著者
曾根 三千彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.3, pp.114-120, 2011 (Released:2011-08-03)
参考文献数
43

近年胃食道逆流症 (gastroesophageal reflux disease: GERD) の増加が指摘されている本邦において, 逆流が関与した耳鼻咽喉科領域の疾患—咽喉頭酸逆流症 (Laryngopharyngeal reflux disease: LPRD)—も増加傾向にある. 逆流は咽喉頭に留まらず, 鼻副鼻腔から上咽頭さらには耳管から中耳腔にまで達し, 十二指腸内容液の逆流が関与した症例も認められている. GERDは胃内容物の逆流によって不快な症状や合併症を起こした状態と定義されており, 食道外症候群として喉頭炎・咽頭炎・副鼻腔炎・中耳炎が耳鼻咽喉科領域の疾患に含まれている. 過去の論文の評価から喉頭炎のみがGERDとの関連性を確認され, 他の疾患との関連性については推測段階に留まっており, 咽喉頭炎や自覚症状に対するプロトンポンプ阻害剤の効果も確定はしていない. 日本消化器病学会から発刊されたGERD診療ガイドラインでは, 上記疾患に加えて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因の一つとしてGERDを挙げている. LPRD患者の生活の質 (QOL) は多方面にわたって低下しており, 局所所見よりも臨床症状と強く相関する傾向がある. GERDと同様にLPRDの治療では, 症状のコントロールとQOLの改善が目標である. そのためには耳鼻咽喉科医の的確な診断と治療が必要であり, LPRDの診療ガイドラインの作成も望まれる.
著者
杉浦 彩子 文堂 昌彦 鈴木 宏和 中田 隆文 内田 育恵 曾根 三千彦 中島 務
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.737-744, 2020-08-20 (Released:2020-09-01)
参考文献数
29

水頭症患者における聴力変化がしばしば報告されており, 相対的内リンパ水腫によると推測されている. 今回われわれは2012年1月~2018年3月の間に正常圧水頭症に対するシャント手術を受け, 術前後で聴力検査を行った高齢者53名において聴力変化についての検討を行った. 術前の聴力は半数以上に中等度以上の感音難聴を認めた. 術後の聴力は53名全体では一部の低音域において有意な低下を認めたが, 250~4,000Hz の5周波数平均聴力が 10dB 以上変動した症例は12例あり, 聴力悪化が8例 (15.1%), 聴力改善が4例 (7.5%) であった. 聴力の変化無群と悪化群, 改善群でそれぞれ年齢, 性, シャント部位, シャントシステム, バルブ圧, 認知機能, 身体機能等を比較したが, 有意差を認めるような特性はなかった. 悪化群では術前の聴力は変化無群と違いがなかったものの, 術後の左低音域の聴力が有意に悪かった. また, 改善群では術前の聴力が低音域・中音域・高音域とも変化無群より悪く, 術後には差がなくなっていた. 相対的内リンパ圧上昇による聴力悪化と, 相対的外リンパ圧上昇による聴力悪化の解除と, 両方の病態が考えられた. 高齢者ではもともとあった加齢性難聴にこのような聴力変化が伴うことで, 術後補聴器装用となった例もあり, シャント術のリスクの一つとして留意する必要があると考えた.
著者
小林 万純 柘植 勇人 三宅 杏李 曾根 三千彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1273-1278, 2018

<p> 両耳聴の意義に対する認識が高まり, 補聴器も人工内耳も可能であれば両耳聴を目指す方向に向かっている. 今回, 装用前の語音弁別能は不良であったが, 両耳装用後に実用レベルに達した症例について検討した. 耳鳴を主訴とした両側水平性感音難聴の2症例で, 語音弁別能は初診時左右それぞれ30~55%であったが, 1年後には両耳装用下の音場検査にて各々80,95%という結果が得られた. これは周波数ごとに圧縮を変更しながら十分なファンクショナルゲインを確保したことと, 優れた両耳聴効果に起因するところが大きいと思われる. そして, 補聴器の調整を適正に行い十分な聴能訓練を行うことで, 補聴器の効果をより発揮できると考える.</p>
著者
杉本 賢文 曾根 三千彦 大竹 宏直 寺西 正明 杉浦 淳子 吉田 忠雄
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.218-223, 2016-08-30 (Released:2017-03-18)
参考文献数
12

要旨: 10歳時に初めて高度難聴を指摘できた人工内耳手術症例を経験したので報告する。 5歳時より難聴を疑わせる症状を呈していたが, 耳鼻咽喉科診療所や総合病院耳鼻咽喉科にて複数回純音聴力検査を受けても難聴は指摘されなかった。 当院初診時の純音聴力検査による聴力レベル (4分法) は右 98.8dB, 左 92.5dB と 500Hz 以上の中高音域にて高度な難聴を認めたが, 右耳の 125, 250Hz では 30~40dB の残存聴力を有していた。 初診10ヶ月後には, 補聴器装用効果不十分のため, 左耳へ人工内耳植込術を実施した。 10歳まで高度難聴を把握できなかった要因としては, 難聴が徐々に進行した可能性, 低音域に残存聴力が存在したこと, 不十分な聴力評価により繰り返し難聴を否定されてきたことなどが考えられた。 小児の聴力検査を行う際は, 他覚的聴覚検査の併用も考慮し, 慎重に診断を行うべきである。
著者
寺西 正明 曾根 三千彦
出版者
一般社団法人 日本めまい平衡医学会
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.85-92, 2017-04-30 (Released:2017-06-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1

The characteristic symptoms of Meniere's disease are recurrent vertigo, fluctuating hearing loss and tinnitus, and the principal underlying pathology is endolymphatic hydrops (ELH). Imaging of endolymphatic hydrops is now possible by 3-Tesla MRI after intratympanic (IT) or intravenous injection (IV) of gadolinium (Gd). 3D-FLAIR and 3D-real IR are obtained in the case of IT injection of contrast, while heavily T2-weighted 3D-FLAIR and HYbriD of Reversed image Of Positive endolymph Signal and native image of positive perilymph signal (HYDROPS) are obtained in the case of IV injection of contrast, to visualize the endolymphatic space. Higher concentrations of the contrast agent can be introduced into the perilymph by IT injection than by IV injection. However, the IV method is preferable in the clinical setting, as the endolymphatic spaces of both ears can be evaluated after a single intravenous injection of Gd. ELH is observed more frequently in patients with definite Meniere's disease than in those with possible Meniere's disease. ELH is observed in both the cochlea and the vestibule in patients with atypical Meniere's disease. The vestibular Meniere's disease patients show significant vestibular predominance in the distribution of ELH. ELH is observed more frequently in patients with fluctuating tinnitus than in patients with stable tinnitus. Examination of ELH can be performed as part of preoperative evaluation prior to stapes surgery in patients with otosclerosis; the presence of ELH is a risk factor for the development of severe vertigo after stapes surgery. Examination to detect vestibular ELH can be helpful in the differential diagnosis between vestibular migraine and vestibular Meniere's disease. MRI is a sensitive technique for detecting ELH and the relationships between ELH and clinical symptoms are expected to be widely investigated using this technique.
著者
曾根 三千彦
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.57-59, 2017 (Released:2019-02-13)
参考文献数
14

メニエール病の病態は内リンパ水腫である。造影剤を用いたMRI評価により、内リンパ水腫の存在を可視化できるようになった。MRI評価は、メニエール病のみならずその周辺疾患における内リンパ水腫の存在意義と病態を解明する有用な手段である。
著者
曾根 三千彦
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.130-134, 2010 (Released:2011-07-08)
参考文献数
13

胃食道逆流症(GERD)と誘因不明な成人滲出性中耳炎(OME)症例との因果関係について検討した結果、GERD症状を有する症例の中耳貯留液中のペプシノーゲン(PG)濃度は、症状を有しない症例に比し高値例の割合が高いこと、症状を有する症例では両側性のOMEが高率である事が判明した。GERDとの関連を強く疑ったOME 症例では、プロトンポンプ阻害剤(PPI)投与後症状の改善と貯留液中PG濃度の低下、OME治癒に有効な症例も認められた。GERD有症率は病院受診者に比べて診療所受診患者により高い傾向があった。PPI反応不良例の中には高濃度のビリルビンや胆汁酸が認められた症例も存在し、PPI内服に加えてGERDに対する生活指導がOME治癒に有効である事も確認された。以上の事から従来の治療法に抵抗する誘因不明のOMEに対して、十二指腸・胃逆流を考慮した対応も選択する必要があると思われる。
著者
中島 務 曾根 三千彦 三澤 逸人 服部 琢 鈴木 亨
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

内耳への60mWソフトレーザー照射が耳鳴の抑制に効果があるかどうか二重盲検にて検討した。耳鳴の大きさ、持続時間、音色、苦痛度の変化にレーザー照射群とプラセボ照射群の間に有意差は認られなかった。メニエール病におけるゲンタマイシン鼓室内注入療法は、広く世界的に行われるようになってきている。我々は、、モルモットにおいてゲンタマイシンを蝸牛窓または鼓室内に投与し、基底回転の外リンパにおけるゲンタマイシン濃度を経時的に測定した。外リンパゲンタマイシン濃度は投与後1〜2時間後にピークとなり半減期が2〜数時間と非常に早いものであった。ゲンタマイシン鼓室内注入療法後、麻痺性眼振が出ても、その後前庭代償がおこって日常生活で問題となることは極めで少ない。高齢者では前庭代償がおこりにくいが、若い人でも直線加速刺激を行うと正常者とは異なる垂直方向の眼球の動きを前庭代償が完成されたと思われた時期においても観察された。モルモットにおいてシスプラチン内耳毒性に対するαトコフェロールの抑制効果を確認した。また、プロスタグランディンE1を蝸牛窓に置くと蝸牛血流が上昇した。内耳機能の評価に内耳血流状態の把握は重要である。レーザードップラープローブの先端を蝸牛骨壁にあてると、ラットではレーザードップラー出力の30〜40%が骨の血流成分で蝸牛血流とは別に考えなければならないことがわかった。人工内耳手術では、蝸牛骨壁に穴をあけるので、この穴にプローブをさしこんで血流測定をおこなえば可能な限り純粋に蝸牛血流の測定ができる。現在までのところ人工内耳手術を受けた20人にこのような方法にて蝸牛血流の測定を行ったが6人(特発性感音難聴2人、原因不明の先天聾2人、内耳道狭窄1人、髄膜炎後難聴1人)において顕著な蝸牛血流信号の低下を認めた。