著者
小松﨑 明 小松 義典 小野 幸絵 田中 聖至
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.436-443, 2013-10

日本の東北地方の農村地域に在住する幼児162名を対象として,1歳6か月児歯科健康診査を受診以降,2歳,3歳児歯科健康診査の口腔診査,問診結果,Dentocult^@-Strip mutansのスコアを調査項目として,同児の11歳のDMF歯数との関連性を調査・分析した。その結果,1歳6か月時の結果では間食規則性と昼間保育者の2項目で有意差(p<0.01)が認められ,間食時間未決定群でう蝕が多くなっていた。同様に2歳時では,仕上げ磨き(p<0.01),間食規則性(p<0.05),昼間保育者(p<0.01)およびDent-SM(p<0.01)との間で有意差が認められた。また,ロジスティック回帰分析からは,2歳時仕上げ磨き(4.501,p<0.01)などで有意なオッズ比が得られた。分割表分析およびロジスティック回帰分析の結果から,2歳時,3歳時のう蝕罹患(dft),仕上げ磨き,間食時間の決定,昼間の保育者,およびDentocult^@-Strip mutansスコアの各要因について,11歳時のDMFTとの関連が認められた。これらの結果から,幼児期からこれらの項目でハイリスク者をスクリーニングし,歯科保健指導を重視することが,永久歯う蝕の抑制につながると考えられた。
著者
西口 栄子 伊ケ埼 理佳 鈴木 幸江 藤野 富久江 渡部 恵子
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.314-321, 1995-07-30
被引用文献数
10

市販の各種清涼飲料水の歯牙エナメル質におよぼす影響を観察した。その結果、(1)各種清涼飲料水116銘柄について,そのpHを測定した結果,コーヒー飲料,ミルク入り紅茶飲料,茶飲料を除いて 他の清涼飲料水のpHは,2.3〜4.9の強酸性であった。(2)10銘柄の清涼飲料水に歯牙(中切歯)を浸漬して,エナメル質の脱灰状態を観察した結果,果汁入り清涼飲料水,無果汁清涼飲料水共に,pH 2.3〜3.7の清涼飲料水では,浸潰後1分間でエナメル質の脱灰が観察された。(3)1mM,10mM,100mMの乳酸および塩酸溶液に歯牙を浸漬して,エナメル質の脱灰状態を観察した結果,乳酸溶液塩酸溶液共に,1mMの濃度でエナメル質は脱灰した。その脱灰の程度は,塩酸溶液の方が強かった。これらの結果から,強酸性の清涼飲料水によって,歯牙エナメル質は脱灰し,その脱灰は,低pHによって起ると考える。
著者
佐藤 節子 水枝谷 幸恵 日野 陽一 於保 孝彦
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.117-125, 2007-04-30
被引用文献数
5

容易に入手できるペットボトルや缶入り飲料の種類は多岐にわたる.われわれはう蝕予防の観点から62種類の飲料のう蝕誘発性に関する4つの要因,すなわち飲料のpH,中和に要するアルカリ量,う蝕細菌Streptococcus sobrinusによる酸産生および接着性不溶性グルカン合成を評価した.その後,4つの評価で得られたスコアを統合してう蝕誘発性リスクのレーダーチャートを作成した.その結果,炭酸飲料,スポーツドリンク,果・野菜汁および乳飲料のpHは,エナメル質脱灰の臨界値5.5より低かった.それらの飲料の中和には多量のアルカリが必要であり,特に果・野菜汁の中和には最も多くのアルカリを必要とした.また, S. sobrinusとの反応の結果,天然水飲料,無糖茶飲料および無糖コーヒー以外の飲料は, 5.5以下のpHを示した.さらに調査した飲料の半数が,接着性不溶性グルカンを産生した.レーダーチャートの評価により,全飲料は4つの特徴的なパターンに分類された.このレーダーテャートを用いて,茶飲料や天然水飲料等の低う蝕誘発性飲料とその他の高う蝕誘発性飲料を容易に区別することが可能であった.以上の結果から,われわれは飲料の潜在的なう蝕誘発性について認識する必要があること,そしてそのリスクについてのレーダーチャートは飲料の特徴を認識するのに有用であることが示唆された.
著者
一宮 頼子
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.196-214, 1995-04-30
被引用文献数
7

本研究は口腔内状況を表す指標が健康習慣や食生活とどのように関連するのかを検討することを目的に行われた。調査対象は1991年6月から1992年10月にわたって実施された,住民健康診断の受診者である20歳から91歳までの女性282名とし,以下の結果を得た。1. 本調査対象の成人女性は,年齢が上昇するのに伴って歯周疾患の重症化,喪失歯数の増加が認められた。2. 20-39歳群は朝食の欠食傾向や油脂類,肉類,加工食品の多用がみられた。さらに,70歳以上の高齢者になるとエネルギーがごはんに偏りがちであった。3. 50歳以上では山本式咀嚼能率判定法が口腔内状況の悪化に伴う咀嚼食品の変化を示していた。さらに50,60歳代では,適正体重を保っていない群は,歯周疾患状況が悪く,喪失歯数も多い傾向が認められた。4. 因子分析により年齢と口腔内状況,油脂類,緑黄色野菜類,肉類の摂取頻度が関連しあうことがわかった。さらに口腔内状況を表す指数として,末処置歯数,喪失歯数,処置歯数,歯周疾患指数の4変数が選択された。5. 咀嚼食品の種類やごはん,油脂類,緑黄色野菜類の摂取頻度は喪失歯数の影響を大きく受けていた。しかしながら,肉類,煮物,揚げ物の摂取頻度には喪失歯数より年齢の因子が大きく関わることがわかった。
著者
稲葉 大輔 釜阪 寛 南 健太郎 西村 隆久 栗木 隆 今井 奨 米満 正美
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.112-118, 2002-04-30
被引用文献数
10

馬鈴薯澱粉由来のリン酸化オリゴ糖(カルシウム塩;POs)が,溶液中ミネラルの不溶化と沈澱形成を阻害することが確認されている。本研究では,リン酸化オリゴ糖を配合したシュガーレスガムがエナメル質の再石灰化に及ぼす効果を口腔内実験により検討した。健常成人12名(男6名,女6名;平均年齢:21歳)を被検者とし,ランダムに3群に分け(n=4/群),二重盲検デザインの口腔内実験を行った。各被検者は,3個の脱灰エナメル質試料を接着した口蓋プレートを装着して,キシリトールガム, 2.5%POs配合キシリトールガム,ショ糖ガムのいずれかのガムを1日4回組閣した。実験期間中,フッ化物は使用せず,また試料の乾燥を防止した。エナメル質試料は1,2および4週間後に順次回収し,マイクロラジオグラフィで脱灰深部ld(μm)を評価した。2週間後,POsガム群の脱灰深度は40±3μmで,ショ糖ガム群(58±13μm)およびキシリトールガム群(61±6μm)よりも有意に低い値を示した(pく0.05)。また,4週間後では,POsガム群の説灰深度は29±3μmで,ショ糖ガム群(72±16μm)の60%,またキシリトールガム群(56±14μm)の48%へと有意に減少していた(p<0.01,p<0.05)。 2.5%POs配合シュガーレスガムを毎日利用することは,エナメル質の再石灰化を著しく促進することが示唆された。
著者
野村 裕信 上村 参生
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.187-198, 1996-04-30
参考文献数
39
被引用文献数
23

初期齲蝕形成エナメル質表面の脱灰・再石灰化現象を経時的に表面微細構造,結晶構造,表面化学組成および接触角の変化から解明することを目的として本研究を行った。AFM観察の結果,表層下脱灰エナメル質表面には,酸侵襲経路と考えられるエナメル小柱結晶間隙の拡大が認められた。また,4時間脱灰以降の表層下脱灰エナメル質表面には,健全エナメル質結晶とは異なる形状の再石灰化結晶が観察され,この結晶物質はbrushite結晶であると考察された。ESCA分析によるCaおよびPの相対濃度から,脱灰時間の経時的変化にともなって,Pの減少によるCa/P比の増加を認め,表層下脱灰エナメル質表面は,Pの欠乏状態にあることが明らかとなった。接触角の測定結果から,表層下脱灰エナメル質表面は,健全エナメル質表面に比べて,親水性に傾くことが明らかとなった。以上のことから,初期齲蝕発生過程を想定した表層下脱灰エナメル質の表面微細構造およびその表面性状を明らかにするとともに,エナメル質表面で起こる脱灰・再石灰化現象を微細構造学的,化学的および物理化学的に解明することができた。
著者
森田 学 石村 均 石川 昭 小泉 和浩 渡邊 達夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.788-793, 1995-10-30
被引用文献数
44

本調査の目的は,再治療が必要とされた様々な歯科修復物について,再治療に至った原因と,それまでの使用年数を調べることである。調査は,岡山市と名古屋市の10歯科医院において行われた。対象は,歯科修復処置が施されているにもかかわらず,歯科医師の判断により,再治療または抜歯が適当と診断された3,120歯であった。調査時に,既存修復物の種類,および,再治療が必要であると判断された理由を記録した。また,その修復物の使用年数を,患者への聞き取り調査から求めた。その結果,レジン,インレー,鋳造冠,アマルガムの平均使用年数は,それぞれ5.2,5.4,7.1,そして7.4年であった。レジン,アマルガム,インレーでは,2次齲蝕を原因として再治療される場合が多く認められた。インレーや前歯部で汎用される補綴物では,脱落によって再治療される場合が多くみられた。しかも,その場合の使用年数は,他の原因で再治療された場合の使用年数と比べて短かった。従って,インレーや前歯部で汎用される補綴物については,その脱落を可及的に防ぐことで,使用年数を効果的に延ばせる可能性が示唆された。
著者
山岸 敦 加藤 一夫 中垣 晴男
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.13-21, 2007-01-30
被引用文献数
6

フッ化ナトリウム(NaF)とモノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)は,ともに歯磨剤に配合されるう蝕予防の有効成分として最も広く用いられている.本研究の目的は,日常のセルフケアにおいてフッ化物配合歯磨剤の使用を考慮し設定した条件下で,エナメル質耐酸性に及ぼすNaFとMFPの作用の違いを明らかにすることであった.950ppmFに調整したNaFまたはMFPの水溶液で1日2回3分間,エナメル質を処理し,それ以外はpH4.5の脱灰液に浸漬した.この操作を22日間行った後,試料のミネラル量の変化(ΔZおよびLd)をX線マイクロラジオグラフ(XMR)により定量した.その結果,NaF処理群は,MFP処理群より有意に高い耐酸性を示した(ΔZ: NaF<MFP, Ld: NaF<MFP). 22日間のフッ化物処理による耐酸性層の構造を明らかにするため,pH4.0の脱灰液で6日間処理したところ,NaFとMFPのXMR像には大きな違いがあった.NaF処理群は,表面付近に限定して耐酸性を示す100μm程度の層が得られた.一方,MFP処理群は表層付近の耐酸性がNaFに比べ劣るものの,経時的にエナメル質内部に深くまで浸透し,300μm程度の耐酸性を形成した.したがって,今回の条件における耐酸性付与に関するNaFとMFPの作用は互いに対照的であり,その特性に合わせた応用が望まれる.
著者
筒井 昭仁 中村 寿和 堀口 逸子 中村 清徳 沼口 千佳 西本 美恵子 中村 譲治
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.341-347, 1999-07-30
被引用文献数
15

社会人の歯科的問題の程度を企業の生産性および経済面から把握することを目的とした。福岡市に本社を置く電力供給に関連する大型電気機械を製造する企業の工場部門の全従業員421名を対象とした。年齢は20〜65歳に分布していた。質問紙の配布留置法により過去1年間の歯科的問題に関連した1日休,半日休,遅刻・早退,作業効率の低下の情報を収集した。これらの情報から労働損失時間を算出し,さらに金額にも換算することを試みた。質問紙回収率は96%であった。工場全体で歯科的問題に関連する労働損失経験者は22%で,全損失時間は年間1,154時間,日数換算で144日であった。1人平均労働損失時間は年間2.85時間であった。この労働損失は生産高ベースで約1,200万円,生産コストベースで約800万円,人件費ベースで約400万円の損失と算定された。一企業を単位に歯科的問題に関連した欠勤や生産性の低下を把握,収集したとき社会・経済的損失は多大であることがわかった。DMFTやCPIなどの客観的指標にあわせてこれらの情報を明らかにすることは,労使双方に強いインパクトを与えるものであり,産業歯科保健活動の導入,展開に寄与するものであると考える。
著者
小野 幸絵 田中 彰 末高 武彦 澤 秀一郎
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.208-213, 2007-07-30
被引用文献数
6

2004年10月23日夕方に新潟県中越地方で最大震度7の地震が発生した.著者は,地震直後に村ぐるみで避難しその後も仮設住宅で生活しているY村住民を対象として,地震前,地震直後,仮設住宅入居以降(地震から約50日)における歯磨きの状況などについて,2005年4月にY村診療所患者のうち協力が得られた388名に調査を行った.その結果は以下のようである.1歯磨き回数は,地震前に比べて直後では減少したが,仮設住宅入居後では地震前よりわずかに増加した.また,歯磨きの仕方について地震前と入居後で比較すると,地震前と同じ者が半数以上で,雑になった者は10%あまりであった.2地震直後は,うがい液でうがいをした者あるいは口をすすいだ者が多かった.歯ブラシは80%以上が3日以内に入手した.3地震直後に必要としたものは,歯ブラシ,うがい用のコップ,うがい液の順で多かった.今回の調査参加者は一地域のみで年齢的にも偏りがあるが,被災時そして被災前後の歯磨き状況についての実態と需要を把握することができた.
著者
齋藤 俊行
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.310-317, 2011-07-30
被引用文献数
1

長崎大学は福島県の要請を受け,福島第一原発の北側20〜30km圏域に位置する人口約7万の南相馬市において在宅の自力移動困難者および避難所住民を対象に,歯科医療・口腔ケアを行った.同地域は原発事故により自主避難,屋内退避区域に指定され,医療・介護従事者を含む70%以上の住民が避難したが,多くの高齢者・障がい者は残っていた.市町村が収集した159人の自力移動困難者のリストをもとに,2011年4月4〜9日,医師・看護師・行政からなる6チームが高齢者や自立度の低い者から巡回診療を始めた.巡回時に口腔内観察と歯科医療・口腔ケアニーズ調査票への記入を依頼し,それをもとに必要性の高い者や自立度の低い高齢者・障がい者から,歯科医師と歯科衛生士のチームが翌日訪問し,応急処置と口腔ケアを行った.巡回以外では圏域内の避難所を訪問したが,自ら症状を訴え治療を希望する者は少なく,自立度の低いと思われる高齢者等を中心に積極的に声かけを行い介入,口腔内を診査し口腔ケアと応急処置を行った.6日間で87人(在宅15人,62〜93歳,避難所72人,1.6〜93歳)に口腔ケアや応急処置を,また複雑な治療が必要な者には再開し始めた歯科医院への紹介を行った.在宅,避難所いずれにおいてもプラークが多量に堆積した者が多く,ほとんどの者に義歯の清掃を含む口腔ケアを実施した.行政や自衛隊の協力のもとに,医療巡回チーム→歯科医療巡回チーム→歯科医院とつなげることで効率の良い支援が実施できることがわかった.
著者
福本 恵美子 川崎 浩二 林田 秀明 古堅 麗子 北村 雅保 福田 英輝 川下 由美子 飯島 洋一 齋藤 俊行
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.176-183, 2007-07-30

指しゃぶりは約半数の乳幼児が経験していると報告されており,その習慣化は歯列に大きく影響を与える.本研究の目的は,指しゃぶりの誘発とその習慣化の要因を明らかにすることである.3歳児健康診査を受診した3歳児(36〜47か月)512名を対象とした横断調査をもとに,指しゃぶりの開始と習慣化に関連する要因について分析した.対象者の36.3%が指しゃぶりを経験していた.3歳児健康診査時において指しゃぶりが習慣化している児の割合は,全対象者の15.8%,指しゃぶり経験者の43.5%であった.指しゃぶり開始の要因解析結果から,有意であったものは「郡部」と「兄弟姉妹の指しゃぶり有」であり,オッズ比はそれぞれ1.67(p<0.05),3.05(p<0.001)であった.指しゃぶり経験者における,その習慣化にかかわる要因解析では,「郡部」「弟妹の妊娠無」「母乳終了月齢12か月未満」で有意な関連が認められ,オッズ比はそれぞれ2.56(p<0.05),5.00(p<0.05),6.14(p<0.001)であった.以上の結果から,指しゃぶりの開始には「郡部」「兄弟姉妹の指しゃぶり有」が誘発要因として挙げられ,指しゃぶりの習慣化を防ぐためには母乳栄養を少なくとも生後12か月までは継続することが重要であることがわかった.
著者
安藤 雄一 石田 智洋 深井 穫博 大山 篤
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.41-52, 2012-01-30
被引用文献数
3

歯科医院への定期受診の全国的実態は必ずしも明らかとはいえないため,われわれは20〜60歳代の男女から成る調査会社のモニタ計3万人に対してWeb調査を行い全国の概況把握を試みた.質問項目は定期歯科受診の有無と最後の歯科受診時期とその診療内容で,対象者の属性として性・年齢・居住地区・職業の情報を用いた.定期受診者の割合は35.7%(男性31.5%,女性39.9%)であった.過去1年間における歯科受診ありの割合は50.3%(男性45.9%,女性54.7%)であった.定期受診の有無についてクロス集計とロジスティック回帰分析を男女別に行ったところ,年齢階級,職業,居住地区,診療内容が有意性を示した.定期受診者の割合は高齢層が高く(男女共通),東北地方(男女共通)と北海道・四国・九州地方(女性のみ)で低かった.最後に受けた診療内容が「歯周疾患」・「歯ならびやかみ合わせ」・「その他」だった人は定期受診者の割合が高く,「むし歯」,「抜けた歯の治療」だった人では低かった(男女共通).職業では,男性において自営業,パート・アルバイト,学生などが低率を示した.さらに性・年齢階級で層別したロジスティック回帰分析を行ったところ,若い年齢層ほど,また女性より男性において職業による差が顕著であった.本調査結果は全国を代表するものとは言えないものの,歯科定期受診の全国的な実態を示す記述疫学情報として有用と考えた.
著者
佐藤 豊
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.203-212, 2002-07-30
被引用文献数
1

0歳児から2歳児までの47名(男児26名,女児21名)を対象とし,各種機能発達過程に関してコホート研究を実施した。原始反射の消失時期,体位保持機能,口腔周囲の運動機能,跳躍などの運動能力,言語機能の獲得時期,食事形式の変化と発達時期および歯の萌出時期の各項目について,早期獲得群と運期獲得群とを比較し,各機能の相互関連性を検討した。探索反射,吸綴反射,咬反射の消失時期の早い小児では,早期に首がすわり,座位をとり,這いずりができていた。また,早期に口を閉じて液体を飲み,口唇捕食や口唇および目角を複雑に動かし,下顎を上下運動させ,舌で食物を押しつぶして食べることができ,さらに手づかみで食べる機能獲得も早く,喃語の出現も早期に認められた(p<0.05)。しかし,走る,その場で跳躍する,片足で立つなどの機能との間に関係は認められなかった。早期に首がすわり,座位をとり,這いずりや歩行ができた小児では,口を閉じて液体を飲む口唇捕食,口唇の複雑な運動,口角の左右対称な運動,下顎上下運動,舌での押しつよし食べ,歯槽堤での咀嚼および手づかみで食べるなどの機能が早期に獲得されていた(p<0.05)。原始反射消失が早い小児では,体位保持機能,口腔周囲機能の獲得が早期にみられたが,食事形式,言語機能,運動機能については早期に獲得されていない領域も認められ,特に摂食機能や言諸機能については,発達段階に即した日常の育児のなかでの適切な学習プログラムが重要であると思われた。
著者
葭原 明弘 安藤 雄一 池田 恵 小林 清吾 小黒 章 石上 和男 永瀬 吉彦 澤村 恵美子 瀧口 徹
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.339-345, 1996-07-30
被引用文献数
24

1984年より行政事業として成人歯科健診事業を実施してきた地区において,成人歯科健診事業の受診経験が喪失歯数およびう蝕処置状況に及ぼす影響について調査した。調査対象者数は,1994年の歯科健診事業受診者1,311人である。1993年以前に実施された歯科健診事業を1回でも受診したことのある者を「過去受診群」(309人),1994年の歯科健診初診者を「過去未受診群」(1,002人)とした。1994年における「過去受診群」と「過去未受診群」との横断分析のみならず「過去受診群」におけるベースラインデータと1994年との縦断分析も加えて評価を行った。その結果,一人平均喪失歯数については歯科健診事業の受診経験による改善傾向は認められなかった。う蝕処置完了者率については,歯科健診事業受診経験者に経年的な向上を認めた。しかし,これは歯科健診事業の受診によることよりも日常的に歯科医院を受診し易くなったという社会的要因に負うものが大きいと推察された。したがって,成人歯科保健事業については,今後歯科保健教育および適切な事後の予防管理を主体とする方向に可能性を見いだすべきであると考えた。
著者
笹原 妃佐子 河村 誠 清水 由紀子
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.196-207, 2004-07-30
参考文献数
14
被引用文献数
15

選挙人名簿抄本から無作為に抽出した広島市住民に対して,郵送による質問紙調査を行った.質問紙では,性別や年齢などの属性,健康状態や歯科への受診行動について尋ねた.郵送した1,200名のうち,635名より返送があり,「定期的に歯科健診を受けていますか」の質問に回答のあった611名分について,定期的な歯科健康診断を支える要因を検討した.その結果,5つの要因が抽出された.Logistic回帰分析を行ったところ,この5つの要因のうち,最も定期歯科健診への影響力が大きかったのは『歯の健康に対する関心の因子』であり,学校や地域における歯科保健教育の重要性が示唆された.2番目に影響力が大きかったのは『歯科治療に対する感情の因子』であり,歯科診療時の麻酔薬や麻酔方法,切削器具等の改良により,歯科治療を受ける者の疼痛や不快感を減じる不断の努力が望まれた.3番目の要因は『地域密着性の因子』であり,歯科医が患者の信頼を受けるにたる治療を行い,定期歯科健診の必要性をアピールすることが必要であると考えられた.4,5番目の要因はそれぞれ『医師信頼性の因子』,『経済面の因子』であった.
著者
八木 稔 佐久間 汐子 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.375-381, 2000-07-30
被引用文献数
2

フッ化物洗口は,歯のフッ素症のリスクになるかもしれないとして,6歳未満の子どもたちには用いるべきではないとされる場合がある。しかし,日本のようなフッ化物の全身応用がなされていない地域において,そのようなフッ化物洗ロプログラムが歯のフッ素症のリスク要因であるという疫学的な報告はみあたらない。そこで,(1)フッ化物洗口群(非フッ素地区において4歳児からフッ化物洗ロプログラムに参加),(2)天然フッ素群(天然にフッ化物添加された約0.8mg F/lの水を飲用,フッ化物洗口プログラムない,および(3)非フッ素群(非フッ素地区,フッ化物洗ロプログラムない,それぞれの小学校5,6年生を対象に,2〜6歳の間に形成されるエナメル質の歯面領域(Fluorosis Risk IndexのClassification II)におけるエナメル斑の発現について疫学的調査を行った。フッ素性とみなされたエナメル斑の発現については,フッ化物洗口群では,非フッ素群よりも少ない傾向にあったが(オッズ比0.358),統計学的に有意ではなかった。同じエナメル斑の発現は,天然フッ素群では,非フッ素群に比較して有意に多かった(オッズ比3.112)。また,非フッ素性とみなされたエナメル斑の発現は,フッ化物洗口群および天然フッ素群ともに,非フッ素群と比較して少ない傾向がみられたが,統計学的に有意ではなかった。よって,非フッ素地区における就学前4歳児からのフッ化物洗ロプログラムが,歯のフッ素症のリスク要因となるとはいえなかった。
著者
広瀬 弥奈 村田 幸枝 福田 敦史 村井 雄司 大岡 令 八幡 祥子 水谷 博幸 五十嵐 清治
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.301-309, 2011-07-30

本学近隣の小児や保護者にフッ化物によるう蝕予防法をこれまで以上に普及させるためには今後どのような対策を講じていけば良いかを明らかにする目的で,北海道石狩郡新篠津村立小・中学校の保護者を対象にう蝕予防に関する意識調査を行った.その結果,う蝕予防で最も重要(問4)なのは「歯磨き」と回答した保護者が94.6%と最も多く,「フッ素」と回答した保護者は皆無であった.フッ化物によるう蝕予防は効果が高い(問13)と答えた保護者は62.8%で最も多かった.フッ化物配合歯磨剤の認知度(問15)は91.6%とかなり多かったが,フッ化物洗口法を知っていると答えた保護者は36.6%と少なく(問14),水道水フッ化物添加法においては18.5%とかなり少なかった(問20).一方,フッ化物配合歯磨剤の使用率は高かったものの,フッ化物配合歯磨剤を使用しないブラッシングにも予防効果があると答えた保護者が半数以上認められた.また,フッ化物に不安を抱いている保護者はフッ化物の応用に消極的であった.以上のことから,保護者のフッ化物によるう蝕予防に関する正確な知識が乏しいことが明らかとなった.今後,フッ化物の効果と安全性,応用法などに関する正しい知識を普及させるための啓発活動の必要性が認められた.
著者
森田 一三 中垣 晴男 村上 多恵子 加藤 一夫 水野 照久 坪井 信二 加藤 尚一 水谷 雄樹 太田 重正 小澤 晃 瀧川 融 粂野 千代 井上 千恵子 井上 好平 相武 卓樹 飯島 英文 佐藤 和子 大野 知子
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.241-247, 1996-07-30
被引用文献数
22

80歳で20歯以上保持する者(8020者)と19歯以下の者(対照者)について,栄養および食事摂取状況を比較検討した。その結果8020者はエネルギー充足率が有意に低かった。また,糖質摂取量が低い傾向が見られた。食品の摂取品目は8020者の方が多かった。以上より8020者はエネルギー摂取量は少なめで,多くの種類の食品を摂ると結論された。
著者
深井 穫博
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.120-142, 1998-01-30
参考文献数
91
被引用文献数
34

わが国の歯科保健医療の実態を行動科学的に捉える1つの方法として,成人を対象とし,職域を1つに限定し,全国規模として北から南にかけて9地域を選定した。調査対象者は,人口10万人以下の9市の市役所に勤務する成人1,418名である。統計的な検定は,x^2検定と多重ロジスティック回帰分析を用いた。歯科治療に対して強い不安をもつ者の割合は,33.1〜56.6%の範囲であり,25〜34歳および55〜64歳の年齢層で,女性が有意に高い割合であった。過去1年間に歯科を「受診しなかった」者は,男性が38.9〜51.2%の範囲であり,女性では32.3〜43.9%であった。北海道,中部,関東,近畿,中国および九州の9地域を比較した結果,就寝前の歯みがき習慣のある者は63.5〜81.2%の範囲であり,かかりつけの歯科医師をもつ者は59.4〜80.7%であった。口腔保健への促進因子と阻害因子について,35〜44歳の年齢層で解析した結果,就寝前の口腔清掃行動に有意に働く因子は口腔保健に関する知識であり,かかりつけの歯科医師の有無では,(1)家族数(三世代)と(2)症状を自覚した際に歯科医院へすぐ行く態度が選択された。定期歯科健診の受診では,(1)「年収」と(2)「歯科治療への恐怖心」が関連していた。以上の結果から,成人の口腔保健に関する認知度および歯科医療の受容度には,性差,年齢が明らかに影響を及ぼしており,地域性との関連も認められた。口腔保健行動には,「知識」,「歯科医療機関へのアクセシビリティー」,「歯科治療に対する不安」,「周囲からの働きかけ」,「経済性」などが関与していることが示された。