著者
朝蔭 直樹
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.189-193, 2013-04-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

われわれは腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術をTANKO-Totally extraperitoneal repair (TEP) で行っている. その進入経路となる従来Retzius腔あるいは膀胱前腔 (以下Retzius腔) といわれているcavityに関しては諸説あるが, 必ずしも正しく理解されていないと考えるため今回検証を試みた. Retzius腔が腹膜前筋膜浅葉・深葉間の腹膜前腔 (Bogros腔) であるかのような見解があるが, Retzius腔は横筋筋膜と浅葉間に広がる疎なcavityであり, 腹膜前腔とは浅葉を境界 (boundary surface) とした非交通性の異なったcavityである. また膀胱は内胚葉由来なので腹膜前筋膜には被われていないという見解があるが, 内胚葉由来なのは膀胱上皮であって, 膀胱という「腔」は中胚葉由来の腎筋膜から連続した腹膜前筋膜である膀胱筋膜に包埋されていると理解するべきである.
著者
朝蔭 直樹 原口 美明 鈴木 貴久 塚田 健次 山本 哲朗 小林 滋
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.2416-2420, 2009

症例は69歳,女性.24年前より全身性強皮症と診断されている.1年ほど前から直腸脱が出現し早急に増悪,立っているだけで超手拳大の腸管が脱出し当科を受診した.身長149cm,体重34kgと小柄痩せ型で顔面,手指に茶褐色の光沢を持った皮膚硬化を認めた.怒責診では約10cmの直腸が脱出し,脱出腸管は浮腫状であたかもソフトボール状に緊満していた.怒責時腹部CT検査を施行すると,脱出腸管壁内にガス像が認められ脱出腸管反転部内への小腸陥入を伴う直腸脱と診断した.手術は会陰式直腸S状結腸切除術(Altemeier手術)に肛門挙筋形成術を併施した.術後経過は順調で,現在術後1年半経過したが脱出はなく特に排便機能にも問題はない.全身性強皮症は結合組織の線維性硬化性病変を伴い,直腸脱の発症要因の一つと考えられた.本症例のような基礎疾患を有する場合,侵襲が少なく肛門挙筋形成も行えるAltemeier手術は有効であると思われた.