著者
斉藤 良夫
出版者
公益財団法人大原記念労働科学研究所
雑誌
労働科学 (ISSN:0022443X)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.13-24, 2012-02-10 (Released:2013-09-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

従来の労働者の疲労研究では,彼らの疲れの体験に関して科学的議論が行われてこなかった。そこで,労働者の長期的な疲労の研究方法を構築する目的で,人間の疲れとは何かに関する心理学的考察を行った。まず,ロシアの心理学者A. N. レオンチェフの活動理論を参考にして,人間の生活活動における心理的構造について論じた。次に,人間の疲れの現象には動機,欲求,感情,記憶などのさまざまな心理現象と関連する特徴があることを述べ,“人間の疲れは生活活動へのモティベーションの減退を基本的内容とする認知現象である”と規定した。最後に,労働者の長期的疲労の研究のために彼らの疲れを長期間にわたって調査研究する意義について述べた。
著者
斉藤 良夫
出版者
公益財団法人大原記念労働科学研究所
雑誌
労働科学 (ISSN:0022443X)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1-2, pp.1-16, 2016 (Released:2017-12-21)
参考文献数
30

人間の疲労に関する最初の研究方法論である生理的実体理論が、労働者の疲労研究に有効ではなかった理由を歴史的に明らかにした。この理論では、作業によって労働者の作業能力は必ず低下すること、そして疲労の原因は乳酸などの化学物質の蓄積やエネルギ―消費に基づくと仮定された。労働者の疲労研究は、彼らが職場で作業を行うときモチベーションや欲求などの心理的機能が作用して、彼らの作業パフォーマンスは必ずしも減少するとは限らないことを示してきた。また、その研究は、作業時間の短縮、休憩の挿入、物理的環境の改善、機械の設計の改良などの方策によって、彼らの疲労が軽減することを明らかにしてきた。20世紀前半の終わりには、労働者の疲労の原因は生理的実体理論によって説明できないことが明白になった。