著者
杉浦 彩子 文堂 昌彦 鈴木 宏和 中田 隆文 内田 育恵 曾根 三千彦 中島 務
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.737-744, 2020-08-20 (Released:2020-09-01)
参考文献数
29

水頭症患者における聴力変化がしばしば報告されており, 相対的内リンパ水腫によると推測されている. 今回われわれは2012年1月~2018年3月の間に正常圧水頭症に対するシャント手術を受け, 術前後で聴力検査を行った高齢者53名において聴力変化についての検討を行った. 術前の聴力は半数以上に中等度以上の感音難聴を認めた. 術後の聴力は53名全体では一部の低音域において有意な低下を認めたが, 250~4,000Hz の5周波数平均聴力が 10dB 以上変動した症例は12例あり, 聴力悪化が8例 (15.1%), 聴力改善が4例 (7.5%) であった. 聴力の変化無群と悪化群, 改善群でそれぞれ年齢, 性, シャント部位, シャントシステム, バルブ圧, 認知機能, 身体機能等を比較したが, 有意差を認めるような特性はなかった. 悪化群では術前の聴力は変化無群と違いがなかったものの, 術後の左低音域の聴力が有意に悪かった. また, 改善群では術前の聴力が低音域・中音域・高音域とも変化無群より悪く, 術後には差がなくなっていた. 相対的内リンパ圧上昇による聴力悪化と, 相対的外リンパ圧上昇による聴力悪化の解除と, 両方の病態が考えられた. 高齢者ではもともとあった加齢性難聴にこのような聴力変化が伴うことで, 術後補聴器装用となった例もあり, シャント術のリスクの一つとして留意する必要があると考えた.