著者
中崎 秀徳 堀 和将 牛山 さほ子 美崎 定也 山口 英典 大島 理絵 手島 雅人 堀 拓朗 大坂 祐樹 高橋 泰彦 鈴木 晴子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】近年,予防医学の重要性が増しており,障害を未然に防ぐことは大切である。また,病院の中だけでなく,地域生活の中で予防することが重要である。当法人における「痛み予防教室」は,「通院しないまでも予防法を知りたい」,「気軽に参加できる教室は興味がある」といった地域住民のニーズにより企画され,地域住民の関節痛予防および改善,関節痛に対する適切な運動方法の提示・指導を目的に行っている。「痛み予防教室」は,当法人のグループ病院から選出された運動教室運営委員によって構成されている。運動教室では,主に膝関節,股関節をテーマにして,関節痛の原因と予防に関する講義,関節痛の予防体操,筋力測定を1時間程度行っている。当初は,病院を退院された患者や近隣住民に対して,グループ病院内で1ヶ月に1回行っていたが,平成25年11月より,都内のカルチャーセンターより委託され,無料で運動教室を開始した。また,今年度は,カルチャーセンターの秋季イベントでの開催依頼を受け,当法人監修による個別健康相談会を実施した。今回,カルチャーセンターと連携して運動教室を行った実績および個別健康相談会での結果について報告する。【方法】平成25年11月から平成26年11月までの期間において,運動教室に参加した者および秋季イベントの個別健康相談会に参加した者を対象とした。運動教室の調査項目は,1)開催数,2)延べ参加者数,3)講座内容とし,後方視的に抽出した。個別健康相談会の調査・測定項目は,1)参加者の属性(年齢,性別),2)等尺性膝伸展筋トルク(伸展筋トルク)とし,「膝が痛い」,「股関節が痛い」など個別に相談がある参加者に対してのみ,疼痛等に関する問診表,生活の広がり[Life-Space Assessment(LSA)]および転倒自己効力感尺度[Fall Efficacy Scale(FES)]に関する質問に回答させた。統計解析は調査項目の記述統計を行った。さらに,伸展筋トルクとLSA,FESの関連をみるため,相関分析を行った。【結果】運動教室の開催数は12か月間で22回であった。運動教室の延べ参加者数は367名(1開催の平均数:16.7名,範囲:4-27名)であった。講座内容は膝関節講座11回,股関節講座11回であり,それぞれの参加者数は膝関節講座180名(平均16.4名),股関節講座187名(平均17.0名)であった。今期の個別健康相談会は2回実施し,延べ参加者数は91名であった。本相談会の対象者の属性は,年齢[平均値±標準偏差(範囲)]61.9±11.1(38-88)歳,男性10名,女性81名であった。そのうち,膝や股関節に痛みなどがあり,個別相談を行った参加者は20名(男性2名,女性18名)であった。参加者からの主な相談内容は,「関節痛に関すること」,「予防法や運動方法を知りたい」などがあり,相談後の感想として,「わからないことを相談できてよかった」,「自宅でも運動してみる」,「現在の筋力がどのくらいなのかわかった」などの声が聞かれた。また,個別相談者の伸展筋トルクは1.25±0.31(0.63-1.88)Nm/kgであり,LSAは100.2±22.4(52-120)点,FESは34.6±4.7(27-40)点であった。LSAでは,20名中6名が満点(120点)となり,天井効果が認められた。相関分析の結果,伸展筋トルクとLSAに相関は認められなかったが,伸展筋トルクとFES(r=0.52)に相関が認められた。【考察】対象者の活動範囲は伸展筋トルクと関連していなかった。天井効果は,対象者の能力が指標の上限に達して測定できない場合であり,特定の対象を評価した場合に生じるといわれている。LSAに関する先行研究では,高齢者を対象としたものが多いが,本研究の対象者は平均年齢61.9歳であり,先行研究と比較して若い参加者が多かったため,対象者の活動範囲を十分に評価できなかった可能性が考えられる。一方,対象者の転倒自己効力感は伸展筋トルクと関連していた。これは先行研究を支持する結果であった。下肢筋力の低下は,転倒恐怖感を招くことが予想される。運動教室において膝伸展筋力を測定して,対象者にフィードバックすることは,自身の現状を知ることによる自己効力感の向上に寄与するものと考えられる。参加者に対して,アドバイスや運動指導を行ったことにより,参加者のニーズに対応でき,地域住民の関節痛予防に貢献できたと考える。今後は縦断的に調査を続け,運動教室の痛み予防効果を明らかにすることが課題である。【理学療法学研究としての意義】理学療法士が地域の予防活動に積極的に参加することにより,地域住民の関節痛予防に貢献することができる。また,地域活動に参加することにより,理学療法士の認知度が向上し,予防分野での職域拡大につながると考える。
著者
勝又 泰貴 竹井 仁 若尾 和昭 中村 学 美崎 定也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O2113, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 徒手療法の一手技である筋膜リリース(Myofascial Release;以下、MFR)は、穏やかな持続した伸張・圧力というその手技の特性から、可動域・アライメントの改善や急性・慢性の疼痛軽減を始めとして、パフォーマンスの向上など幅広く用いることができる。そのMFRを治療プログラムに取り入れることで機能障害が改善したという報告はいくつかあるが、MFRのみ施行時の効果と、1回の治療におけるMFRの効果の持続時間に関する報告はない。本研究では、MFRの効果の持続時間をスタティックストレッチングと比較し、効果の持続時間の違いを比較検討したので報告する。【方法】 対象者は腰部・下肢に既往のない健常者31名(男性16名、女性15名)で、年齢・身長・体重の平均値(標準偏差)はそれぞれ25.0(2.4)歳、165.6(8.7)cm、56.3(9.0)kgであった。この31名を無作為に以下の3群に分けた。a.腹臥位で、大腿後面に対しMFRを片側ずつ各180秒施行したMFR群10名、b.背臥位で股・膝関節90°屈曲位にて膝関節を伸展していき、ハムストリングスに対しストレッチングを片側ずつ各30秒、3セット(15秒のインターバル)施行したストレッチング群11名、c.介入なく測定のみを繰り返した対照群10名とした。 測定項目は自動・他動運動時における左右下肢伸展挙上角度(Active・Passive Straight Leg Raising angle;以下、ASLR、PSLR)、立位体前屈(Finger Floor Distance;以下、FFD)、長座体前屈(Sitting Forward Extension;以下、SFE)とし、SLRは5度単位で、FFDとSFEは0.1cm単位で測定を行った。また、SFEは足底を基準の0cmとして測定した。それぞれの介入前・直後・30分後・60分後・120分後・介入直後と同時刻の1日後・2日後に各項目を測定した。測定結果はそれぞれ、介入前との変化量を介入前で除した変化率(%)にて解析した。統計解析はSPSS ver12.0を用い、3群の年齢・身長・体重および各測定項目の介入前について分散分析とその後の多重比較(Tukey HSD法)を用い検討した。その後、各測定結果の性差は対応のないt検定を、SLRの左右差は対応のあるt検定を行いその影響について検討した。また、3群の各時期間の比較についてはTukey HSD法を用い、各群における介入前と比較した各時期の差はBonferroni法にて解析した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、事前に本研究の目的と内容および学会発表に関するデータの取り扱いについて説明し、十分に理解した上での同意を得て実施した。【結果】 各群において年齢・身長・体重・各測定項目の介入前に有意差を認めなかった。また、性差と左右差に有意差を認めなかったため、男女ともに各測定項目の結果を同一に取り扱い、全被験者のASLRとPSLRの結果を左右平均して取り扱った。測定項目ごとに3群と時間的経過を2要因として二元配置分散分析後の多重比較の結果、ASLRはMFR群で全時期においてMFR群は対照群に比較して有意な増加を認めた。PSLRは全時期においてMFR群は対照群に、また、60分後以降はストレッチング群と比較して有意な増加を認めた。FFDは群と時期に有意差を認めなかった。SFEは1日後までMFR群は対照群に、また、30分後・120分後・1日後 でストレッチング群と比較して有意な増加を認めた。各群における介入前と比較した各時期の差については、MFR群のみASLR・PSLRで各時期に有意な増加を認め、SFEで1日後までに有意な増加を認めた。【考察】 本研究の結果より、MFRの効果は1日以上持続することが分かった。MFRとストレッチングの効果の持続時間という点では、明確に二つの手技に差を認めることはできなかったが、PSLRでMFRは60分後以降にストレッチングと比較して有意な増加を認めたことから、MFRはストレッチングに比べ他動運動時の伸張性の改善あるいは疼痛閾値の上昇を期待でき、その効果はストレッチングより持続すると考える。今回、FFDに有意差が出ずSFEに有意差が出た要因として、FFDでは上半身の自重によりハムストリングスの遠心性収縮が起き、慎重性の改善効果が減少してしまったのに対し、SFEでは重力の影響を受けず、ハムストリングスの伸張性の向上により骨盤が前傾した分だけ改善したと考える。【理学療法学研究としての意義】 MFRの効果の持続時間を明らかにすることで、治療プログラムの立案、治療頻度を考慮する上での参考となると考える。また、本研究を参考にその効果を延長させる方法なども今後の検討課題と考える。
著者
山本 尚史 美崎 定也 加藤 敦夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2279-CbPI2279, 2011

【目的】<BR> 当法人は2008年より高校アメリカンフットボール(アメフト)部のメディカルサポートを行っている。その中で、傷害受傷状況を把握すること、身体特性との関連を明らかにすることを目的に傷害調査アンケートとメディカルチェックを実施している。今回、過去2年の実施結果から得た身体特性と傷害の特異性について報告する。<BR>【方法】<BR> 2009年度秋季公式戦前のA高校2・3年生男子アメフト部員37名(2年生17名、3年生20名)と、2010年度の同2年生19名の計56名(平均年齢±標準偏差:16.7±0.7歳、身長171.9±6.1cm、体重78.6±15.6kg)を対象に調査した。A高校は週5~6回、学校近隣の河川敷グラウンドで練習を行っており、2008年に創部初の関東大会出場を果たしたチームである。アンケートは受傷部位、傷害名、受傷時期、受傷状況について自己記入させ、集計した。メディカルチェックは柔軟性「指床間距離(FFD)、踵殿間距離(HBD)、下肢伸展挙上(SLR)、股関節内旋(HIP IR)、全身関節弛緩性(GJL)」、瞬発力「プロアジリティテスト(PAT)、立ち幅跳び(SBJ)」を実施した。SLRとHIP IRは4段階「SLR:1)50°以下、2)50~70°、3)70~90°、4)90°以上、HIP IR:1)0°以下、2)0~20°、3)20~45°、4)45°以上」で簡易的に測定した。GJLは東大式評価法にて全7項目を点数化した。統計解析は傷害経験有無ならびに受傷部位(上肢、頸部・体幹、下肢)と柔軟性5項目で対応のないt検定またはMann-WhitneyのU検定を行った。また瞬発力2項目と柔軟性5項目における相関係数を算出した。なおHBD、SLR、HIP IRは左右肢を比較し、より可動域の小さい一肢を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 事前に顧問・監督に本調査の趣旨を説明し同意を得た上で、実施当日、選手に同様に説明し同意を得た。怪我や体調不良などの訴えがあった選手は可能な測定項目のみ実施した。<BR>【結果】<BR> アンケートから得た回答より、傷害発生件数は70件であった。受傷部位別では上肢23件(手指12件:17.1%、肩関節8件:11.4%、肘関節3件:4.3%)、頸部・体幹15件(頸部10件:14.3%、腰部3件:4.3%、腹部2件:2.9%)、下肢29件(足関節21件:30.0%、膝関節6件:8.6%、大腿部2件:2.9%)、その他3件:4.3%となった。傷害名別では足関節靭帯損傷19件(27.1%)、バーナー症候群9件(12.9%)、手関節靭帯損傷7件(10.0%)に多かった。受傷時期は1年生時23件、2年生時32件、3年生時12件、不明3件であった。受傷状況は練習中38件、試合中29件、不明3件であった。学年別の傷害経験者は3年生19名(95.0%)、2年生23名(64.9%)であった。メディカルチェックより、傷害経験有無ならびに受傷部位と柔軟性に有意な差はみられなかった。しかし、柔軟性が全て低値(FFD-5cm以下、HBD10cm以上、SLR・HIP IR2)以下、GJL1点以下)の選手3名全員が2箇所以上の、うち2名が同部位で2回以上の傷害発生を認めた。相関分析の結果、PATとFFD(r=-0.35、p<0.01)、HBD(r=0.42、p<0.01)、SLR(r=-0.30、p<0.05)、HIP IR(r=-0.29、p<0.05)が相関を認めた。またSBJとHBD(r=-0.41、p<0.01)、SLR(r=0.30、p<0.05)、GJL(r=0.33、p<0.05)が相関を認めた。<BR>【考察】<BR> それぞれの項目の傷害発生率は先行研究と比較し大きな相違はなかったが、足関節、頸部における傷害発生率が高いこと、練習中の傷害発生が多いことが本研究の特徴として挙げられる。特に足関節靭帯損傷、バーナー症候群の発生率が高く、これらに対する傷害予防に取り組む必要性が考えられる。足関節靭帯損傷が多い原因として、練習・試合環境や選手の予防ならびに再発予防に対する認識不足が推察される。バーナー症候群が多い原因としては、コンタクト時の姿勢を含めた技術的な未熟さが考えられるが、頸部の筋力不足も考えられ、今後調査が必要である。受傷状況として練習中での傷害発生が多いことは、練習からのサポートの必要性が推察される。メディカルチェックでは傷害発生と柔軟性に関連はみられなかった。しかし少数ではあるが、柔軟性全項目が乏しい選手において傷害の箇所と回数が多い傾向があったことから、全身的な柔軟性と傷害発生との関連が推察される。また瞬発力2項目がともにHBDとSLRで相関が認められたことから、大腿四頭筋、ハムストリングスの柔軟性の向上から運動パフォーマンスとしての瞬発力の向上につながる可能性が考えられ、傷害発生との関連を含め、今後も調査を続けていく必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 関東の高校アメフトにおいて、練習を含めて通年的にメディカルサポートを行っているチームは多くないと思われる。我々が練習から参加し、定期的なメディカルチェックを実施すること、傷害受傷状況を把握し理学療法介入していくことが傷害予防に繋がると考える。
著者
山本 尚史 中村 学 中崎 秀徳 吉田 昂広 杉ノ原 春花 美崎 定也 加藤 敦夫
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.39, 2010

【目的】 当法人は2008年より高校アメリカンフットボール(アメフト)部のメディカルサポートを行っている。高校のアメフト選手は技術、知識、身体機能の未熟さから傷害発生の危険性は高い。今回、高校アメフト選手の身体特性と傷害発生との関連を明らかにすることを目的に、メディカルチェックとアンケートを実施した。【方法】 2009年度秋季公式戦前のA高校2・3年生アメフト部員(平均年齢±標準偏差:16.9±0.7歳、身長172.3±6.3cm、体重78.7±16.2kg)40名を対象に調査した。事前に顧問・監督・選手に本調査の趣旨を十分に説明し同意を得た。メディカルチェックは柔軟性「指床間距離(FFD)、踵殿間距離(HBD)、下肢伸展挙上(SLR)、股関節内旋(HIP IR)、全身関節弛緩性(GJL)」、瞬発力「プロアジリティテスト(PAT)、立ち幅跳び(SBJ)」を実施した。SLRとHIP IRは4段階で簡易的に測定した。アンケートは受傷部位(上肢、下肢、頸部・体幹)について自己記入させた。統計解析は柔軟性と瞬発力の計7項目を変数としてクラスター分析を行い、3群(A群、B群、C群)に分類した後、3群間において7項目で一元配置分散分析またはKruskal-Wallis検定(有意水準5%未満)を行った。さらに3群間の身体部位別受傷人数をまとめた。【結果】 分類された3群はA群11名、B群10名、C群18名となった。FFDはB群が有意に長く、HBDはC群が有意に長かった。SLRはB群がA群およびC群と比較して有意に大きく、HIP IRはC群がA群およびB群と比較して有意に小さかった。GJLは各群間に有意差を認めた。PATはB群がC群より有意に速く、SBJはC群が有意に短かった。身体部位別の受傷者数は上肢:A群5名、B群4名、C群6名、下肢:A群6名、B群3名、C群6名、頸部・体幹:A群1名、B群2名、C群5名であった。【考察】 FFD、SLRが乏しく瞬発力が良好な群(A群)、柔軟性、瞬発力ともに良好な群(B群)、柔軟性、瞬発力ともに乏しい群(C群)に分類された。A群はハムストリングス、背筋群の柔軟性の乏しさが傷害発生と関連していると考えられる。C群では頸部・体幹の傷害発生が多く、柔軟性と瞬発力との関連が強いことが予想される。B群では他群と比較し傷害発生は少ないが、コリジョンスポーツの特性を軽視できない結果となった。しかしA群、C群のような特徴的な身体特性が傷害発生と関連することが明らかとなり、今後の理学療法介入の手がかりになると考えられる。【まとめ】 身体特性をグループ化して理学療法介入を効率よく行うことは傷害予防に繋がると考える。今回の調査の限界は短期間であること、対象者数が少ないことが挙げられ、今後も引き続き調査が必要である。
著者
大西 広倫 美崎 定也 川崎 卓也 末永 達也 山本 尚史 木原 由希恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1552, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 人は加齢により著しく平衡機能の低下が見られる。また,外乱刺激に対する反応の低下により高齢者は転倒しやすい傾向にある。臨床で腹腔内圧(腹圧)を高める事で,しばしばバランスの向上が見られる事がある。腹圧の維持・向上は体幹・腰部の安定性のみならず,四肢の運動機能に重要である。今回,高齢者を対象に簡便な方法として,腹圧へのアプローチが身体制御,平衡機能においてどのように影響を及ぼすのか,検討する事を目的とした。【方法】 対象は本研究に同意した当院関連施設デイサービスを利用している高齢者26名(年齢69.7±6.8歳)とした。今回,介護度としては要支援1から要介護2の方々を対象に男性19名,女性7名で脳血管障害20名,下肢整形外科疾患2名,その他4名であった。除外基準としては立位が著しく不安定、また10m以上の歩行が困難な者とした。検討項目としてはFunctional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を用い,同一対象者で腹部ベルト装着あり・なしの条件下で測定しその差を検討した。腹部ベルト装着あり・なしの条件下で,Functional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を測定しその差を検討した。FRTは,Duncanらの方法をもとに施行した。またTUGは,Podsiadloらの方法をもとに施行した。ベルトの装着位置においては,関らの方法を一部改定し,Jacob線直上の水平面上で,立位にて測定し,腹囲より5cm短い長さでベルトを装着した。ベルトは市販の4cm幅の物で,1cm間隔で目盛りを付けた。なお,測定はそれぞれ一回づつ,ランダムにて行った。統計解析はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準5%とした。【結果】 両検査の測定値をベルト装着あり・なしの二条件間で比較した結果,FRTにおいては,ベルト装着ありで中央値(四分位範囲)22.1(17.3~30),装着なしで21.5(14~24.8)でありベルト装着の方が有意に大きかった(P<0.05)。TUGにおいては,ベルト装着ありで14.6(12.2~21.4),装着なしで16.3(12.1~25.7)であり,ベルト装着ありの方が,装着なしに比べ,有意に短かった(P<0.05)。【考察とまとめ】 今回,高齢者の腹部にベルトを装着する事で静的・動的バランス機能の向上が認められた。ベルトを使用する事で腹圧を高める,腹圧の上昇が腰椎を安定化させる事,また下部体幹の固定性が増す事が言われている。今回,静的・動的バランス機能の向上においては,腹腔内圧の上昇により,四肢の運動機能が高まった事が考えられる。腹圧を高め,バランス機能の向上を図る事は,ベルトを使う事で簡便にできる有用な手段の一つである。