- 著者
-
八重垣 健
末高 武彦
- 出版者
- Japanese Society for Oral Health
- 雑誌
- 口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.3, pp.377-386, 1989-07-30 (Released:2010-10-27)
- 参考文献数
- 23
- 被引用文献数
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4
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口臭予防を目的として, 洗口剤が広く用いられているが, その効果には疑しいものが多い。そこで本論文では, 塩化亜鉛の口臭抑制効果およびその作用機序を検討した。口臭は, 口腔内空気中の揮発性硫黄化合物 (VSC) の測定により行い, VSC定量は, 炎光光度検出器付きのガスクロマトグラフ, 記録計および自動試料注入装置から成る分析システムを用いて行った。洗口剤による口臭抑制効果の判定は, 洗口前のそれぞれのVSC濃度を100%として, 洗口直後, 2時間後, 3時間30分後に行った。その効果, 0.5%塩化亜鉛洗口では, 3時間30分後でH2Sが17.7%, CH3SHが12.2%, (CH3) 2Sが68.7%および硫黄当量の総計で12.5%とVSCの減少を認めた。これに対し, 市販洗口剤および水による洗口では, それぞれ洗口3時間30分後, 2時間後に抑制効果がほぽ消失し, 塩化亜鉛の強い口臭抑制効果が確認された。次にパーコール密度勾配遠心法にて, 唾液中の遊離細胞の分解におよぼす塩化亜鉛の効果を検討し, VSC産生抑制の機序をしらべた。その結果, 0.01%塩化亜鉛にて, 24時間インキュベーション唾液中での細胞分解が抑制されることが明らかとなった。また, 唾液細胞成分中のタンパク分解酵素活性も, 0.05%以上の塩化亜鉛にて完全に阻害されることが明らかとなった。そこで, SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動にて, 24時間インキュベーション唾液におけるタンパク分解に及ぼす塩化亜鉛の影響を検討した。その結果, 唾液上清では, 分子量66.2Kおよび20.7K~14.4Kのタンパク分解が0.01%塩化亜鉛にて阻害され, 唾液沈渣においても, 66.2K, 84.4K, 27.2K, 24.6Kおよび15.3Kのタンパク分解が阻害されることが明らかとなった。以上の結果は, 洗口剤として使用される塩化亜鉛の濃度により, VSC産生の基質となるタンパク質の分解が抑制され, 口臭抑制効果が発揮されることを示唆した。