著者
KAZUHITO YOKOYAMA AKINORI NAKATA YUTO KANNARI FRANK NICKEL NICOLE DECI ANDREAS KRAUSE JAN DETTMERS
出版者
The Juntendo Medical Society
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
pp.JMJ21-0039-OA, (Released:2022-05-27)
参考文献数
22

Objective The concept of self-endangering work behavior (SEWB) was recently proposed to describe problematic behaviors to cope with heavy workloads and self-management. Although SEWB may enable workers to achieve immediate goals, it risks health and long-term work capacity. In this study, we developed a Japanese version of the SEWB (J-SEWB) scale, which was originally in German, and verified its validity and reliability.Materials The original SEWB scale consisted of 21 items, constituting five subscales: “Intensification of working hours,” “Prolongation/extension of working hours,” “Refraining from recovery/leisure activities,” “Working despite illness,” and “Use of stimulating substances.” We translated the scale into Japanese, then checked the wording using back-translation.Methods The J-SEWB scale and questions for working conditions and sociodemographic variables was administered via an online survey with 600 participants registered with an internet survey company in Japan. Cronbach’s α coefficients were calculated for each subscale to assess internal consistency. Construct validity was examined using principal factor analysis with equamax rotation. An analysis of variance evaluated the relationships of J-SEWB scores with working conditions and sociodemographic variables.Results Cronbach’s α coefficients ranged from 0.846 to 0.964 for five subscales, and 0.957 for all 21 items (total J-SEWB score) in 600 participants. The factor analysis identified five factors, classifying 21 items into corresponding subscales. Total J-SEWB scores were significantly higher for flexible work as well as longer working hours.Conclusions The J-SEWB scale appears to be an effective tool for assessing SEWB in Japanese employees, with satisfactory reliability and construct validity.
著者
横山 和正 服部 信孝
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.60, no.Suppl.2, pp.s53-s59, 2014 (Released:2015-02-14)
参考文献数
25

ワクチンというと皆さんはエドワードジェンナーについて学生時代に学んだかもしれません.当時経験的に知られていたのは,牛痘にかかったヒトは天然痘にかからないですむ,もしくは天然痘にかかったとしても死に至らず天然痘感染による症状が軽くすんでいたことから治療への応用が検討されました.他の医師が行った実験治療では多くの死亡事故もあったようです.それを踏まえてジェンナーが行ったのは,天然痘予防のためのウシ天然痘(牛痘)のヒトへの接種実験でした.現在ワクチンという呼び名で一般化したこの試みは見事に成功し数多くの人命が救われ,184年後の1980年5月,WHO(世界保健機関)は天然痘の根絶を宣言しました.このようにワクチンは正しく使用すれば効果も高く,社会に貢献するのはあきらかですが例外もあります.本日参加された皆さんはワクチンの適応,時期,その限界や副作用についてもよく知っておく必要があると思います.繰り返しになりますが,ワクチンに限らず万人に対して同じ作用・効果を起こす薬剤は存在しませんし,個々のワクチン接種時の免疫状態によって効果や副作用が変化する可能性もあるのです.またご自身,家族,友人,会社,村,市,地方,県,国,世界と接種対象のスケールアップに伴いワクチンの主たる目的も変わってきます.ワクチンはもともと個人の体内に存在していない異物(非自己)を,皮下,筋肉注射,静脈注射,経鼻,経口ルートから投与し,個人のもつ免疫能を強制的に賦活させるものです.よって,場合によっては死に至るような重篤な副作用を起こす可能性が常にあります.今回の公開講座は広くワクチンの特集であり,他の演者からすでにそれぞれの分野における最新の報告が行われてきたかと思いますが,私の講演ではインフルエンザワクチンにより起こりうる神経系の副作用についてまずお話をします.また,最近話題になっている子宮頸癌ワクチンと神経系への副作用,さらには私の主たる研究である多発性硬化症のワクチンを利用した免疫治療が歴史的にどのように行われてきたかについて述べ,日本でも増加しているアルツハイマー病に対してのワクチンによる免疫治療とその誤算,最後に今後日本でもますます増えるであろう様々なワクチンにどう向き合うかの基本姿勢についてまとめて述べます.自己を病気から守るためには非自己である感染のみならず,自己に対しての過剰反応である免疫現象を理解することが必要不可欠なのです.
著者
酒井 シヅ
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.112-119, 2013

順天堂三代目堂主・佐藤進は明治時代, 日本でもっとも有名な医師であった. 進は明治2年 (1869), パスポート第1号をもって明治7年 (1874) までドイツに留学, アジア人として最初にベルリン大学医学部卒業生となり, 医学博士号を取得して帰国. この間, 家族との往復書簡が残る. それと進の自伝をもとに, 進の留学生活を述べた.
著者
石島 旨章 久保田 光昭 寧 亮 劉 立足 金子 晴香 二見 一平 定月 亮 羽田 晋之介 ANWARJAN YUSUP 清村 幸雄 平澤 恵理 斎田 良知 高澤 祐治 池田 浩 黒澤 尚 金子 和夫
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.138-151, 2013-04-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
37
被引用文献数
7 3

運動器障害によって介護が必要な状態や要介護リスクの高い状態を表す「ロコモティブシンドローム (ロコモ, 運動器症候群) 」が提唱され, 変形性膝関節症 (knee osteoarthritis, 以下, 膝OA) はその代表疾患である. 膝OAは, 関節軟骨の変性と摩耗を病態の首座に, 関節内構造体である滑膜や軟骨にも障害が及び, 関節の形態と機能を障害し, 歩行時痛などにより移動能力が障害され, 最終的には生活の質 (activity of daily living;ADL) を著しく低下させる, 緩徐であるが進行性の疾患である. その罹患患者数は, 超長寿化を迎えた本邦において約2,500万人にものぼり, そのうち約800万人が膝痛と共存しながら過ごしている. 近年, 病態については, 従来のリスク因子に加えてメタボリック症候群の罹患との強い相関などが明らかとなっている. また, このように高い罹患率にもかかわらず, 日常臨床ではその診断や治療効果の判断を, 単純X線にのみ頼っているが, MRIや関節マーカーを用いることで, 病態の把握が進み, さらに, 臨床現場においても医療者に患者情報の増大をもたらす可能性を秘めている. 数ある治療法のなかに疾患修飾型治療法は存在せず, すべて疼痛緩和を目的とした症状緩和型治療法でしかない. 近年, 膝OAに対する薬物治療に, 弱オピオイドが使用可能となり, 治療選択肢が広がった. また, 外科的治療法では, 膝OAに対する関節鏡下手術の無効性が明らかとなる一方, 人工膝関節置換術の術後成績は飛躍的に向上している. さらに, 脛骨高位骨切り術に用いる内固定材の進歩により, その適応と信頼性が高まっている. したがって, 外科的治療法にも選択肢の幅が広がり, ADL低下を招くほどの末期膝OAにおいては, 不必要に保存療法を長引かせることなく, 外科的治療法を選択すべきである. しかし, 現時点では各種治療法の重症度別の使い分けなどは定まっておらず, エビデンスに基づいた治療法の選別と秩序だった使用方法の確立が求められている.
著者
SHIYUE HE KAZUO KEMPE YUICHI TOMIKI MASAKO NISHIZUKA TSUTOMU SUZUKI TAKASHI DAMBARA TAKAO OKADA
出版者
The Juntendo Medical Society
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.142-148, 2015 (Released:2015-08-06)
参考文献数
10
被引用文献数
3 8

Purpose: The present study was conducted to compare students’ entrance examination scores for a school and their grades following admission to discuss the methods for implementing screening tests and advice or guidance for students admitted to the school.Subjects and Methods: The subjects were students who took the general entrance examination for the Faculty of Medicine of Juntendo University and were admitted between 2004 and 2006. The entrance examination scores and academic performance were converted using a scale of one to 100, and Pearson’s product-moment correlation coefficient was calculated.Results: There were significant correlations between the English test scores for the entrance examination and academic performance in many subjects. On the other hand, there were non-significant negative correlations between the mathematics test scores for the entrance examination and academic performance in many other subjects.Conclusion: Students’ English test scores for the entrance examination are important since their academic performance following admission can be predicted from them. Students’ mathematics test scores for the entrance examination were negatively correlated with their academic performance in many subjects. Therefore, when students are provided with guidance for learning following admission, their mathematics scores should be taken into consideration.
著者
野島 美知夫
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.21-30, 2013-02-28 (Released:2014-11-26)
参考文献数
34

近年, 子宮頸がんは40歳以下の若年者に増加してきています. それは子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス (HPV) が蔓延していることが考えられます. 子宮頸がんの原因がHPVであるということがわかったことにより, 予防ワクチンが開発されました. 現在は2種類, 2価ワクチン, 4価ワクチンが承認され使われています. それぞれのワクチンで特徴をもっていますが, このワクチンですべての子宮頸がんが予防できるわけではありません. 国, 自治体の努力により中学1年生から高校1年生まで公費接種が受けられるようになり, その接種率は70-80%に達している地域もあります. 一方, この世代以上の接種率はまだまだ低く1-2%といわれており, 積極的な接種の働きかけが必要と思われます. 二次予防である子宮頸がん検診も重要です. 近年, 欧米ではこの検診にHPV検査が併用されるようになり効果を上げ, 検診のシステムも新しく考えられています. 日本ではがん検診におけるHPV検査の導入はまだですが子宮頸がんの原因がHPVであることがわかっている以上は, 近い将来導入されると思われます. 一次予防としてのHPVワクチン接種, 二次予防としての子宮がん検診, この2つがうまく重なることによって子宮頸がん撲滅への道が初めて開かれると考えられます.
著者
黒崎 碧 田中 恭子 江原 佳奈 清水 俊明
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.490-495, 2013 (Released:2014-05-29)
参考文献数
13
被引用文献数
1

目的:被虐待児における認知および精神症状の特性について検討する.方法:当院を受診した被虐待児21例を対象に,臨床所見および心理検査所見を考察し,その特性につき検討を行った.結果:被虐待児の精神症状として,境界域知能,多動,衝動性,言語社会性の遅れなどがみられ,認知機能は偏りが大きく,特に習得度が低く,同時処理能力優位である傾向にあった.また,虐待の原因として考えられた要因には患児自身の疾病,養育者側の経済的問題や心身の疾患が存在するケースがみられた.結論:虐待の長期化は,子どもの発達を著しく阻害し,脳へのダメージも大きいといわれており,その後遺症として,発達障害に酷似した症状を引き起こすといわれる.虐待の早期発見と適切な介入等,長期的な心理社会的支援などの確立が急がれる一方で,虐待の影響が発達期の脳発達に及ぼす影響をさらに多角的に検討を深め,多様性に富む臨床像に対する支援の方向性を見出す必要性があるものと思われた.
著者
大塚 宜一
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.2-7, 2014 (Released:2014-07-31)
参考文献数
12

特定の食物を食べることで繰り返す湿疹,咳,腹痛,下痢,下血,体重増加不良等の症状をきたす疾患が食物アレルギーである.食物アレルギーは「免疫反応」を介して生じる.人体に対して有害な細菌やウイルスを異物と認識して排除する反応が「免疫反応」だが,生体に必要な特定の食物を誤って異物と認識して「免疫反応」が誘導されることが食物アレルギーである.口から摂取された食物すなわち蛋白質は腸に入り消化酵素により消化・分解される.通常,蛋白質がアミノ酸まで消化されればアレルギー反応は生じない.しかし,十分に消化されない蛋白質(ペプチド)は食物アレルギーの原因抗原となる.特に,離乳食を食べている乳幼児は消化機能が未熟で,食物をアミノ酸まで完全に消化できないことも多く,その結果,アレルギー反応が生じやすいと考えられる.一方,ヒトには,口から摂取した食物に対してアレルギー反応を起こさないようにする「寛容」と呼ばれる機能がある.特に,乳児期の免疫機能は,寛容を誘導しやすいと考えられる.乳児期の消化機能の未熟性は,食物に対する寛容を誘導するための自然の仕組みとも考えられる.アレルギーの予防という観点からは,食物負荷試験により重篤なアレルギー症状が出ないと確認されている食物であれば,少量から積極的に食べることで寛容を誘導することができる(経口免疫寛容).また,卵白は20分程度加熱することで,牛乳はオーブンで加熱することで抗原性が抑えられることが報告されている.アナフィラキシーショックを呈することもあり,注意が必要であるが,医師の管理のもと,より安全な食べ方を見つけ,継続して食べることが食物アレルギーの治療となる.
著者
山城 雄一郎
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.25-34, 2014
被引用文献数
1

近年,細菌の検索に導入された菌の遺伝子DNAやリボゾーム16SrRNAをターゲットにした分子生物学的手法の普及により,ヒトの腸内細菌の動態が,培養不可でそれまで知りえなかった菌も含め,より詳細に明らかになってきた.ヒト成人の腸内細菌には,約500~1,000種,100兆個の菌が生着し,その構成の割合は食事(栄養)の影響を受けて生涯を通して変化し,また内的,外的な両方の環境の変動にも修飾されて敏感に反応する.腸内細菌構成菌の変動は,分子シグナルを介して宿主の代謝と免疫など,生理,生化学的機能に影響し,宿主の健康と病的状態に密接に関係する.胎児期に無菌の腸管は,出産時に産道を通過する際に母親から菌を獲得し腸管内へ生着が開始する.母乳栄養児では生後3ヵ月頃までにBifidobacteria優位の菌叢になり,生後6ヵ月頃には全体の90%以上を占めるようになる.しかし離乳食の導入に伴い,人工栄養児のそれと次第に差異は縮小する.他方未熟児は帝王切開(帝切)で出産する例が多く,母親から出産時に菌を獲得する機会を逸し,NICU等の環境から得る菌が最初に腸管へ生着する結果,腸内細菌構成の異常(dysbiosis)を生じ,新生児期の感染や壊死性腸炎(NEC)等の病的潜在リスクとなる.いわゆる善玉菌の腸内細菌,特にBifidobacteriaは,消化吸収,免疫を含む腸管防御等の腸管機能や解剖学的発達,成長に重要な役割を果たす.腸内細菌と食事(栄養)は,相互に密接な関係を有する.食習慣は腸内細菌構成に影響を与え,蛋白質や動物性脂肪(高飽和脂肪酸)の食事摂取が多いとEnterobacteriaceae(Preteobacteria)の割合が多く,高炭水化物食はPrevotellaが増加する.腸内細菌は,食事中の難消化性炭水化物(食物繊維)を代謝,発酵し短鎖脂肪酸(SCFs)の酢酸,プロピオン酸,酪酸を主として産生する.酢酸とプロピオン酸は宿主の,酪酸は直腸上皮細胞それぞれのエネルギー源となる.また,腸内細菌は胆汁酸代謝,食事由来のcholine代謝に関与し,前者は脂質代謝や糖代謝,後者は動脈硬化の進展に関係する.世界的な流行の様相を呈する肥満の元凶は,近代の社会環境の変化に基因したエネルギー摂取と消費のアンバランス,すなわち "西洋食" と称される高カロリー,高(飽和)脂肪食の摂取にある.高カロリー,高脂肪食はFirmicutes, Proteobacteriaの増加,Bacteroidetesの減少など,腸内細菌構成の異常dysbiosisを招く.これらの増加した菌はエネルギー産生や抽出能が高く,宿主の脂肪組織を増加させる.さらに細胞毒性かつ炎症惹起作用のあるリポポリサッカライドを産生し血中に吸収され(endotoxemia),軽度でしかし慢性の炎症を生じる.そのため,炎症性サイトカインが分泌され,インスリン抵抗性の原因となる.インスリン抵抗性が長期化すると2型糖尿病(T2DM)やその他のメタボリック症候群の高リスク因子となる.共同研究者の佐藤淳子ら(順天堂大学代謝内分泌科)は,T2DM患者の腸内細菌が健常者のそれと異なり,その20数%で菌血症を伴うことを世界で初めて発表した.腸内細菌の異常は毒性のある二次胆汁酸産生を増加し,肝に運ばれ肝細胞癌の発症の原因になることをがん研究会の大谷らは報告している.大腸癌の一部も二次胆汁酸がその発症に関与していることが示唆される.腸内細菌と宿主の免疫,代謝等の密接な関係から,腸内細菌のdysbiosisが宿主の健康と疾病に影響を及ぼす学術的エビデンスが近年急速に蓄積されてきている.これに伴いProbioticsによる健康管理,疾病の予防や治療をも見据えた研究も活発になり,近い未来の医療に大きなインパクトを与えるものと期待される.
著者
REI MOMOMURA
出版者
The Juntendo Medical Society
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.31-35, 2022 (Released:2022-02-28)
参考文献数
15

Osteoporosis is an important issue related to life expectancy and healthy life expectancy in Japan, where the super-aging population is growing. Currently, in Japan, some kind of assistance is needed for an average of 10 years at the end of life. In many cases the reason assistance is needed is loss of mobility due to a fracture caused by a fall. When people suffer one fracture due to osteoporosis, they are also more likely to have another fracture, which is called a secondary fracture. Breaking the negative chain of fractures is very important in osteoporosis. In addition, if patients suffer a loss of mobility due to a compression fracture of the spine, this activity cannot be regained even if the fracture is healed. To prevent this from happening, it is also important to heal fractures rapidly, so that patients can quickly return to normal life, thus extending healthy life expectancy.
著者
森 創 堀口 逸子 清水 隆司
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.267-272, 2013-06-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

目的: 開眼状態における脳波測定法を用いた前頭葉脳波スペクトル分析のうつ状態像の判定における有効性について検討した. 対象と方法: うつ状態群22名ならびに対照群21名に対して開眼状態での脳波測定による脳波スペクトル分析を行った. 脳波はFp1, Fp2に相当する位置より導出した. またSelf-rating Depression Scale, Social Adaptation Self-evaluation Scale, Gotow Alexithymia Questionnaireの質問紙調査を行った. 結果: 脳波スペクトル分析において, S波のパワースペクトル値は, うつ状態群で有意な増加を認めた. 脳波の各成分帯域の出現頻度は, うつ状態群でのα成分帯域の有意な低下およびθ成分帯域の有意な増加を認めた. 各質問紙調査においてうつ状態群と対照群に有意差を認めた. 対照群とうつ状態群の設定は, 質問紙調査結果等から妥当と考えられた. 考察: うつ状態群は, 安静時脳波による先行研究と同様に活動時脳波のパワースペクトルが増大すると考えられた. 脳波成分の出現頻度は, 安静時脳波による先行研究の結果と異なるが, 活動時脳波における特徴を示していると考えられた. 近年うつ病の診断や治療効果の判定などについては, 精神科医による問診, また質問紙等をはじめとした評価尺度が多数存在するが, 生理的指標を用いた客観的検査法はいまだ開発途上にある. 脳波検査は, 頭皮電極で得られる脳の電気活動を時間的, 空間的に記録し, 脳の活動状況を客観的に評価するものであるが, 従来の脳波検査は, 電源雑音を遮蔽した専用の脳波計測室で行う必要があった. 近年, 遮蔽空間が不要で覚醒開眼生活行動下での測定が可能な小型脳波計が開発されたが, 今回の結果より, 開眼状態における脳波測定法を用いた前頭葉脳波スペクトル分析について, うつ状態診断補助としての利用可能性が示唆された. 本機器を使用した検査は, 使用に際して環境的制限が少ないこと, さらには被験者にとって非侵襲的であり負担が少ないことから, さらなる研究により利用可能性を検討すべきと考えられた.
著者
TAKANORI WAKAYAMA
出版者
The Juntendo Medical Society
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.64, no.Suppl.1, pp.135, 2018 (Released:2019-06-26)

Introduction: Omega-3 polyunsaturated fatty acids (PUFA) such as eicosapentaenoic acid (EPA) are believed to prevent the progression of osteoarthritis (OA), since they act as an antioxidant and possess anti-inflammatory effect to suppress protein catabolism in cartilage and synovial cells. However, association between oxidative stress and fatty acid (FA)-related markers in synovial fluid of knee OA have not been fully understood. Therefore, the aim of this study is to investigate the relationships between oxidative stress and FA-related markers in the patients with knee OA.Methods: We examined the oxidative stress- and FA-related markers both in the serum and synovial fluid taken from the patients with knee OA (male/female: 4/6). The Kellgren-Lawrence classification of knee OA in these patients were II-IV. The average age was 60.7 years old. The levels of biological antioxidant potential (BAP) and reactive oxygen metabolites (d-ROMs) were measured using free radical analytical system (FRAS4, Wismer Co.Ltd., Tokyo Japan). Omega-6 PUFA (arachidonic acid: AA), omega-3 PUFA (EPA), and eicosanoid (Leukotriene C4: LTC4, Thromboxane B2: TXB2, hydroxyeicosatetraenoic acid: HETE) were investigated as FA-related markers using LC/MS/MS method. In statistics, Spearman’s rank correlation coefficient (r) and statistical significance (p) were calculated using GraphPad Prism version 6.0 (GraphPad Software). The values of p<0.05 were considered to be statistically significant.Results: The serum level of BAP/d-ROMs ratio (antioxidant capacity) was lower than that of synovial fluid; 5.8 (95%CI: 4.9-6.6) in serum and 18.9 (13.2-24.7) in synovial fluid (p<0.01, paired t-test), the ratio of serum/synovial fluid was 0.31, suggesting that antioxidant capacity within joint is higher than that in serum. The ratio of serum/synovial fluid of FA were as follows; EPA: 3.8 (1.5-6.1), DHA: 0.4 (0.2-0.6), AA: 0.7 (0.5-0.9). The serum/synovial fluid ratio of EPA/AA (indicator of the anti-inflammatory capacity) was 4.3 (1.3-7.3). These data indicates that the levels of FA in synovial fluid depend on the types of FA, and FA-related anti-inflammatory capacity is low in the synovial fluid of knee OA. There were significant negative correlation between the levels of BAP/d-ROMs and AA, LTC4, 15HETE, 12HETE (r=-0.72, -0.79, -0.85, -0.68, respectively, p<0.05) in synovial fluid, whereas no correlation in serum, suggesting that oxidative stress within knee joint are related to the activation of AA cascade.Discussion: We examined the relationships between oxidative stress and FA metabolism both in serum and synovial fluid of knee OA and found that oxidative stress in synovial fluid was involved in the AA cascade. Since omega-3 PUFA such as EPA and DHA poses anti-inflammatory effect, administration of these FA would be helpful to relief the inflammation of knee OA via suppression of oxidative stress within knee joint. Furthermore, our data suggest that the improvement of systematic methaboric conditions such as hyperlipidemia can loose their body weights in obesity individuals as well as surpress inflammation within the knee joint. Therefore, it’s important to evaluate general health conditions when we manage the patients with OA.
著者
TAKESHI NARA SACHIO MIURA
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.389-395, 2015 (Released:2015-11-17)
参考文献数
26
被引用文献数
1

Chagas disease, or American trypanosomiasis, is caused by the parasitic protist Trypanosoma cruzi. 10 million people are estimated to live with this disease. Chagas disease is endemic to the Americas, which corresponds to the distribution of the insect vectors, blood-sucking triatomine bugs. The presence of many mammalian species as reservoir hosts and the occurrence of a long asymptomatic phase of infection that may last more than 10 years make control difficult. In the United States, domestic transmissions from triatomines to humans are rarely reported, but it is estimated that there are 300,000 people living with Chagas disease among Latin American immigrants. Patients with Chagas disease are also found outside the Americas, as well as in Japan, via international migration. Thus, there is a growing need to understand the current situation in non-endemic countries in terms of establishing better preparedness against the incursion of Chagas disease.
著者
原田 静香 杉本 正子 秋山 正子 岡田 隆夫 櫻井 しのぶ
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.480-489, 2013 (Released:2014-05-29)
参考文献数
42

目的:入院中の患者の退院調整において,訪問看護師が病院に出向き,直接退院調整に関与した場合としなかった場合で,在宅移行期に起きた家族介護者の状況の違いについて比較し,検討した.対象:都内急性期病院を退院した65歳以上の在宅療養者を主に介護する家族12名.方法:対象者のうち,入院中に訪問看護師が病院に出向いて行う退院調整を受けて退院した場合を「関与あり群」6名,入院中には訪問看護師の関与がなく病院で通常の退院調整を受けた場合を「関与なし群」6名とした.調査は事例ごとに自記式質問紙および,半構造化インタビューを行った.聞き取った回答は研究者が検討し分類した.退院調整から在宅移行時の経験や思いについては質的帰納的に分析した.結果:①関与なし群では,家族介護者の主観的な健康度が低く,介護負担感が高い傾向があった.②退院調整へ関与した専門職人数は,関与あり群が平均4.3名,関与なし群で平均2.8名であった.関与あり群は,病院と在宅ケア事業者の双方向の関与があったが,関与なし群は在宅ケア事業者の支援が少なかった.③保健・医療・福祉サービスの導入状況では,関与あり群は入院中にサービスの導入が計画され,退院後に追加導入はなかった.一方,関与なし群は退院後に介護力不足が顕在化し,サービスを追加導入していた.④在宅移行時の経験として,関与あり群は訪問看護師の支援に安心感を持ち,介護方法の指導を受け,介護を何とかやっていけると回答した.関与なし群は在宅移行時の不安感と,介護への戸惑いを感じていた.結論:訪問看護師が退院調整に関与した場合,①家族介護者は健康状態の悪化や介護負担の増大を回避できると示唆された.②退院調整に多職種が関与し,地域連携の促進が可能である.③入院中に的確な保健・医療・福祉サービスが導入できることが示唆された.④家族介護者は在宅移行期より安心感をもち,生活状況に合わせた支援が補完され,介護へ適応するための支援が行われていた.訪問看護師の関与のなかった場合は,介護負担が大きく在宅移行期の不安感や介護への戸惑いがみられた.
著者
TAKASHI ABE YOSHIMITSU KOHMURA KOYA SUZUKI YUKI SOMEYA JEREMY P. LOENNEKE SHUICHI MACHIDA HISASHI NAITO
出版者
The Juntendo Medical Society
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
pp.JMJ23-0017-P, (Released:2023-07-24)
参考文献数
21
被引用文献数
4

Handgrip strength as a biomarker is being studied as a factor in predicting disease onset. However, the effect of improving handgrip strength through physical exercises, such as sports during the developmental period, on disease prevention has yet to be fully elucidated. The Juntendo Fitness Plus (J-Fit Plus) Study is a unique database of anthropometric and physical fitness measurements with over 50 years of accumulated data. It has the potential to explore the effects of sports on the association between handgrip strength and morbidity/mortality. We first outline previous studies on the impact of physical exercise interventions on handgrip strength, separated into adulthood and developmental period. We then introduced a unique effort to investigate the effects of sports using the J-Fit Plus Study database and describe the challenges of finally elucidating the impact of exercise on the association between handgrip strength and health status.
著者
TAKENORI INOMATA JAEMYOUNG SUNG ALAN YEE AKIRA MURAKAMI YUICHI OKUMURA KEN NAGINO KENTA FUJIO YASUTSUGU AKASAKI AKIE MIDORIKAWA-INOMATA ATSUKO EGUCHI KEIICHI FUJIMOTO TIANXIANG HUANG YUKI MOROOKA MARIA MIURA HURRAMHON SHOKIROVA KUNIHIKO HIROSAWA MIZU OHNO HIROYUKI KOBAYASHI
出版者
The Juntendo Medical Society
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
pp.JMJ22-0032-R, (Released:2023-01-26)
参考文献数
63
被引用文献数
1

During the 5th Science, Technology, and Innovation Basic Plan, the Japanese government proposed a novel societal concept -Society 5.0- that promoted a healthcare system characterized by its capability to provide unintrusive, predictive, longitudinal care through the integration of cyber and physical space. The role of Society 5.0 in managing our quality of vision will become more important in the modern digitalized and aging society, both of which are known risk factors for developing dry eye. Dry eye is the most common ocular surface disease encountered in Japan with symptoms including increased dryness, eye discomfort, and decreased visual acuity. Owing to its complexity, implementation of P4 (predictive, preventive, personalized, participatory) medicine in managing dry eye requires a comprehensive understanding of its pathology, as well as a strategy to visualize and stratify its risk factors. Using DryEyeRhythm®, a mobile health (mHealth) smartphone software (app), we established a route to collect holistic medical big data on dry eye, such as the subjective symptoms and lifestyle data for each individual. The studies to date aided in determining the risk factors for severe dry eye, the association between major depressive disorder and dry eye exacerbation, eye drop treatment adherence, app-based stratification algorithms based on symptomology, blink detection biosensoring as a dry eye-related digital phenotype, and effectiveness of app-based dry eye diagnosis support compared to traditional methods. These results contribute to elucidating disease pathophysiology and promoting preventive and effective measures to counteract dry eye through mHealth.

2 0 0 0 OA 排便と健康

著者
浦尾 正彦
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.16-24, 2014 (Released:2014-07-31)
参考文献数
31
被引用文献数
2 1

便秘とは,排便の頻度が週2回以下で,便が硬く,排便困難,残便感がある状態といわれている.実際には放置されていたり自己流の対処をされていることが多い.が,便秘患者では労働生産性が障害されたり,肛門疾患や結腸癌などの様々なリスクも増加することが知られており,しっかり取り組むべき疾患である.慢性便秘は,症候性,薬剤性,器質性,機能性便秘などに分類される.症候性便秘は神経疾患,内分泌疾患の症状の一部としてみられるもの,薬剤性便秘は薬剤によって誘発されるもので薬剤の中止変更で改善する.器質性便秘は結腸などの器質的変化によるもので時として手術を必要とする.特に排便時出血,50歳以上,大腸癌の家族歴,急激な体重減少がある場合は専門医に相談する必要がある.ほとんどの慢性便秘は機能性便秘であり,生活習慣の改善でコントロールできることが多い.すなわち,①睡眠を十分にとる,②1日の生活リズムを整える,③朝食を食べる,④軽い運動を行う.また腸内環境を整えるために,⑤食物繊維を摂る,⑥1日2l の水分摂取,⑦ヨーグルトや整腸剤を摂取する.またスムーズな排便のために,⑧排便マッサージ,⑨排便姿勢の調整,⑩リラックスできる環境づくりなどがあげられる.機能性便秘を放置することで,さらにひどい便秘となり手術を要する疾患に発展することもあるので,重症化を予防するための日々の努力が重要である.
著者
YUKA MUROFUSHI
出版者
The Juntendo Medical Society
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.66, no.Suppl.1, pp.58-69, 2020 (Released:2020-09-30)
参考文献数
36

Recently, the anti-doping movement has worked to improve the image of sports. Historically, doping inspection was implemented as a deterrent. A serious problem in recent years has been the violation of anti-doping regulations through intake of supplements mixed with prohibited substances. Unlike prescribed medications with clear ingredients, there are no international rules governing the manufacture of supplements or labelling of their ingredients. If the results of the doping control process are presumptive positive, a hearing will be arranged where athletes can present their case; however, insufficient labeling is not considered a good defense in itself. Code 2015, the current anti-doping rule, emphasizes the role and responsibilities of athletes and if a banned substance is present in the body it is a violation of this rule, whether intentionally or not. Recent studies have found that Japanese university athletes are generally lacking in anti-doping knowledge, as well as a lack of medical knowledge and little recognition of their responsibilities as athletes. Given these circumstances, anti-doping education has started to shift from a “deterrent approach” aimed at detecting fraud to a “preventive approach” aimed at inculcating the importance of ethics in sports. There are also guidelines to ensure that these lessons are learned as soon as possible. Code 2021, to be enacted in 2021, is the first time that International Standards for Education (ISE) will be formulated. Education to further raise awareness of anti-doping by developing ISE is also expected.
著者
MASAKAZU MATSUSHITA KEN YAMAJI NAOTO TAMURA
出版者
The Juntendo Medical Society
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.21-26, 2020 (Released:2020-02-29)
参考文献数
22
被引用文献数
2

Rheumatoid arthritis (RA) is a chronic inflammatory disease that causes persistent inflammation, primarily in the synovial membrane of the joints. It may cause joint pain, swelling, and even deformation. Due to the strong involvement of abnormal immune function in its pathogenesis, RA is classified as a connective tissue disease. Most RA patients initially develop articular symptoms such as finger stiffness, pain, and swelling. They often visit medical institutions primarily complaining of these symptoms. However, it is known that manifestations of RA are found not only in the joints but also in a variety of organs in the entire body, including the lungs, skin, eyes, and blood vessels. These manifestations are called extra-articular manifestations, and they pose a problem as they significantly affect the patient’s activities of daily living (ADL), quality of life (QOL), and life expectancy. The pathology of RA has been elucidated in detail thanks to recent advances in molecular biology, and treatment strategies have undergone marked changes with the advent of biological drugs. Previously, the primary treatment goal was pain relief. Now, complete remission is becoming a reality with the prevention of bone destruction by completely inhibiting disease activity. However, extra-articular symptoms such as those involving the lungs pose major obstacles in drug selection for RA in many cases. When diagnosing and treating RA, it is important to not only evaluate articular manifestations but also accurately identify extra-articular manifestations and act appropriately.
著者
長岡 功
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.152-162, 2013-04-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

変形性関節症 (osteoarthritis;OA) は, 軟骨破壊によって局所の痛みと慢性的に増強する運動機能障害をきたす疾患であり, とりわけ変形性膝関節症 (膝OA) が多い. 近年, 従来の運動療法や薬物による保存的治療に加えて, 軟骨代謝を改善してOAの進行を抑制する構造修飾効果 (structure-modifying effect) または軟骨保護効果 (cartilage protecting effect) をもつ新たな治療法が期待され, その有力な候補としてグルコサミンやコンドロイチン硫酸などいくつかの食品成分が注目されている. 一方, OAの病態を客観的に評価するために様々な関節マーカーが研究されてきたが, 特にII型コラーゲンは関節軟骨に特異的に存在するため, II型コラーゲンの分解・合成をみることは, 関節疾患の病態や, それに対する薬物, 食品の効果をより正確に客観的に評価できると考えられている. そこで, 本稿では, OAの病態変化と関節マーカーによる膝OAの評価について概説し, さらに, 関節マーカーを用いてグルコサミン含有食品の膝OAに対する効果を評価した例について紹介する. そして, グルコサミンが抗炎症作用を示すとともに, 軟骨成分 (グリコサミノグリカン, II型コラーゲン) の分解を抑制する一方で, 合成を促進することによって軟骨保護的に作用する可能性について述べる.