著者
望月 政志 大石 太郎 八木 信行
出版者
富民協会
雑誌
農林業問題研究 (ISSN:03888525)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.391-396, 2013-09-25
参考文献数
15

2011年3月11日の東日本大地震による原発事故以来,原発依存からの脱却と再生可能エネルギーを用いたエネルギー代替の可能性,レジリアントなエネルギーの在り方が注目されている。そうした中で,世界第6位の排他的経済水域を有する我が国においては海洋再生エネルギーへの期待も大きく,中でも洋上風力発電は,大きなポテンシャルを有することが指摘されている。最近では,同じ海面を利用する漁業と洋上風力発電の共存共栄についても検討されてはいるものの,現時点では洋上風力発電所建設に伴う漁業への影響は不明である。他方,漁業の盛んであった被災地では,被災した漁業の復興を目指すのか,あるいは洋上風力発電を通じて再生可能エネルギーを提供していくべきかについて,補助金等を通じた政策的意思決定をどのように進めていくのか明らかにすることが求められている。そうした状況において国内における洋上風力発電の経済波及効果に関する分析は政策的判断をする上で重要と思われるが,既存研究ではほとんど行われていない。また,先駆的研究である松本・本藤では産業連関表を用いた風力発電の経済波及効果の分析を行っているが,洋上風力と陸上風力を区別しておらず,雇用効果のみの分析に留まっている。また,被災地での洋上風力発電に関する経済波及効果については,石川他が洋上風力発電による生産額からみた東北地域(岩手,宮城,福島)での経済波及効果の分析を行っているが,洋上風力発電所建設による直接投資によって生み出される経済波及効果に関する分析は行われていない。そこで本研究では,今後の震災復興における洋上風力発電や漁業振興への政策的意思決定に資する情報提供を行うことを目的として,以下の分析を行う。第一に,洋上風力発電所建設および建設に向けての計画や建設後のメンテナンス等を含むコストを洋上風力発電所設置への投資とみなし,その投資から生み出される経済波及効果を全国レベルおよび地域レベルで試算する。全国レベルでは,「平成17年(2005年)産業連関表」(総務省)を用いた全国での経済波及効果を試算し,国内にて洋上風力発電所を設置した場合の一般的な経済波及効果についてみる。地域レベルでは,海面漁業における被災漁船の被害額が全国で最も大きかった宮城県を事例に取り上げ,宮城県で洋上風力発電所設置に投資した場合の経済波及効果について「平成17年宮城県産業連関表」(宮城県)を用いて試算する。第二に,震災復興に向けて被災漁船の修復・建造のための設備投資を行った場合の経済波及効果と同等の投資を洋上風力発電に対して行った場合の経済波及効果を金額ベースで試算し,両者の比較を行った。第三に,洋上風力発電所が生み出す経済価値(年間発電金額)を試算した。また,宮城県の被災漁船の修復・建造によって生み出される経済価値(海面漁業生産額)についても試算し,洋上風力発電からと被災漁船の修復・建造から生み出される経済価値についても比較した。なお,洋上風力発電の基礎設置形式には,設置海域の水深の違い等により,風車を海底に固定させる着床式と風車自体を海に浮かべる浮体式の設置形式があるが,現時点では着床式が主流でありデータが充実していることから,本稿では着床式の洋上風力発電を想定し試算した。