著者
内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.155-162, 2021-04-28 (Released:2021-05-19)
参考文献数
25

要旨: 脳内に病的な変化を有していても, 臨床的に認知症を発症せずに機能を保つ能力として, 認知予備能 (cognitive reserve), 脳予備能 (brain reserve), 脳の維持 (brain maintenance) などの概念がある。脳の衰えへの耐性を想定する予備能仮説で, 予備能の代理尺度として用いられる指標には, 比較的測定が容易な脳容積や頭囲, 脳重量という形態学的パラメーター, 教育 (教育年数や教育の質), 職業内容の複雑さ, IQ や識字率, 精神的活動, 社会的活動, 身体的活動などがある。難聴があると, 脳容積萎縮速度, より高度な学業達成率, 就労の継続, 社会交流などの側面で不利であることを示す多種の研究報告がある。認知症発症を遅らせる可能性のある予備能の強化にとって, 難聴や, 難聴が関与する事象が妨げとなるとすれば, 難聴対策はこれまで以上に重要になると考える。
著者
内田 育恵 久野 佳也夫 中島 務 柳田 則之
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.43-46, 1997 (Released:2012-09-24)
参考文献数
8

A case of intractable juvenile laryngo-tracheal papillomatosis is reported. A 1-year-old girl with hoarseness was referred to our hospital in May,1995. After tracheostomy, she was treated by local injection of interferon (IFN) combined with laser surgery. Recurrent growth of tracheal papillomas was rapid and widespread, and surgical removal was needed to maintain an airway. Surgical treatment was repeated 45 times in 1 year and 7 months. Even with additional systemic administration of IFN therapy, it was hard to control the papilloma. Human papillomavirus (HPV) type 6 was detected in this case. We have presented this case to seek other opinions on more effective therapy.
著者
内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.5, pp.744-749, 2019-05-20 (Released:2019-06-12)
参考文献数
16

超高齢社会を迎えた日本では, 要介護原因の1位が認知症となり, 一方, 認知症の分野で ‘難聴’ が一気に社会的注目を集めるきっかけとなった Lancet 国際委員会の報告では, 医学的介入により認知症発症を予防できる要因として難聴が筆頭に挙げられた. 認知症や認知症以外の不利益に対し, 難聴が関連しているというエビデンスは積み重ねられており, 健康寿命の延伸のために, 中年期以降の聴力維持はますます重要性を増すと考えられる. 認知症だけでなく認知機能障害や認知機能ドメインと聴力, 就労や所得と聴力, 不慮の事故による負傷リスクと聴力, に関する先行研究の報告を概説し, 補聴器の使用がいかに影響するかを検討した研究を取り上げた. 補聴器の認知症予防に対する効果は, 集団規模の大きな, 長期間の追跡プロジェクトが各国で実施されているものの, 結果は必ずしも一定しない. われわれが遂行中の, 補聴器使用と認知機能に関する研究も中間解析について紹介した. それらを踏まえて, 超高齢社会の難聴ケアについて期待を込めた今後の展望を述べた.
著者
野々山 宏 有元 真理子 稲川 俊太郎 内田 育恵 谷川 徹 小川 徹也 植田 広海
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.3, pp.191-195, 2014-03-20 (Released:2014-04-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

急性喉頭蓋炎は高度な気道狭窄から致命的となる疾患であるため, ときに迅速かつ的確な処置が必要とされる. われわれは成人の急性喉頭蓋炎患者において性別, 年齢, 発症季節, 初診施設, 受診時期, 症状, 喉頭所見, 血液検査, 既往歴につき気道確保に関連する因子を中心に検討した. 気道確保を行ったのは216例中, 39例 (18.1%) であった. 急性喉頭蓋炎患者の男女比は1.9: 1, 平均年齢は53歳で発症の季節性は認められなかった. 受診時期の検討では, 気道確保群が有意差をもって早期に受診をしていた. 症状は咽頭痛を88%, 発熱を30%, 嚥下時痛・嚥下困難を28%, 呼吸苦を19%, 声の変化を10%に認め, 呼吸苦のみが気道確保との関連に有意差があった. 喉頭内視鏡検査所見では, 一側の仮声帯に炎症が波及し腫脹していた症例 (52.6%) は, 披裂喉頭蓋ヒダ, 披裂部までに留まったもの (12.9%) に比べ, 気道確保率は大きく上回った. 血液検査では, WBC, CRPともに, 気道確保群において有意に高値であった. 既往歴では糖尿病の有病者に気道確保との関連に有意差を認めた. 早期の受診, 呼吸苦, 喉頭内視鏡検査所見での仮声帯の腫脹, WBC, CRPの上昇, 糖尿病の既往がある症例では気道の確保を考慮する必要性があると考えられた.
著者
内田 育恵 杉浦 彩子 中島 務 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.222-227, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
21
被引用文献数
23

目的:我が国における高齢難聴者の現況を推計することを目的として,「国立長寿医療研究センター―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」データを検討した.方法:NILS-LSA第6次調査(2008~2010年実施)より男性1,118名,女性1,076名の計2,194名を対象として,地域住民の粗率に近似すると考えられる5歳階級別難聴有病率を算出した(算定A).また,聴力に有害な作用をもたらす耳疾患と騒音職場就労を除外した算出も行った(算定B).総務省発表人口推計を用いて全国難聴有病者数を推計した.次に第1次調査(1997~2000年実施)時点で,除外項目と難聴定義に該当せず,かつ第6次調査にも参加した男性212名,女性253名の計465名を対象として,10年後の難聴発症率を解析した.結果:難聴有病率は65歳以上で急増していた.算定Aでは,男性の65~69歳,70~74歳,75~79歳,80歳以上の年齢群順に43.7%,51.1%,71.4%,84.3%で,女性では27.7%,41.8%,67.3%,73.3%といずれも高い有病率を示した.算定Bでは,同様の年齢群順に男性で37.9%,51.4%,64.3%,86.8%で,女性では26.5%,35.6%,61.4%,72.6%であった.全国の65歳以上の高齢難聴者の数は,算定Aでは1,655万3千人,算定Bでも1,569万9千人に上った.10年後の難聴発症率は,調査開始時年齢60~64歳群では32.5%,70~74歳群では62.5%と,年齢上昇に伴い高くなったが,依然聴力を良好に維持する高齢者が存在した.結論:高齢者の難聴有病率は高く,全国難聴有病者数推計から,加齢性難聴が日本の国民的課題であることが再確認された.また年を経ても聴力を良好に維持することが可能であると示唆された.
著者
中島 務 中田 隆文 片山 直美 杉浦 彩子 内田 育恵 寺西 正明 吉田 忠雄
出版者
一般社団法人 日本めまい平衡医学会
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.156-163, 2020-06-30 (Released:2020-08-05)
参考文献数
32

We investigated the risk factors for vertigo from the results of health checkups conducted in Yakumo town. The subjects of this investigation included 525 persons (299 women and 226 men), aged 40 to 88 years (average 63.78 years). Among these, 397 persons (75.6%) had no vertigo, 116 persons (22.1%) had vertigo sometimes, and 12 persons (2.3%) suffered from vertigo frequently. Ninety-four women (31.4%) and 34 men (15.0%) had vertigo. Twenty-one (51.2%) of the 41 women in their 40s had vertigo. Logistic regression analysis revealed that subjective hearing loss, a low value of the mean corpuscular hemoglobin concentration (MCHC), headache, high level of serum creatinine and frequent urination were significantly associated with the risk of vertigo, after adjustments for age and sex. Listening difficulties in conversations between four or five people were reported more frequently than those in one-to-one conversations. Anemia should be considered in the differential diagnosis of vertigo. In the diagnosis of vertigo, information about the presence/absence of headache and the status of the headache, if any, may be necessary. In our study, migraine and headache on the ipsilateral side were associated with vertigo, but bilateral headache was not associated with vertigo. Our analysis, did not reveal smoking, drinking, exercise habit, sleep time, body mass index (BMI), body fat percentage, hemoglobin A1c, blood glucose, serum triglyceride, serum LDL cholesterol, or serum HDL cholesterol as being significantly associated with the risk of occurrence of vertigo, after adjustments for age and sex.
著者
杉浦 彩子 サブレ森田 さゆり 清水 笑子 伊藤 恵里奈 川村 皓生 吉原 杏奈 内田 育恵 鈴木 宏和 近藤 和泉 中島 務
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.69-77, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
23

要旨: 補聴器がフレイルに与える影響を明らかにすることを目的に, 補聴器導入前と補聴器導入約半年後に基本チェックリスト (Kihon Check List: KCL) を実施し, その変化について検討した。 補聴器装用歴のない60歳以上の補聴器外来初診患者64名において, 補聴器導入前後における KCL 総得点の平均は, 装用前が5.1点, 装用後が4.9点で, 有意な変化は認めなかった。KCL の下位項目である日常生活関連動作, 運動器機能, 低栄養状態, 口腔機能, 閉じこもり, 認知機能, 抑うつ気分も有意な変化は認めず, KCL の質問項目それぞれについての検討で, 質問1(公共交通機関での外出) のみ有意な変化を認めた。KCL 総得点がロバスト方向へ変化した群としなかった群の特性の違いについて検討したところ, 補聴器導入前の KCL 総得点が高得点であること, 良聴耳聴力がよいことが有意にロバスト方向への変化と関連していた。一方, KCL 総得点のフレイル方向への変化の有無における特性は明らかでなかった。
著者
杉浦 彩子 文堂 昌彦 鈴木 宏和 中田 隆文 内田 育恵 曾根 三千彦 中島 務
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.737-744, 2020-08-20 (Released:2020-09-01)
参考文献数
29

水頭症患者における聴力変化がしばしば報告されており, 相対的内リンパ水腫によると推測されている. 今回われわれは2012年1月~2018年3月の間に正常圧水頭症に対するシャント手術を受け, 術前後で聴力検査を行った高齢者53名において聴力変化についての検討を行った. 術前の聴力は半数以上に中等度以上の感音難聴を認めた. 術後の聴力は53名全体では一部の低音域において有意な低下を認めたが, 250~4,000Hz の5周波数平均聴力が 10dB 以上変動した症例は12例あり, 聴力悪化が8例 (15.1%), 聴力改善が4例 (7.5%) であった. 聴力の変化無群と悪化群, 改善群でそれぞれ年齢, 性, シャント部位, シャントシステム, バルブ圧, 認知機能, 身体機能等を比較したが, 有意差を認めるような特性はなかった. 悪化群では術前の聴力は変化無群と違いがなかったものの, 術後の左低音域の聴力が有意に悪かった. また, 改善群では術前の聴力が低音域・中音域・高音域とも変化無群より悪く, 術後には差がなくなっていた. 相対的内リンパ圧上昇による聴力悪化と, 相対的外リンパ圧上昇による聴力悪化の解除と, 両方の病態が考えられた. 高齢者ではもともとあった加齢性難聴にこのような聴力変化が伴うことで, 術後補聴器装用となった例もあり, シャント術のリスクの一つとして留意する必要があると考えた.
著者
内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.333-338, 2020-05-20 (Released:2020-06-05)
参考文献数
14
被引用文献数
1

団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年には, 認知症有病者数は最大730万人, 高齢者の5人に1人が認知症になると推計されている. 認知症は '誰もがなり得るもの' で '多くの人にとって身近なもの' ととらえられている. 本稿では,『認知症のある高齢難聴者において, 補聴器導入により認知機能低下を予防することは可能か? 』『脳の病理変化があっても認知症症状を顕在化させないはたらき― '認知予備能' と聴覚に関連はあるか? 』という2つのリサーチクエスチョンを取り上げた. 認知障害のある症例を対象として補聴器導入の効果を取り扱った6本の研究では, 結果は必ずしも一定しない. われわれが国立長寿医療研究センター・もの忘れセンター受診高齢難聴者を対象に行った, 補聴器6カ月間貸し出し前後の Mini-Mental State Examination(MMSE) を比較した検討では, 補聴器導入前 MMSE は 20.26±5.23点 (range 4-27), 導入6カ月後 MMSE は 20.81±4.38点 (range 9-27) と, 統計学的に有意差を認めなかった. 死後脳の解剖により, 脳内の神経病理変化があっても, 生前認知症の臨床症状を示していなかった例が1980年代後半から報告されるようになり, 病理変化に拮抗する何らかのメカニズムがあると考えられている. そのひとつが認知予備能 (cognitive reserve) で, もともと持っている認知プロセスや代償プロセスを駆使して, 病理学的なダメージの影響を緩和する能力と考えられている. 難聴があると劣化した聴覚入力を処理するために, 知覚処理以外の認知プロセスに利用できる認知資源が減ってしまい, 認知予備能が低下するという関係性が示唆されている. 認知症になっても健やかに安心して暮らせる社会の実現のために, 聴覚からのアプローチの重要性は増している.
著者
杉浦 彩子 内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.707-713, 2017-05-20 (Released:2017-06-20)
参考文献数
31

難聴は高齢者に最も多くみられる障害の一つだが, 近年難聴が認知機能低下のリスク要因であることが注目されている. 難聴と認知機能は, 共通の因子や相互作用もあると考えられ, その関係性は複雑である. 補聴器による難聴に対する介入で, 認知機能の維持・改善が報告されており, 2015年には大規模な疫学調査における補聴器装用の認知機能への有効性がイギリスとフランスから報告された. 難聴高齢者は難聴の自覚が乏しく, 家族から難聴を指摘されて受診する場合が多い. 高齢者において聴力を評価する場合には, 既に認知機能低下を伴っていて, マスキングがうまく入らなかったり, 聴力検査でのボタン操作が不安定だったりすることがある. また, 本来の難聴に機能性難聴を伴う症例があり, 留意が必要である. 認知機能低下のある高齢者の難聴への介入は, 語音明瞭度が悪く補聴器の効果が限定的な方が多いこと, 本人の自覚が乏しく補聴器装用の意思の乏しい方が多いこと, 意思があっても補聴器の操作などが困難な方がいること, 紛失のリスクが高いこと, などの問題点があり, 慎重な対応を要する. 認知機能正常の難聴高齢者と認知機能低下のある難聴高齢者とを区別して対応する必要がある. 高齢の難聴者の看過できない問題として耳垢栓塞があり, 湿性耳垢の多い欧米では高齢者の3割程度に認めるとされているが, 本邦においても1割弱の方に耳垢栓塞があると考えられ, 留意が必要である.
著者
内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.5, pp.744-749, 2019

<p> 超高齢社会を迎えた日本では, 要介護原因の1位が認知症となり, 一方, 認知症の分野で '難聴' が一気に社会的注目を集めるきっかけとなった Lancet 国際委員会の報告では, 医学的介入により認知症発症を予防できる要因として難聴が筆頭に挙げられた. 認知症や認知症以外の不利益に対し, 難聴が関連しているというエビデンスは積み重ねられており, 健康寿命の延伸のために, 中年期以降の聴力維持はますます重要性を増すと考えられる.</p><p></p><p> 認知症だけでなく認知機能障害や認知機能ドメインと聴力, 就労や所得と聴力, 不慮の事故による負傷リスクと聴力, に関する先行研究の報告を概説し, 補聴器の使用がいかに影響するかを検討した研究を取り上げた. 補聴器の認知症予防に対する効果は, 集団規模の大きな, 長期間の追跡プロジェクトが各国で実施されているものの, 結果は必ずしも一定しない. われわれが遂行中の, 補聴器使用と認知機能に関する研究も中間解析について紹介した. それらを踏まえて, 超高齢社会の難聴ケアについて期待を込めた今後の展望を述べた.</p>
著者
内田 育恵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.143-147, 2015

聴覚障害は加齢とともに有病率が高くなる代表的な老年病で,われわれが地域住民対象研究から算出した推計値によると,65歳以上の高齢難聴者は全国で約1,500万人に上る.わが国が対応すべき緊要な課題の一つである.<br>個人や社会に対して高齢期難聴がもたらす負の影響は,抑うつ,意欲や認知機能の低下,脳萎縮,要介護または死の転帰にまで及ぶと報告されている.一方,高齢期難聴に対する介入の有効性検証はいまだ限定的である.現時点では,補聴器使用により認知機能維持や抑うつ予防が可能かどうか結論にいたっていない.<br>年齢がより高齢になると,語音明瞭度は悪くなり補聴効果をすぐに実感するのは困難になる.補聴による聴覚活用は"リハビリテーション"であって,トレーニングによる恩恵が,耳以外にも波及する可能性があることを,難聴者本人や社会に向けて啓発する必要がある.
著者
杉浦 彩子 内田 育恵 中島 務 西田 裕紀子 丹下 智香子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.325-329, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

目的:耳垢は高齢者および知的障害者に頻度が高いことが知られており,湿性耳垢の頻度が高い欧米では高齢者の約3割に耳垢栓塞があるという報告もある.しかしながら乾性耳垢の多い日本においての報告はない.今回,本邦における一般地域住民における耳垢の頻度と認知機能,聴力との関連について検討した.方法:『国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究』第5次調査参加者中,60歳以上で,耳垢確認のための鼓膜ビデオ撮影検査を受け,かつ耳疾患の既往のない一般地域住民男女792人を対象とした.Mini-Mental State Examination(MMSE)と良聴耳の耳垢の有無,良聴耳の4周波数平均聴力との関連について一般線形モデルで検討した.結果:対象792人中良聴耳の耳垢を85人(10.7%)に認めた.MMSE 24点以上の群では良聴耳の耳垢が有るのは10.0%だけだったが,MMSE 23点以下の群では23.3%に耳垢を認めた.また良聴耳の平均聴力は年齢,性を調整しても耳垢有群では無群より有意に悪かった(p=0.0001).また,年齢,性,良聴耳平均聴力,教育歴を調整しても耳垢有の群では有意にMMSE得点が低かった(p=0.02).結論:本邦においても高齢者の1割に良聴耳の耳垢を認め,耳垢により聴力が低下している場合があることが示唆された.また耳垢を有する群では認知機能が悪いことが明らかとなった.
著者
寺西 正明 片山 直美 内田 育恵 戸田 潤二 中島 務 喜多村 健
出版者
Japan Otological Society
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.621-626, 2007-12-25 (Released:2011-06-17)
参考文献数
12
被引用文献数
1

In the present study, we investigated the distribution of patients with sudden deafness in Japan using the data obtained by the fourth nationwide epidemiological survey on sudden deafness conducted by the Research Committee of the Ministry of Health Labour and Welfare in 2001. We investigated the distribution of patients by dividing the whole country into 9 districts and 47 prefectures. The annual number of patients with sudden deafness per 100, 000 was from 17 (Shikoku) to 42 (Chugoku) and from 3 (Yamanashi, Nagasaki) to 48 (Osaka), respectively. More patients tend to be reported in densely-populated areas judging from the data concerning the distribution of patients per 100, 000 in each prefecture.