著者
春日 あゆか
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.229-256, 2016-03

イギリスの大気汚染史においては王権による煤煙対策が行われた一七世紀と近代的な煤煙対策が始まった一九世紀以降に研究が集中している。この論文では、これまで空白期だと考えられてきた一八世紀を、近世的な煤煙対策から近代的な煤煙対策の移行期と位置づける。最初に、煙のイメージは地理的、時間的、社会的に多様性を持つものであったこと、煙が必ずしも否定的なイメージを伴っていなかったことを明らかにする。煤煙対策としては、工芸振興協会から出された煤煙を削減する技術に関する懸賞が見られたが、本格的な対策はボールトン・ワット商会による技術の発明が最初であり、これは利用が拡大した蒸気機関による煤煙問題への対応だった。この発明は改良法への煤煙条項の導入を後押しするものだった。産業革命と大気汚染対策には、対策枠組みの形成という面においてはほとんど時間的なずれがないことを示す。