著者
芦田 裕介 市田 知子 松村 和則 望月 美希
出版者
日本村落研究学会
雑誌
村落社会研究ジャーナル (ISSN:18824560)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.13-44, 2021-10-25 (Released:2022-10-03)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

2020 年度の日本村落研究学会大会では、「ジャーナルセッション」を企画した。これまで『村落社会研究ジャーナル』(以下『村研ジャーナル』)が担ってきた意義と役割を検討しながら、今後のジャーナルのあり方、ひいては村落研究のあり方を考えようというのがこのセッションの目的である。 いうまでもないことだが、本学会においては、農林漁業、農村、地域社会といった対象をめぐり学際的に研究が展開されてきた。つまり、研究対象に対する関心そのものは大きなところで共有されながらも、分析手法や問いの設定の仕方には多様性を有してきたということになる。イエ・ムラ論は本学会にとっては大きな意味を持つ理論設定ではあるのだが、必ずしもそれぞれの研究がその枠づけのなかにあったわけではない。そして『村研ジャーナル』では媒体の性質上、既存の議論の方法を超えて、先進的な研究の試みを展開されてきた。 ただ、学会を取り巻く事情は大きく変化している。投稿論文数の減少の要因にもなる大学院生数の減少、類似の研究を展開できる場となるような大小さまざまな学会の存在、大学等の研究機関における独自のプロジェクトや研究枠組みの創出といった動きのなかで、村研とはどのような問題関心や議論を共有する場なのかということを問われるべき時期にさしかかっている。もちろん、これは本学会に限ったことではなく、さまざまな学会や学問分野においても同様の事態に直面しており、少なくとも人文科学の諸領域においてそれぞれが問うていかねばならない問題でもある。 この「ジャーナルセッション」では、「村落研究」が、自明な領域であるかのようにみえながらも、それぞれの時代の要請や、広く学界の動向を背景に、問いの立て方の幅が転位/変容してきたことのたどり直しを試みた。この「問い」の転位/変容は、学がどうあるべきなのか、という問いとつながっている。いくつかの切り口から、これまでの『村研ジャーナル』の掲載論文を検証し、今後、どのような研究の展開があるべきで、そしてどのような関心を共有していくべきなのかを考える礎にしたい。 *日本村落研究学会では、1994 年から『村落社会研究』の刊行を開始し、第14 巻から『村落社会研究ジャーナル』と改題した。 この特集では、叙述が繁雑になることを避けるため、適宜『村研ジャーナル』の略称を用いることとする。
著者
望月 美希
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.83, 2018-08-30 (Released:2019-11-08)
参考文献数
18

本稿の目的は,東日本大震災後の近郊農村において,地域自治を共同で担っていく基盤とはどのようなものであるかを検討することである.長期的な復興課題に対しては,住民同士の支え合いによる解決が必要であるが,「上からの組織化」による従来のコミュニティ政策の限界も懸念されている.そこで,先行研究で得られた,地域の歴史的背景,外部者との関係性,近隣組織の変容という視点から,「下からの組織化」に至る住民の動向を取り上げる. 対象とする亘理町吉田東部地区において,共同の基盤であったのは部落会であったが,津波被害による移転者が相次ぎ世帯数が減少し,復興段階の課題への対処が難しい状況であった.そうした状況のなか,外部支援者と地区内外住民の対話から,異質性を持つメンバーによる新たな共同関係が展開し,問題解決に挑んでいる.この共同関係は,震災前は弱い紐帯であった個人間のつながりが表出し,組織化に至っていた.