著者
新城 長有
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-57, 1975-12-01
被引用文献数
6

筆者はインド型イネChinsurah Boro II品種が雄性不稔細胞質と稔性回復遺伝子をもつことを発見し, 連続戻交雑法を用いて両因子を日本型イネの台中65号へ導入した。育成された上記isogenic系統を主材料にして, 雄性不稔の遺伝, 他形質に対する細胞質と稔性回復遺伝子の効果, 稔性回復遺伝子の座位, 雄性不稔イネにおける花粉退化の時期, 雄性不稔細胞質と稔性回復遺伝子の地理的分布, および雑種イネ育種に必要な三系統の育成法を研究した。結論の要約は下記のとおりである。A雄性不稔の遺伝インド型イネChinsurah BoroIIに由来する雄性不稔細胞質を(ms-boro), その稔性回復遺伝子をRfと命名した。(ms-boro)Rf Rfの遺伝子型をもつ系統は完全雄性稔, (ms-boro)Rf rfは部分雄性稔(花粉稔性約50%)で, (ms-boro)rf rfは完全雄性不稔であった。一方上記3系統の雌性配偶子は健全であった。正常細胞質(n-boro)をもつ個体は核内遺伝子型に関係なく, すべて完全雄性稔になった。(ms-boro)rf rf×(n-boro)Rf rfのF_1世代においては, 部分雄性稔と完全雄性不稔個体が1 : 1の比に分離したが, (ms-boro)rf rf×(ms-boro)Rf rfのF_1では稔性の分離は観察されず, すべての個体が部分雄性稔(花粉稔性約50%)になった。(ms-boro)Rf rf系統の自殖次代には完全雄性稔および部分雄性稔個体が1 : 1の比に分離した。したがって(ms-boro)Rf rf個体においては, 花粉形成期のある時期にrf遺伝子をもつ花粉は雄性不稔細胞質との相互作用で死滅し, Rf花粉のみが正常に発育するといういわゆる雄性配偶体不稔性と結論した。(ms-boro)rf rf×Rf RfのF_1個体の花分稔性は50%を示すが, 種子稔性は90%以上になる。したがって本雄性不稔細胞質と稔性回復遺伝子は雑種イネの育成に利用できるものと考えられる。なお, 雑種イネ育成に必要な3系統, すなわち雄性不稔系統, 雄性不稔維持系統および稔性回復系統の育成方法についても理論的に示した。B量的形質に対する細胞質と核内遺伝子の効果作出可能な6 isogenic系統を育成し, 5反覆の乱魂法を用いて, 1970年の第1期作と第2期作で栽培し, 出穂日, 穂数, 主稈葉数, 稈長, 第1節間長, 第2節間長および第3節間長(節間は最上位から数えた。)を測定し, 系統間の比較を行った。雄性不稔系統の稈長は他の5系統に比較して約7cm短く, 1%水準で有意であった。雄性不稔系統の短稈性は, おもに第1∿第3節間長の短縮に起因する。他の5系統の稈長間には有意差はなかった。雄性不稔系統の示す出穂日, 穂数, 主稈葉数は他の系統と同程度であった。雄性不稔系統のこのような特性は交雑圃における受粉体制に好影響をもたらすものと考えられる。C Rf遺伝子の座位まず三染色体系統を用いて, Rf遺伝子の座乗染色体を確定し, つぎに既2標識遺伝子系統との交雑を行ない座位を明らかにした。三染色体分析では3系交雑法を適用した。まずTrisomics×(ms-boro)Rf Rfの交雑F_1から三染体個体を染色体数の観察によって迸抜し, つぎにF_1の三染色体植物を父本にして雄性不稔系統へ交雑し, 次代植物の種子稔性を調査した。その結果Rf遺伝子はTrisomic C系統の過剰染色体, つまり岩田らの第7染色体に座上することが判明した。Rf fl間の組換価は約0.4%で, pglとRf間のそれは約12%, pglとfl間は約20%であった。したがって第7染色体上における遺伝子の配列順序はpgl-Rf-flである。D花粉退化の細胞組識学的研究本雄性不稔系統における花粉の発育過程を観察した。滅数分列は正常に進行し, 花分四分子も正常に形成される。しかし花粉1核期でその発育を停止し, 2核期以後は観察されない。タペート細胞は正常である。出穂期の不稔花粉はヨード・ヨードカリ液で染色されない。不稔花粉は球形で発芽孔を有するが, 形は正常花粉よりも小さい。E雄性不稔細胞質と稔性回復遺伝子の分布(1)日本の水稲奨励品種について細胞質と核内遺伝子型の検定法を考案し, その検定法に基づいて1962年度の日本水稲奨励品種150品種を検定した。19品種(12.7%)の品種は弱稔性回復遺伝子をもち, 他の131品種は非回復遺伝子をもっていた。弱回復遺伝子をもつ品種のほとんどは京都以南に集中的に分布した。これらの品種のほとんどは在来品種から分離育種法によって育成された品種であった。供試日本稲品種には雄性不稔細胞質は発見されなかった。(2)外国品種について本研究に用いたイネ品種は15国から蒐集した153品種でった。細胞質検定親に遺伝子型(n-boro)rf rfの6系統を, 核内遺伝子検定親には遺伝子型(ms-boro)rf rfの6系統を用いた。これらの検定親と153品種との交雑を行なった。主としてF_1の花粉および種子稔性から, それぞれの品種の細胞質型と核内遺伝子型を推定した。雑種不稔性の併発によって, これらの推定が困難であった組合せについては, B_1F_1か自家受粉による後代系統の稔性から推定した。細胞質の検定を行なった146品種のうち, 4品種がChinsur
著者
新城 長有 大村 武
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.226-230, 1962-12-25

10品種の交配不和合性分析品種と,不和合群未知の106品種の間に正逆交配を行たい,柱頭上における花粉の発芽によって,供試品種の所属不和合群を明らかにした。1)106品種のうちA,B,C群にはそれぞれ39,44,18品種が属したが,D群に所属する品種はみられなかった。残余の5品種,すなわち導入5号,護国X七福,スブラン,台農27号および山城は10分析品種とはいずれも交配和合性を示し,上記4不和合群とは別辞であることが判明した。2)供試品種のうち7品種を除いては自家不和合性であった。3)藤瀬ら(1950)のr甘藷品種の不稔群目録」に未記載の品種66・町名で不和合群または形態的特性の異なるもの13品種を確認した。したがって,品種の特性を再調査し,整理したければ育種操作に支障をきだすことを指摘した。