著者
畑中 久美子 木村 博昭 村本 真 加藤 亜矢子
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.113-120, 2016 (Released:2018-12-24)

本論文では、「団子積み」と「練り土積み」と呼ぶ古来から日本にある、湿った土を積み上げる土壁構法に焦点を当てる。本論文の目的は、建築における土壁構法の選択肢を増やす事や、2つの構法の活用可能性を広げることを最終目標と捉え、その第一歩として、今後の建築のための記録を残すことと、2つの構法の違いおよび、版築や2つの構法に類似する土を積み上げる土壁構法に対する位置付けを明確にすることである。「団子積み」と「練り土積み」の施工特性を把握するため、以下の方法で研究を進めた。 1)「団子積み」と「練り土積み」構法の定義 2)「団子積み」と「練り土積み」の検証実験 2つの構法のいずれか、もしくは両方を用いた3つの建築や工作物によるプロジェクトの検証実験について、計画と概要、材料、道具、施工の要領をまとめ、工程、施工日数、人数等を比較、考察する。 3)1)〜2)を総合して、「団子積み」と「練り土積み」を用いた土壁構法の施工特性をまとめる。3つのプロジェクトと使用構法は下記のとおりである。 1.「公園灰屋」における「団子積み」 2.「藁葺き泥小屋」における「練り土積み」 3.「かまど」における「団子積み」と「練り土積み」の混合 検証実験の結果 「団子積み」と「練り土積み」の施工特性をまとめると、①施工速度が「団子積み」より「練り土積み」の方が速かったこと。②土に混ぜる水の量の目安が、「団子積み」の方が「練り土積み」より多かったこと、③土を練る際の藁は、「団子積み」では加え、「練り土積み」は加えなかったこと。などが挙げられた。本研究をとおして明らかになったことは、①「団子積み」「練り土積み」共、建物平面に曲面が多用されている場合は、型枠コストと、造形のしやすさの面で、型枠を必要とする版築よりも優位である。②「団子積み」より、「練り土積み」の方が施工速度が速く、乾燥期間も短いため、総工期を短かくすることができる。③ 1 日の壁の施工可能高さは「団子積み」「練り土積み」共600㎜程度である。さらに、版築や、2つの構法に類似する湿った土を積み上げる土壁構法に対する関係性を図示した。
著者
安田 光男 木村 博昭
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.77, pp.126-133, 2018 (Released:2019-02-01)

古代ローマ住宅はペリスタイルと呼ばれる中庭が紀元前2世紀ごろから富裕層を中心とする住宅の平面計画に導入され始め、ドムス住宅が形成された。ポンペイのメナンドロスの家もそういったドムス住宅の一つであるが、ペリスタイルを構成する列柱は等ピッチで整然と並ぶイメージとは異なり、一見ランダムに配置されているように見える。本論考では、メナンドロスの家をケーススタディとして、R.リングらの復元図から3Dモデルを作成し、検証・考察を通して、ペリスタイルの柱配置によって、どのような視覚的効果を用いて空間演出を行おうとしていたかを明らかにすることを目的とする。古代ローマ住宅には二つの軸線が存在することが、一般的に知られている。ファウセス(玄関)からペリスタイルへの視覚軸、もう一つはトリクリニウムからペリスタイルへの視覚軸である。メナンドロスの家においても、この二つの軸線に対応するペリスタイルの柱間の間隔は他の柱間より広げられており、軸線が強調されている。ファウセス(玄関)からペリスタイルを見る視覚軸はペリスタイル列柱の柱芯間隔について手前を広く、奥を狭くすることで、初源的な遠近法の効果で実際の距離よりも長く見えるように設えられていると考えられる。その視覚軸の終点に位置するオエクス前の列柱の中心と視覚軸にはズレが生じており、そのズレの要因は対称性と列柱の連続性の双方を維持するということを意図したためと考えられる。また、トリクリニウムからペリスタイルへの視覚軸について、ペリスタイルの東側から西側に向けて柱芯間隔を徐々に減じさせて、初源的な遠近法の効果で庭をより大きくみせるような空間演出を行っていると推測できる。ペリスタイル列柱の配置は主に北側及び東側に存在する饗宴用の部屋から庭へ向かう視線のためのウィンドーフレームとしての機能が色濃く、ペリスタイル西側及び南側の列柱に、その視線の先にある背景としての役割を担わせることで、劇場の舞台装置のような空間演出を行っていたと考えることができる。メナンドロスの家のペリスタイルの列柱は構造的な機能を超えて、柱芯間隔の巧みな操作や初源的な遠近法を用いた視覚操作を通して、空間演出に利用されていたことがわかった。