著者
杉浦 圭子 伊藤 美樹子 三上 洋
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.717-725, 2007 (Released:2008-01-16)
参考文献数
22
被引用文献数
13 12

目的:本研究は在宅認知症高齢者の問題行動に由来する特有の介護者負担に着目し,従来の介護負担感尺度とは異なる視点から新たに介護負担感(Caregiver's Burden caused by Behavioral and psychological symptoms of Dementia:CBBD,以下CBBDと略す)を評価する項目を作成し,高齢者の介護者全般を対象にした大規模サンプルを用いて測定した上で,CBBDの特性を統計学的に明らかにすることを目的とした.方法:大阪府東大阪市の介護保険サービス利用者から層別無作為抽出した5,000人に対し,H15年10月に郵送による無記名自記式質問紙調査を行った.得られた回答から介護者不在等を除外し,1,818人の介護者を分析対象とした.調査項目は,介護者·要介護者の基本属性,過去の調査や先行研究を元に作成したCBBD 10項目,要介護者の認知障害の有無,全般的介護負担感であった.結果:CBBDは全項目において要介護者に認知障害がある方が有意に選択されていた.特に予想不可で怖い·不安,介護者の言うことを理解しない,理解不能でイライラというような介護者に心理的な緊張や圧迫を与えるような負担のリスクは高かった.認知症の症状とCBBDの関係をみるとCBBDは全項目にて認知症高齢者の興奮·妄想的行動と強い関連がみられた.その他の症状については夜何回も起きる,常時監視の必要性,不潔に嫌悪感は要介護者の記憶障害と,近所に迷惑,非難拒否がつらい,予想不可で怖い·不安という負担は認知症高齢者の見当識障害と強い関連がみられた.さらに,家事が増えた,不潔に嫌悪感がするという負担は認知症高齢者の異食行動と強い関連が確認された.結論:CBBDは要介護者の認知障害に対する感度が高く,問題行動に由来する介護者の心理的な緊張や圧迫などの負担をより詳細に表現することができるため,介護者に対する援助の際の支援ニーズの把握に利用可能であると考えられる.
著者
有馬 和代 島村 珠枝 伊藤 美樹子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.608-617, 2021-09-15 (Released:2021-09-07)
参考文献数
35

目的 本研究は,地域DOTS実践に積極的関与が期待される行政保健師を対象とし,地域DOTS実践の質の現状を『服薬支援』,服薬支援を除く『個別的患者中心支援』,『関係機関連携』の側面から評価し,これらの実践の質に影響を与える要因を個人要因と組織要因から明らかにして,行政保健師の力量形成上の課題を明確化する。方法 2015年の結核罹患率15以上の自治体で結核患者支援に携わる行政保健師958人を対象に,自記式質問紙調査を行い410人の有効回答を得た(有効回答率42.8%)。地域DOTS実践の質は,結核患者支援のエキスパート保健師との文献検討により『服薬支援』,『個別的患者中心支援』,『関係機関連携』の側面を,各々10点満点で評価した。これらと結核対策の実施体制(組織要因)および保健師の結核患者支援経験・意欲や学習状況(個人要因)との関係を,重回帰分析にて検討した。結果 地域DOTS実践の質の得点は,『服薬支援』(7.54±1.69),『個別的患者中心支援』(6.68±1.53),『関係機関連携』(6.91±1.63)であり,『服薬支援』が有意に高かった。『個別的患者中心支援』は4人に1人が10点中5点以下と,自身の活動を低く評価していた。『服薬支援』,『個別的患者中心支援』,『関係機関連携』の間には強い関連があり,特に『個別的患者中心支援』と『関係機関連携』間はr=0.787と関連が強かった。地域DOTS実践の各重回帰モデルに共通して有意な項目は,組織要因では,“個別支援計画を作成”(β=0.112~0.270),“検討会に受持ち患者の個別支援計画を提示”(β=0.113~0.173),“コホート検討会への参加”(β=0.129~0.167)であり,個人要因では,保健師経験年数(β=0.210~0.316)で,いずれも正の関連を示した。また『関係機関連携』のモデルでは,“専門書や雑誌を読む”(β=0.108)が正の関連を示した。結論 行政保健師の自己評価による地域DOTS実践の質の充実には,得点が低く,他の側面との関連が強い『個別的患者中心支援』が優先課題であると言える。また,DOTS実践の質を高めるには,DOTS評価に保健師が参画し,個別患者支援計画の立案や支援計画を提示するとともに成績評価に関わることが有用であることが示唆された。
著者
平 和也 河原 めぐみ 小沢 彩歌 清水 奈穂美 山川 正信 伊藤 美樹子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.413-420, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
13

目的 日本では,平均寿命の延伸に伴い,一般の人々が自身や家族の医療や介護ニーズの意思決定に直面する機会が増えており,Advanced Care Planning(以下,ACP)が推進されている。本研究では,ACPの動機付けと知識獲得を支援するツールとしてゲーミフィケーションを活用した試行プログラム(以下,試行プログラム)を開発し,その短期評価を目的とする。方法 2~4人でプレイするすごろく形式で,止まったマスで高齢期のリスクを提示する問題発生カードをめくり,手札(解決策カード)で解決していくゲーム形式の試行プログラムを開発し,評価のために市民公開講座を開催した。一般の参加者4人1組に研究者1人が同席し,無記名自記式質問紙調査,プレイ中の会話の録音と動画撮影を行った。質問紙の主な調査項目は,年齢,性別といった基本情報と試行プログラムの『ゲームの総合評価』,『ゲームの面白さの持続性』『ゲームの難易度』の3つの観点からの評価(5点満点)や学びになった高齢者のリスクとした。高齢者のリスクは,問題発生カードの内容を選択肢とした設問で回答を得た。また,録音データはトランスクリプト化し,ACPに関する発話の誘発や知識獲得の評価,動画データはゲームの仕様に関する評価に用いた。なお,本調査は滋賀医科大学長の許可を得て実施した。活動内容 参加者は9人であり,50歳代が3人,60歳代が5人,70歳代が1人で全員女性であった。試行プログラム評価(各5点満点で得点が高い方が高評価,高持続性,高難度)は,総合評価は平均4.1±0.6点,ゲームの面白さの持続性は平均4.0±0.8点,難易度は2.2±1.2点であり,高評価で難易度も適正であった。 ゲーム中の発話では,【高齢者のリスクについて】家族の延命治療や在宅看取り希望の療養者の救急連絡などACPにかかわる発話が誘発され,『専門職(ケアマネ)』『地域包括支援センター』などの用語の知識獲得もできていた。また,学びになった高齢者のリスクとしてもACPに関する内容が含まれていた。ただし,解決策カードの解説内容までは理解が及んでいないため,今後,副読書の作成や家庭内で実施した場合の効果検証が必要である。結論 ゲーミフィケーションを活用した試作プログラムが高齢期のリスクに関する知識の獲得および会話を誘発することが示唆された。
著者
山崎 喜比古 井上 洋士 伊藤 美樹子 石川 ひろの 戸ヶ里 泰典 坂野 純子 津野 陽子 中山 和弘 若林 チヒロ 清水 由香 渡辺 敏恵 清水 準一 的場 智子
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

健康生成論と人生究極の健康要因=Sense of Coherence(SOC、首尾一貫感覚)並びにエンパワメントアプローチを取り入れた、支援科学でもある新しい健康社会学の理論と方法を、「健康職場」づくりの研究、病と生きる人々の成長と人生再構築に関する研究、SOCの向上や高いことと密接な正の関連性を有する生活・人生経験の探索的研究、当事者参加型リサーチを用いた調査研究の展開・蓄積を通して、創出し描出した。
著者
山崎 喜比古 井上 洋士 江川 緑 小澤 温 中山 和弘 坂野 純子 伊藤 美樹子 清水 準一 江川 緑 小澤 温 中川 薫 中山 和弘 坂野 純子 清水 由香 楠永 敏恵 伊藤 美樹子 清水 準一 石川 ひろの
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

病・障害・ストレスと生きる人々において、様々な苦痛や困難がもたらされている現実とともに、よりよく生きようと苦痛・困難に日々対処し、生活・人生の再構築に努める懸命な営みがあることに着眼し、様々な病気・障害・ストレスと生きることを余儀なくされた人々を対象に実証研究と理論研究を行い、その成果は、英文原著17 件を含む研究論文26 件、国内外での学会発表60 件、書籍2 件に纏めて発表してきた。