- 著者
-
新居 池津子
- 出版者
- 日本読書学会
- 雑誌
- 読書科学 (ISSN:0387284X)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.3-4, pp.194-207, 2023-10-20 (Released:2024-02-29)
- 参考文献数
- 16
本研究では,中学校の生徒の指さしや注視に着目し,印刷と電子のメディアにより生徒の読書行為がどのように異なるのかを授業の文脈に即して明らかにした。公立中学校において,15日間のフィールドワークを通して,9時間の授業を参与観察し,ビデオデータを収集した。教科書以外の多様な印刷メディアと電子メディアを利用する生徒の読書行為を観察する場所として適切であると考え,学校図書館を活用した授業を分析の対象とした。まず,1クラス33名の3年生を協力者としたビデオデータより,各メディアの共有場面を1秒間隔で静止画像に切り出し,印刷メディア31シーン(3,611枚),電子メディア49シーン(2,394枚)の合計6,005枚の静止画像を5つの読書行為に分類し,印刷と電子メディアを利用する際の連鎖パターンの特徴を捉えた。次に,マイクロ・エスノグラフィーの手法を応用し,各メディアの特徴的な読書行為の連鎖パターンがどのように生起しているのかを分析した。その結果,以下の2点が明らかとなった。第一に,生徒は,メディアに応じて読書行為の連鎖パターンや生起時間を秒単位で調整していた。第二に,生徒は,読書行為において,注視を有効に活用していた。これらのことは,生徒がそれぞれのメディアを共有する際に示す読書行為には,お互いの文章理解を示す指さしや共同注視だけでなく,個別の生徒の沈思黙考を表す単独で行われる注視も含まれ,授業において重要な機能を果たしていることを示している。したがって,授業においては,特定のテキストに着目させる場合には電子メディア,テキスト理解を踏まえた話し合いを行う場合には印刷メディアを用いるといったような,メディア選択や生徒が個別にメディアと向かい合うことができる時間を確保するといった配慮が必要であることが示唆された。