著者
斉藤 勉
出版者
日本医科大学医学会
雑誌
日本医科大学雑誌 (ISSN:00480444)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.74-85, 1991-02-15 (Released:2010-12-22)
参考文献数
50

内科的治療により胸痛発作が認められないST下降型狭心症93例と心筋梗塞160例の長期予後とその規定因子について, ホルター心電図, トレッドミル運動負荷試験成績および冠動脈造影所見を用い生命表法とCox型重回帰分析法にて解析し, ホルター心電図にて検出されたsilent myocardial ischemiaの臨床的および予後的意義を検討した結果, 以下の成績を得た.1) 狭心症および心筋梗塞群における心事故発生率はそれぞれ19%, 18%であり, 有意な予後規定因子は狭心症群にて多枝病変, asynergy, silent myocardialischemia, 運動負荷試験によるST下降の順であり, 心筋梗塞群ではsilent myocardial ischemia, 多枝病変の順で両群ともに, 多枝病変とsilent myocardialischemiaが独立した予後規定因子であった.2) Silent myocardial ischemiaを有する狭心症および心筋梗塞の頻度はそれぞれ30%, 38%であり, 諸家の報告とほぼ同頻度であった.3) 心事故発生率は狭心症, 心筋梗塞群ともにsilentmyocardial ischemia非出現群に比し出現群で高く, 心筋梗塞群では有意であった. また, その内訳は狭心症群では冠血行再建術が最も多く, 心筋梗塞群では再梗塞が多かった.4) Silent myocardial ischemia出現群の予後規定因子は狭心症群では多枝障害, 運動時間の短縮, asynergyの存在, 運動負荷試験による狭心症出現であるのに対し, 心筋梗塞群では左室駆出分画の低下, ホルター心電図における最大ST下降度であった.以上より, silent myocardial ischemiaは冠動脈疾患における心事故発生の重要な規定因子であり, silentmyocardial ischemia出現例の心事故発生率は非出現例に比し高かった. 心事故の内訳は狭心症群では冠血行再建術施行例が多く重症な合併症は少なかったのに対し, 心筋梗塞群では再梗塞が多く予後は不良であった. したがって, 心筋梗塞群では症状の有無にかかわらずSMI例に対し早期から積極的に冠血行再建術を施行すべきであると考える. 一方, SMI出現例における予後規定因子は心筋梗塞の既往の有無により異なることが明らかにされ, 治療対策上十分留意すべきであると結論される.
著者
田中 良明 斉藤 勉 藤井 元彰 斉藤 友也 前林 俊也
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

難治性悪性腫瘍に対する放射線治療において、進行固形癌や再発癌は通常の放射線照射単独では十分な治療効果が得られない場合が多い。そこで、三次元原体照射による優れた線量分布と、放射線増感作用を有する温熱療法併用することにより、局所一次効果と臨床症状に改善が得られるかを検討した。対象は平成15年1月以降の4年間に温熱併用放射線化学療法を行った消化器系の癌腫25例(男/女=18/7、平均年齢59.4歳)で、内訳は、膵癌8例、胆嚢癌2例、胆管癌4例、小腸腫瘍2例、S状結腸癌2例、直腸癌7例で、現症別では局所進行・手術不能12例、術後再発12例、その他1例である。放射線治療は可能な限り三次元原体照射、多門照射を適用し通常分割で50〜60Gy、温熱療法はRF波誘電加温装置(Thermotron-RF8)を用い、病巣部41℃、30分以上で週1回、計4回以上を目標に実施した。化学療法は膵癌にはGEM(800-1000mg)、結腸・直腸癌には5-FU/LV、UFT、TS-1もしくはFOLFOXを適用した。結果は、治療内容について予定の70%以上実施できた症例を完遂例とすると、完遂率は68%(17/25)で、臓器別では膵癌(7/8)、結腸・直腸癌(7/9)で完遂率が高かった。画像診断や臨床症状による治療効果は、著効7例、有効12例、無効6例であり、臓器別の奏効率は膵癌(6/8)、結腸・直腸癌(8/9)で高く、胆道癌(4/6)、十二指腸・小腸癌(1/2)では相対的に低かった。完遂率別の治療効果は完遂例で著効6、有効10、無効1(奏効率94%)、非完遂例で著効1、有効2、無効6(奏効率38%)であり、完遂例の方が奏効率が高かった。臨床的に疼痛の軽減、異常分泌物の排泄減少など、QOL(生活の質)の向上が得られる例が多かった。有害事象として、2例に急性胃潰瘍がみられたものの、局所の疼痛、熱感などは軽微であった。以上、本法により奏効率の向上と一次効果持続期間の延長ならびに患者のQOLに改善がみられ、難治性腫瘍に対して有効な治療法であることが明らかとなった。