著者
高橋 元彦 丹 美香 木村 知史 池野 宏
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.22-29, 2008-03-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
12

現代社会では, 多くの人が身体的, 精神的ストレスを感じている。ストレスの増加は交感神経の過剰な亢進をもたらすことから, 自律神経機能のバランスを崩しやすい状態にあると考えられる。このような状態は, 白血球分画の顆粒球の増加など生体防御機能にも影響を及ぼし, 生体においてさまざまな悪影響を生じせしめる可能性が高まることが安保らによって報告されている。一方, ニキビ病態においては, Propionibacterium acnesは炎症性誘発物質である好中球走化性因子を産生し, 毛胞に集積した好中球が活性酸素を放出し炎症反応が惹起されることなど好中球のニキビ病態への関与が報告されている。そこで, われわれはストレスによる好中球の増加あるいはリンパ球の減少によって, ニキビの発症しやすい状態あるいは悪化しやすい状態となるのではないかと考え, ニキビ患者群と健常者群における「ニキビができやすい状況」「生活習慣」「ストレス度」といったニキビとストレスとの関連性にかかわる意識調査および顆粒球の大部分を占める好中球, およびリンパ球の白血球中における割合を比較し, ストレスとニキビとの関連性について検討した。さらに, 好中球の増加は好中球由来の活性酸素の増加を招き, 血液の酸化度を上昇させるのではないかと考え検討を加え, フリーラジカル測定システムFRAS4を用いて, 酸化指標として抗酸化力 (BAP) および酸化ストレス度 (d-ROM) を測定した。意識調査からニキビ患者群は心身に負荷を感じたときに, ニキビを発症しやすいと感じていること, 生活習慣においても「不良」に分類される割合が健常者群より高いことが明らかとなった。また, 白血球分析からは, ニキビ患者群は健常者群に比べて好中球の割合が高くリンパ球が低かった。さらにニキビ患者群では, ストレスが多くないと感じている被験者に比べ, 多いと感じている被験者の方が好中球の割合が有意に高いことがわかった。血液酸化指標についても, ニキビ患者群で有意に抗酸化力が低下していることが見出された。以上の結果より, ニキビ患者はさまざまな負荷に対して多くのストレスを感じやすく, ストレスが炎症性の反応にかかわる好中球の増加を招き, 好中球由来の活性酸素を増加させることにより生体内の酸化を促進し, ニキビを悪化させている可能性が示唆された。
著者
井上 さくら 荒木 徳博 木村 知史
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.127-132, 2001-06-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
9

本研究では創造的思考に着目し, 新しい発想を生み出そうとする場合の香りの効果を検討した。実験では創造性検査の一種である用途テストを用い, 「カンヅメのあきカン」の使い方を自由発想で20分間記述させた。用途テスト開始12分後にローズマリー, ペパーミント, オレンジ (以上香り呈示群), 香りなし (統制群) のいずれかを呈示した。回答は, 分類基準に従い, カンヅメのあきカンのもつ容器的使途と類似性の高い発想-Tタイプ-と, 類似性が低く独創的な発想-Hタイプ-の2種類のカテゴリーに分け, 各カテゴリーにおける香り呈示前後の回答数の変化を求めた。香り呈示群と統制群の回答数の変化を比較した結果, Tタイプでは, 香り呈示群と統制群との間に差はみられなかった。一方, Hタイプでは, ローズマリーとペパーミント呈示群は統制群と比較し回答数が有意に増加し, オレンジ呈示群では有意差はなかった。このことより, ローズマリーやペパーミントの香りに独創的な発想を促す効果がみられることが示唆された。さらに, 創造的態度得点の低い人がローズマリーやペパーミントの香りを嗅ぐと, より一層この効果が高くなる傾向がみられた。
著者
菅 千帆子 木村 知史
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.242-251, 1995-11-30 (Released:2010-08-06)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

化粧行為, 例えばメークアップをしたり香水を使ったりすることの有用性は明白なことであるが, これらの有用性を定量することは容易ではない。というのは, これらが定義したり測定したりすることが困難である心理的・生理的性質を含んでいるからである。我々は, 化粧行為により得られる喜び (pleasure) とユーザーの健康 (well-being) との関係をしらべる過程で, 化粧品を使用することが免疫学的に有用であることを示唆する結果を得た。メークアップを行うことで思わず美しくなった自分をみたとき, それが予想できなかったときほど気分は高揚する。我々は, このような体験が身体の免疫系を活性化し, 同時に免疫抗体濃度を増加させることを発見した。また, 快適な香りを嗅いだときにも同様の免疫反応が起こることも発見した。免疫抗体濃度の変化の定量には, 被験者の唾液中に含まれる免疫抗体「分泌型イムノグロブリンA (S-IgA) を測定した。化粧品における精神神経免疫学的な有用性の発見は, 皮膚表面での機能的効果を越えた化粧品の新しい有用性の探索につながると考えられる。また本研究にて得られた結果は, 化粧品がユーザーの心と身体に有用であることの一つの証拠を示したと考えられる。