- 著者
-
斉藤 佐和子
- 出版者
- 日本コミュニケーション障害学会
- 雑誌
- 聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.1, pp.1-10, 2002-04-25 (Released:2009-11-18)
- 参考文献数
- 32
ダウン症は特異な言語障害をもつとされ,言語のさまざまな側面の研究が積み重ねられてきた.しかしいまだ不明の点も多く,研究途上である.ここ10数年の国内外の研究を概観し,まとめた.その結果,以下の知見が得られた.(1)言語獲得以前のコミュニケーション能力については,反応の弱さがあるものの,さまざまなタイプのコミュニケーションを行っており,逸脱や大幅な遅れはなかった.(2)構音の誤りは,浮動性が目立ち,口腔器官の器質的障害や舌運動の拙劣さ,筋緊張の低下など運動能力のみでは説明ができず,なんらかの中枢性の障害が予想された.(3)言語表出は,精神年齢に比し発達が遅れた.しかも語彙と構文で異なった発達を示し,語彙の発達が先行した.健常児の発達過程との比較,他の発達障害児との比較では,研究により異なった結果を示した.(4)言語発達の個人差が目立ち,理解,表出の発達のバランスを考えてもさまざまなサブグループが存在する可能性が考えられた.(5)サイン指導が言語理解・表出を発達させるために効果的であることが立証された.しかし日本におけるダウン症児者の言語理解,表出発達に関しての研究はいまだ少なく,これからの課題である.