが,ふだんは道路上を東へ東へ飛んで行くようなことはないので,やはり移動していたとしか考えようがない.なおフォエビス・センナエは9-10月に郊外の道を車で走ると多数の個体が,次々と車の窓にぶつかって来るので,あたかも移動しているように見える.しかしこの現象は郊外から市街地へ入ると急に蝶が姿を消すので,真の移動とは考えられない.しかし私はドミニカ産のフォエビス・センナエの場合は,確かに移動している場合もあるのではないかと考えている.なぜなら昼食に都会の真ん中のわが家へ帰って窓の外を見ていると,この蝶も時々,東へ向かって次々と飛び去って行くのが見られるからだ,田舎で道路に沿って飛んでくるこの蝶に出会うのはよくあることなのだが,我が家から眺められる移動はいつも見られるわけではなく,またこの蝶の生息環境とはあまり関係がなさそうな市街地での現象であり,移動性の蝶であることは間違いないと思う.しかしその場合も多い目に見積もっても,この蝶の個体数は1分間に5頭以下であった.
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.103-108, 2005-03-20

50年にわたり収集した標本を整理中に,ビーク・マークのついたヤガ科の標本が15種27例,ジャノメチョウ類2種2例見つかった.ヤガ科のうち7種14例はCatocala属の蛾で,残りはシタバ亜科の4属4種6例とクチバ亜科の4属4種7例であった.ヤガ科の場合,鳥の攻撃により出来る最も特徴的な傷は同じ側の前翅と後翅に一つずつ合計二つ見られ,翅の位置を静止時の形に戻すと前・後翅の傷が重なることから,静止時に攻撃を受けたことが分かる.また後翅だけに傷を受けている例も多く,このような傷は攻撃直前に蛾が翅を開いて後翅の斑紋を敵に見せて威嚇した結果,生じたものらしい.明らかに後翅の斑紋が,鳥の攻撃をそらし,生存率を高めていると考えられる.筆者はCatocalaが静止したまま後翅を示して敵を威嚇するかどうか未観察である.しかしアケビコノハやムクゲコノハは後翅を開いて後半身を持ち上げるような姿勢をとり威嚇することを観察している.おそらくキマエコノハの後翅の傷は威嚇中に後翅に攻撃を受けたものと思われる.今回ビーク・マークが見つかった蛾は,いずれも九州では個体数が少ない種である.そうでなければ翅が破損している蛾をわざわざ展翅することはない.それゆえ一部の種では,今まで出会った総個体数に対するビーク・マーク出現率を計算することが出来た.その結果,灯火に飛来する蛾のうち20%から40%は,鳥の攻撃から生還した経験を持っていると推定された.ジャノメチョウ類2種の傷は,左右の翅に生じた対称傷で,この場合も翅を背中で閉じている状態で鳥の攻撃を受けたことを示している.