著者
有馬 和代 島村 珠枝 伊藤 美樹子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.608-617, 2021-09-15 (Released:2021-09-07)
参考文献数
35

目的 本研究は,地域DOTS実践に積極的関与が期待される行政保健師を対象とし,地域DOTS実践の質の現状を『服薬支援』,服薬支援を除く『個別的患者中心支援』,『関係機関連携』の側面から評価し,これらの実践の質に影響を与える要因を個人要因と組織要因から明らかにして,行政保健師の力量形成上の課題を明確化する。方法 2015年の結核罹患率15以上の自治体で結核患者支援に携わる行政保健師958人を対象に,自記式質問紙調査を行い410人の有効回答を得た(有効回答率42.8%)。地域DOTS実践の質は,結核患者支援のエキスパート保健師との文献検討により『服薬支援』,『個別的患者中心支援』,『関係機関連携』の側面を,各々10点満点で評価した。これらと結核対策の実施体制(組織要因)および保健師の結核患者支援経験・意欲や学習状況(個人要因)との関係を,重回帰分析にて検討した。結果 地域DOTS実践の質の得点は,『服薬支援』(7.54±1.69),『個別的患者中心支援』(6.68±1.53),『関係機関連携』(6.91±1.63)であり,『服薬支援』が有意に高かった。『個別的患者中心支援』は4人に1人が10点中5点以下と,自身の活動を低く評価していた。『服薬支援』,『個別的患者中心支援』,『関係機関連携』の間には強い関連があり,特に『個別的患者中心支援』と『関係機関連携』間はr=0.787と関連が強かった。地域DOTS実践の各重回帰モデルに共通して有意な項目は,組織要因では,“個別支援計画を作成”(β=0.112~0.270),“検討会に受持ち患者の個別支援計画を提示”(β=0.113~0.173),“コホート検討会への参加”(β=0.129~0.167)であり,個人要因では,保健師経験年数(β=0.210~0.316)で,いずれも正の関連を示した。また『関係機関連携』のモデルでは,“専門書や雑誌を読む”(β=0.108)が正の関連を示した。結論 行政保健師の自己評価による地域DOTS実践の質の充実には,得点が低く,他の側面との関連が強い『個別的患者中心支援』が優先課題であると言える。また,DOTS実践の質を高めるには,DOTS評価に保健師が参画し,個別患者支援計画の立案や支援計画を提示するとともに成績評価に関わることが有用であることが示唆された。
著者
有馬 和代 横山 美江
出版者
大阪市立大学大学院看護学研究科
雑誌
大阪市立大学看護学雑誌 (ISSN:1349953X)
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-9, 2018-03

本研究は、これまでの結核におけるDOTS対策に関する文献学的考察を行い、今後のDOTS対策推進に寄与することを目的とした。引用文献の検索には、医学中央雑誌web版を用いて原著論文の検索を行った。検索された54件の文献を、日本版DOTS戦略に基づき4つの視点で整理し、法的改正等の動向も交えた。結果、院内DOTSは、患者教育、服薬支援、保健所との連携が重要であり、医療連携は、結核専門機関から一般医療機関へ、医療と服薬支援が的確に繋がるしくみの必要性が指摘されていた。地域DOTSは、患者をアセスメントし、中断リスクや患者のニーズから患者に合うDOTS実施が重要であり、かつ、これらの活動には、患者と信頼関係を築きながら服薬支援する重要性が報告されていた。DOTS推進のためのツールやしくみは構築されつつあるが、一方で支援者に必要とされてきた姿勢を蔑ろにする状況も報告されていた。今後DOTS実施者が、患者中心の服薬支援を行う重要性を的確に継承するための研究が求められる。