著者
佐藤 美奈子
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.69-81, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
20

本研究では、ネパール、フィリピン、ブラジル、中国等、外国につながりをもつ7人の複言語話者である高校3年生を対象に母語認識インタビューを行った。その結果を「継承語(第一言語)」、「現地語」(日本語)、英語という3つの観点から考察し、彼らの各言語に対する複層的な認識と、その認識を基盤とするアイデンティティの表出を質的に分析する。
著者
小椋 たみ子 浜辺 直子
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.1-18, 2021-12-23 (Released:2021-12-21)
参考文献数
40

本研究では前言語期から文法出現期の9ヶ月から24ヶ月児の母子の遊び場面の観察録画データから、第一に、母親の事物をあらわす育児語と動作をあらわす育児語の特徴を音韻面と形態統語情報から明らかにし、子どもの年齢による育児語使用に違いがあるか否か検討した。育児語の特徴は、事物育児語、動作育児語とも特殊モーラを含む語や自立モーラの反復が大部分であった。形態統語情報については、事物育児語は格助詞を伴うあるいは格助詞の省略された育児語が単独の事物育児語より多く発せられていた。動作育児語は「する」の動詞や動作誘発助詞を伴っていた。事物育児語、動作育児語とも子ども年齢で有意差はなかった。第二に、養育者は成人語と育児語で子どもに働きかけていることから、事物語と動作語の育児語率(育児語/(育児語+成人語))がその後(33ヶ月)の子どもの幼児語、成人語の事物語、動作語獲得へ及ぼす効果と効果をおよぼす月齢について検討した。その結果、14ヶ月児の母の事物育児語率タイプ、トークンは、33ヶ月事物成人語獲得に正の効果を、また、14ヶ月児の母親の動作育児語率トークンが33ヶ月動作幼児語に正の効果を及ぼしていた。一方、24ヶ月児の母親の動作育児語率は33ヶ月の動作幼児語、動作成人語に負の効果を及ぼしていた。母親の育児語の言語入力の効果は事物語、動作語で異なり、また、子どもの年齢においても異なっていた。
著者
佐藤 美奈子
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.85-92, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
4

本研究は、多言語社会ブータンにおける複言語話者の言語認識と、母語を定義の過程を明らかにすることを目的とする。複数の母語定義基準を提唱するSkutnabb-Kangas(1981)と、関係言語の相対的地位から言語の「優位性」の概念を提唱するWeinreich(1976)の見解を融合した「総体的な母語認識」という概念を提唱し、自身にとって核となる言語を「総体的な母語認識」として定義する。学校関係者612人を対象として母語認識調査をおこなった結果、ブータンの複言語話者の母語認識には、現在の能力や使用頻度を基準に自身の母語を定義する現実主義的傾向と、国家アイデンティティの核とされる国語を個人としても自身の母語とする国家主義的傾向、出身民族の言語を自身の母語とするルーツ志向があることが明らかになった。個人が複数の基準から何を選択し、それに基づきどの言語を自身の核として据えるかには、その個人の自己規定の仕方が反映される。母語認識とは、すなわち自己認識である。
著者
木戸 康人
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.43-67, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
41

本稿では、なぜ成人が促音を含む複合動詞を月齢が低い幼児に対して使う傾向が観察されるのか、また、なぜ幼児が最初に発話する複合動詞には促音が含まれているのか、という2つの問いを明らかにすることを目的としている。それらの問いを明らかにするために、CHILDESデータベース(MacWhinney, 2000)を用いて分析を行った。その結果、幼児の月齢が低ければ低いほど、成人は前部要素に特殊拍を含むという幼児語の音韻的な特徴を有した複合動詞を使っていたこと、また、日本語を獲得中の幼児が複合動詞を獲得するとき、幼児が最初に発話する複合動詞は前項動詞に促音を含んだものという共通点があったことを報告する。本稿は、主に2つの理論的示唆を与えている。第一に、幼児語の音韻的な特徴が語彙獲得を促進させていることを複合動詞の獲得の観点から示した点である。第二に、Berman(2009)によって示されたヘブライ語の複合名詞の獲得における特徴とChen(2008)によって示された中国語の複合動詞の獲得における特徴が日本語の複合動詞の獲得にも当てはまることを示した点である。
著者
佐藤 美奈子
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.49-75, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
49

教育の普及に伴い、ブータンではゾンカ語(国語)と英語の有用性と威信性が高まり、ブータン社会における両言語の習得の必要性と重要性に対する人びとの認識が強まっている。本研究は、ブータンに新たに登場した、「英語もゾンカ語も堪能な知識人」を両親とする家庭を対象に家庭言語調査をおこない、核家族で地方に赴任した教師家庭と地元出身の大家族三世代で暮らす一般家庭を比較した。結果からは、ゾンカ語は両方の知識人家庭ですでに標準となっている一方で、両家庭の相違は、新たな家庭言語選択肢となりつつある英語の導入のされ方と民族語の継承にあることが明らかになった。家庭言語に対して高い意識をもつ教師家庭では、子どもの幼少期から両親が意識的に英語を導入しているのに対し、一般家庭では子どもの成長に伴い、子ども自身が学校で学習した英語を家庭へ持ち込むことで家庭言語として定着していく様子がみられた。民族語は、核家族で暮らす教師家庭では子どもが成長すると実用性の高いゾンカ語と英語にシフトされるのに対し、三世代同居の一般家庭では、祖父母世代の存在に支えられ、英語とゾンカ語と併用される形で維持されていた。その結果、一家庭平均3言語という高い複数言語環境を創造するに至っていることが明らかになった。
著者
斉藤 信浩 玉岡 賀津雄
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.35-47, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
32

理由節カラは、内容領域、認識領域、言語行為領域へと意味的に拡張し、多義化した。韓国語は日本語と同じ3領域に拡張した理由節を持ち、中国語は内容領域と認識領域の2領域だけを持つ。そこで、韓国語および中国語を母語とする日本語学習者の文法力を同等に統制して、3領域の用法の習得を比較した。その結果、韓国語母語話者は3領域を等しく理解したが、中国語母語話者は言語行為領域の理解が著しく低かった。母語の理由節の特性が外国語の理解に強く影響することが示された。