著者
斎藤 喬
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は、当初の研究実施計画に沿って平成19年9月21日から同年12月21日までの91日間フランス共和国に滞在し、研究対象となる「グラン・ギニョル」に関連する文献資料等の収集を行った。これまでパリの「グラン・ギニョル」に関連する研究はフランスにおいてもごくわずかなものであったが、本年はアメリカの研究者によるロンドンの「グラン・ギニョル」についての専門書が刊行された。また、演劇史的観点から「グラン・ギニョル」以前となる17世紀までのホラーのスペクタクルについて論文集が編まれるなど、ごく近年になって非常に著しい成果が見られる。報告書の作成においてこれらの関連資料は不可欠であると同時に、欧米における「恐怖」研究の広がりと深まりを如実に感じさせるものである。しかしながら、宗教学的な視座をもってこのような対象を分析する研究は現在のところ管見の限り見当たらない。上記した「グラン・ギニョル」関係の成果以外に、本年度は雑誌論文が一本掲載された。そこでは、十八世紀西欧において、啓蒙主義思想家たちが当時の民衆を理性の光で開明された状態へと導こうとする言説と、彼らが批判し脱却しようとした旧弊としてのキリスト教的な制度を形作る説教の言説とが「教える」という身振りにおいて形式的な相同性を持つことを指摘している。その他、東京大学で行われた表象文化論学会第二回大会において、「死」と「ホラー」を主題とするパネル発表を企画し構成した。広義のスペクタクルに携わる多くの研究者が集うこの大会において、「恐怖」なる感情を直接の研究対象として提示し取り上げることができたのはたいへん有意義なことである。