著者
斎藤 峻彦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.39-51, 2000-08-25

今日,世界の先進諸国で進められている鉄道改革の中身は日本の新幹線輸送の成功と国鉄民営化の成果による影響を受けているものの,わが国との主要な相違点は,諸外国の-とくにEU諸国の-鉄道改革が鉄道の上下分離政策を柱に実施されている点である。日本の鉄道に比べてはるかに市場条件に恵まれない先進諸外国の鉄道産業は,他の交通手段との競争において平均費用逓減産業が陥りやすい市場の失敗に当面しがちだからである。とはいえ,鉄道の上下分離政策に寄せる各国の思惑は決して一様でなく,相違点は鉄道インフラ使用料の設定やインフラ使用権への競争的参入をめぐる交通政策などに表れ,日本の上下分離のように鉄道整備の資金調達や投資リスク分散を目的とするような例もある。EU諸国が進める国鉄の上下分離はEU共通鉄道政策(指令)を共通のベースとするが,交通市場条件の相違や鉄道改革の相違-とくに国鉄民営化が関係するか-を反映して,その中身は国によってかなり異なる。北欧諸国のように鉄道インフラ使用料を関連外部費用を含む限界費用原理で設定する場合は,インフラ総費用と使用料収入の差額を補填するための多額の公的負担の投入が不可避である。英国やドイツでは上下分離はむしろ鉄道改革-商業的鉄道への復帰-の推進手段として位置づけられ,鉄道インフラ事業自体の採算性復帰と将来における完全民営化をめざしている。鉄道インフラ事業に対する公的負担の投入は利用者負担原則からの逸脱に伴う分配問題を引き起こすが,その正当化には当該交通インフラの存在がもたらす外部効果,すなわち利用可能性=公共財論を援用することが避けられないであろう。
著者
斎藤 峻 和泉 博之
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、嚥下反射と同様な反射経路を持つと考えられる、顔面における体性-副交感神経反射性血管拡張反応の中枢機序を検討した実験方法としては、ネコを全身麻酔導入後、ウレタン-クロラロース-パンクロニウム-人工呼吸下にて麻酔を維持した。脳定位固定装置に固定後、開頭し、三叉神経脊髄路核に同芯円電極を挿入して、三叉神経脊髄路核に電気刺激を行った(2ms、100μA、10Hz、20s)。反射性血管拡張反応は舌神経を中枢性に電気刺激(2ms、30V、10Hs、20s)して起こした。血管反応は下唇をレーザードップラー血流計で測定した。その結果、1)三叉神経脊髄路核の電気刺激は下唇の血流を増加させた。2)舌神経刺激による反射性血管拡張反応は三叉神経脊髄路核へのLidocaine(2%;1μ1/site)注入により可逆性に抑制されkainic acid(10mM;11μ1/site)により非可逆性に抑制された。しかし、下唾液核電気刺激(2ms、30V、10Hs、20s)で生じる反応はこれらの薬剤注入では全く抑制されなかった。3)唾液核にLidocaineを微量・注入すると、反射性血管拡張反応は可逆的に抑制された。4)舌神経及び三叉神経脊髄路核刺激によって起こる下唇の血管増加反応は共に自律神経節遮断薬(Hexamethonium,1mg/kg)により有意に抑制された。以上の結果から、三叉神経脊髄路核は舌神経刺激により生じる体性-副交感神経反射性血管拡張反応を中継していることが示唆された
著者
斎藤 峻彦
出版者
近畿大学経済学会
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.449-463, 2009-07

本給文は地域公共交通政策の策定理念や運用に関する内外格差が顕著であることの原因として交通企業の自立採算原則を重視したわが国の伝統的な地域公共交通政策と地域公共輸送に表れがちな"市場の失敗"現象への対応を重視した先進賭外国のそれとの格差に着目し, それぞれの得失について検討を加える。さらにわが国の地域公共輸送における "市場の失敗"現象が地方部だけでなく大都市圏にも表れるようになった近年の状況を諸例を用いて解説し, 地方都市の都市づくり政策と連動した公共輸送の再生あるいは大都市における快適通勤の実現など, 地域公共交通政策の基本的課題に対応するには公と民の聞の合理的な連携システムの構築が重要であることを論じる。 (英文) This paper discusses the factors in Japan which induced a large inside-and-outside difference concerning local public transport policies in economically advanced countries. As compared with Japan, in which a self-supporting principle of transport companies has been regarded as most important even in the local public transport market that has various kinds of unprofitable businesses, most advanced foreign countries have had sufficient concerns about an effective correspondence to market failure phenomena arising in their local transport markets. However, recently in Japan, some kinds of problems for local public transport have begun to be unsolvable due to the conventional Japanese way of considering transport policy. The achievement of comfortable train commuting in metropolitan areas and the revitalization of public transport in local cities suffering from the blighted inner-city problem are a good example of problems which cannot be solved without public assistance for transport companies. It also necessitates private-and-public partnership for reaching their goals. The purpose of this paper is to clarify the subjects and the policy methods used by Japanese governmental policy for local public transport, related to the possibility of the phenomenon of market failure arising.