著者
大西 広倫 美崎 定也 川崎 卓也 末永 達也 山本 尚史 木原 由希恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1552, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 人は加齢により著しく平衡機能の低下が見られる。また,外乱刺激に対する反応の低下により高齢者は転倒しやすい傾向にある。臨床で腹腔内圧(腹圧)を高める事で,しばしばバランスの向上が見られる事がある。腹圧の維持・向上は体幹・腰部の安定性のみならず,四肢の運動機能に重要である。今回,高齢者を対象に簡便な方法として,腹圧へのアプローチが身体制御,平衡機能においてどのように影響を及ぼすのか,検討する事を目的とした。【方法】 対象は本研究に同意した当院関連施設デイサービスを利用している高齢者26名(年齢69.7±6.8歳)とした。今回,介護度としては要支援1から要介護2の方々を対象に男性19名,女性7名で脳血管障害20名,下肢整形外科疾患2名,その他4名であった。除外基準としては立位が著しく不安定、また10m以上の歩行が困難な者とした。検討項目としてはFunctional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を用い,同一対象者で腹部ベルト装着あり・なしの条件下で測定しその差を検討した。腹部ベルト装着あり・なしの条件下で,Functional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を測定しその差を検討した。FRTは,Duncanらの方法をもとに施行した。またTUGは,Podsiadloらの方法をもとに施行した。ベルトの装着位置においては,関らの方法を一部改定し,Jacob線直上の水平面上で,立位にて測定し,腹囲より5cm短い長さでベルトを装着した。ベルトは市販の4cm幅の物で,1cm間隔で目盛りを付けた。なお,測定はそれぞれ一回づつ,ランダムにて行った。統計解析はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準5%とした。【結果】 両検査の測定値をベルト装着あり・なしの二条件間で比較した結果,FRTにおいては,ベルト装着ありで中央値(四分位範囲)22.1(17.3~30),装着なしで21.5(14~24.8)でありベルト装着の方が有意に大きかった(P<0.05)。TUGにおいては,ベルト装着ありで14.6(12.2~21.4),装着なしで16.3(12.1~25.7)であり,ベルト装着ありの方が,装着なしに比べ,有意に短かった(P<0.05)。【考察とまとめ】 今回,高齢者の腹部にベルトを装着する事で静的・動的バランス機能の向上が認められた。ベルトを使用する事で腹圧を高める,腹圧の上昇が腰椎を安定化させる事,また下部体幹の固定性が増す事が言われている。今回,静的・動的バランス機能の向上においては,腹腔内圧の上昇により,四肢の運動機能が高まった事が考えられる。腹圧を高め,バランス機能の向上を図る事は,ベルトを使う事で簡便にできる有用な手段の一つである。