著者
川崎 卓也 坂井 泰 柿崎 藤泰 竹澤 美穂
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.DbPI1348, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 横隔膜は胸腔と腹腔を隔てる膜状の横紋筋であり,呼吸運動の主動作筋としての機能と,下部体幹の安定化に関与するという二重作用を有する.付着部位が胸骨部,肋骨部,腰椎部からなるドーム状の形状をしており,その走行から重力の影響を受けやすい筋肉であると考えられる.その為,姿勢変化に伴って横隔膜自体の形状も変化し,呼吸時には特異的な運動が生じてくると考えられる.臨床上,体幹機能を評価する際に,呼吸運動や下部体幹の安定性に関与している横隔膜の動きを体表から評価する事も多い.今後の横隔膜機能評価法を確立するため,本研究では姿勢変化に伴う呼吸時の横隔膜運動の質的な検証を行った.【方法】 対象は健常成人男性10名(平均年齢±標準偏差26.6±4.5歳)とした.測定肢位は背臥位と座位の2通りとした.背臥位はベッド上での解剖学的肢位とし,座位は股関節,膝関節90°屈曲位の姿勢となるように座面高を調整した背もたれ座位とした.その際,両上肢は乳頭レベルの高位で腕を組んだ姿勢とした.測定機器は超音波診断装置(東芝メディオ製および日立メディコ製)を使用した.測定項目として,横隔膜筋厚はBモード法(周波数:7.5MHz)を使用し,横隔膜変位量はMモード法(周波数:3.5MHz)にて測定した.測定部位として,横隔膜筋厚は,右中腋窩線上で,第7肋間から第9肋間で,横隔膜が最も明瞭に描出される部位とした.横隔膜変位量に関しては,右鎖骨中線と前腋窩線との中点で,肋骨弓の下縁より横隔膜後方部の変位量を計測した.呼吸パターンは安静呼吸と努力性最大吸気とした.そして安静呼気時の横隔膜の状態を基準とし,安静吸気,努力性最大吸気の横隔膜筋厚,横隔膜変位量を測定した.また,テープメジャーにて剣状突起部での胸郭周囲径を測定した.測定はそれぞれ3回ずつ行い,その平均値を用いた.統計解析は姿勢変化を要因とした一元配置分散分析を行った.横隔膜筋厚,横隔膜変位量,胸郭周囲径についてPearsonの積率相関係数を算出し,有意水準は5%未満とした.なお,予備実験での検者内信頼性ICC(1,1)は,横隔膜筋厚で0.87~0.99,横隔膜変位量で0.47~0.97であった.【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿い,対象者には研究内容に関して十分な説明の上,同意の得られた者を対象として実施した.【結果】 安静呼気,安静吸気,努力性最大吸気の横隔膜筋厚は背臥位で1.84±0.29mm,1.97±0.30mm,3.00±0.76mm,座位で1.97±0.36mm,2.58±0.42mm,3.40±0.83mmであった.また,安静呼気を基準とした安静吸気での横隔膜変位量と,努力性最大吸気での横隔膜変位量は背臥位で17.26±7.74mm,52.47±13.00mm,座位で12.10±3.24mm,34.78±10.10mmであった.胸郭周囲径の変化量では安静呼気を基準に,安静吸気と努力性最大吸気は背臥位で0.80±0.59mm,3.57±0.72mm,座位で1.03±0.49mm,3.65±0.84mmであった.姿勢変化を要因とした一元配置分散分析の結果,安静吸気時の横隔膜筋厚と,努力性最大吸気時の横隔膜変位量に有意差を認めた(p=0.001,p=0.003).背臥位,座位ともに横隔膜筋厚,横隔膜変位量,胸郭周囲径との間に相関関係は認められなかった.【考察】 本研究結果から,背臥位では座位と比較し横隔膜の変位量が増大する傾向が示された.背臥位では努力性最大吸気時の横隔膜変位量が有意に大きい一方で,座位では横隔膜は重力によって吸気時に尾側へ変位しやすいはずであるが,背臥位と比較し変位量は少なかった.これは背臥位では腹部内容物が頭側へ移動する際に生じる圧力による影響が大きいと考えられる.座位では背臥位と比較し横隔膜筋厚と胸郭周囲径が増大する傾向が示された.これは横隔膜変位量減少の代償とも考えられるが定かではない.今後,肺機能検査を含めた検討を行っていく必要があると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 横隔膜機能評価法を確立するために,背臥位と座位における横隔膜筋厚と横隔膜変位量の関連性について検討を行った.様々な因子を含む体幹機能を漠然と定量化することは不可能であるが,呼吸運動と下部体幹の安定化の二重作用を有する横隔膜の機能評価法が確立できるならば,体幹機能評価の一つとして利用できるのではないかと考える.
著者
大西 広倫 美崎 定也 川崎 卓也 末永 達也 山本 尚史 木原 由希恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1552, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 人は加齢により著しく平衡機能の低下が見られる。また,外乱刺激に対する反応の低下により高齢者は転倒しやすい傾向にある。臨床で腹腔内圧(腹圧)を高める事で,しばしばバランスの向上が見られる事がある。腹圧の維持・向上は体幹・腰部の安定性のみならず,四肢の運動機能に重要である。今回,高齢者を対象に簡便な方法として,腹圧へのアプローチが身体制御,平衡機能においてどのように影響を及ぼすのか,検討する事を目的とした。【方法】 対象は本研究に同意した当院関連施設デイサービスを利用している高齢者26名(年齢69.7±6.8歳)とした。今回,介護度としては要支援1から要介護2の方々を対象に男性19名,女性7名で脳血管障害20名,下肢整形外科疾患2名,その他4名であった。除外基準としては立位が著しく不安定、また10m以上の歩行が困難な者とした。検討項目としてはFunctional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を用い,同一対象者で腹部ベルト装着あり・なしの条件下で測定しその差を検討した。腹部ベルト装着あり・なしの条件下で,Functional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を測定しその差を検討した。FRTは,Duncanらの方法をもとに施行した。またTUGは,Podsiadloらの方法をもとに施行した。ベルトの装着位置においては,関らの方法を一部改定し,Jacob線直上の水平面上で,立位にて測定し,腹囲より5cm短い長さでベルトを装着した。ベルトは市販の4cm幅の物で,1cm間隔で目盛りを付けた。なお,測定はそれぞれ一回づつ,ランダムにて行った。統計解析はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準5%とした。【結果】 両検査の測定値をベルト装着あり・なしの二条件間で比較した結果,FRTにおいては,ベルト装着ありで中央値(四分位範囲)22.1(17.3~30),装着なしで21.5(14~24.8)でありベルト装着の方が有意に大きかった(P<0.05)。TUGにおいては,ベルト装着ありで14.6(12.2~21.4),装着なしで16.3(12.1~25.7)であり,ベルト装着ありの方が,装着なしに比べ,有意に短かった(P<0.05)。【考察とまとめ】 今回,高齢者の腹部にベルトを装着する事で静的・動的バランス機能の向上が認められた。ベルトを使用する事で腹圧を高める,腹圧の上昇が腰椎を安定化させる事,また下部体幹の固定性が増す事が言われている。今回,静的・動的バランス機能の向上においては,腹腔内圧の上昇により,四肢の運動機能が高まった事が考えられる。腹圧を高め,バランス機能の向上を図る事は,ベルトを使う事で簡便にできる有用な手段の一つである。