著者
有賀 ゆうアニース
出版者
日本メディア学会
雑誌
メディア研究 (ISSN:27581047)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.235-252, 2023-07-31 (Released:2023-10-24)
参考文献数
36

Research on the relations between multiracial Japanese (commonly known as hāfu) and their media representation has been growing with the increasing ethnic and racial diversity in Japan. While past studies have focused on the racial inequalities in mass media image and identity politics in the name of hāfu on social media platforms, it remains unclear how multiracial people themselves participate in social media expression and how these opportunities are distributed. This study addresses this gap by investigating the characteristics of multiracial individuals expressing their experiences and identities as hāfu on TikTok, a social media platform for creating and sharing short-form mobile videos. By utilizing exploratory content analysis on TikTok videos with the hashtag Hāfu-Aruaru, this study examined the creators’ gender, race, and nationality and compared these values to those of the Japanese population. The findings revealed that the creators were more likely to be women than men. In terms of race, European, African, and Hispanic individuals were over-represented, while Asians were significantly under-represented. Regarding nationality, Asian individuals-, particularly East Asians-, were less likely to participate than other groups. These findings suggest that the gender, racial, and national inequalities that have been observed in mass media representations of hāfu may be reproduced in social media; in addition social media may provide multiracial people with alternative opportunities to express their racial identities and experience.
著者
有賀 ゆうアニース
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.154-171, 2022 (Released:2023-09-30)
参考文献数
23

戦後日本では連合軍の占領を背景として進駐軍軍人・軍属と日本人女性の間に大量の子どもが出生し,彼ら「混血児」をいかに処遇すべきかという観点から「混血児問題」が顕在化した.先行研究では日本におけるレイシズムが顕現した事例として「混血児問題」が考察されてきた一方で,「混血児」に対する人種差別を問題として理解すること自体がいかにして(不)可能になっていたのかという点は見落とされてきた. 本稿では「混血児」概念の用法と文脈を分析することで,この課題に取り組んだ.分析により次の知見を得た.「混血児」概念が参照されるにあたって「子ども」というカテゴリーが知識として前提されることで,学校教育や児童福祉などが「混血児問題」の制度的文脈として発動された.彼らの人口や人種的差異などの知識を参照することで,教育上の統合・分離という争点をめぐる議論が展開された.しかしこれらの知識が再編されると,「混血児問題」の源泉と責任はむしろ「大人」の「日本人」に帰属される.この理解にもとづき「無差別平等」原則が各方面で採用され,就学機会の提供だけでなく人種差別・偏見の是正が教育・福祉上の課題として追求されていった.こうした〈反人種差別規範〉は,「子ども」という人生段階上のカテゴリーに依存していたがゆえに,人種差別を公的問題として同定し対処する施策が児童福祉や学校教育という制度的枠組に制約されるという限界を内包していた.
著者
有賀 ゆうアニース
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.93-106, 2023 (Released:2023-10-26)
参考文献数
20

近年、ソーシャルメディアの普及を背景として、人種的マイノリティのアスリートによるレイシズムへの抗議が様々な競技で顕在化している。先行研究では、アスリートたちがアスリートとしての立場とアクティビストとしての立場の間でのジレンマに、またときには大規模なバックラッシュやファンとの葛藤に直面することが報告されてきた。本稿では、こうした状況のなかで例外的に反レイシズムに訴えつつ好意的な支持を広く集めたとされる、あるアフリカ系のプロ野球選手のBlack Lives Matter運動に関するTwitterの投稿を事例として取り上げる。人種的マイノリティとしての背景を持つプロアスリートがこうした困難な状況にいかに関与しているのかを分析する。テクスト上の表現を通じて人種や人種主義をめぐるアイデンティティや行為がいかに産出されるのかという視座からその投稿とそれに対するリプライを分析し、以下の知見を得た。彼は人種差別として理解されうる経験を物語りつつ、それが誰かへの非難として受け止められないように自らの物語を慎重にデザインすることで、レイシズムへの抗議とファン、ユーザーとの協調的関係の維持という困難な2つの課題を同時に追求していた。そしてその投稿に対するリプライも、一方では反差別の観点からアスリートへの共感や同調、他方ではスポーツの観点からアスリートへの賛美・応援にそれぞれ分岐することで、アスリートとオーディエンスたちの間で複合的な同調的関係が現出していた。以上の知見は、日本のスポーツ界において人種的マイノリティとしての背景をもつアスリートがいかなる課題に直面し、それを達成しようとしているのかを明らかにしている点で、スポーツ社会学研究へ貢献する。