著者
杉山 純多 勝本 謙
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.54, 2007

澤田兼吉 は1929 年, 1928 年 8 月台湾台中州尾上(約 2,600 m)で採取したホソバゼンマイ (<I>Osmunda japonica</I> var. <I>sublancea</I>) の葉・葉柄に寄生する菌類を変形菌類の新属新種<I>Phytoceratiomyxa osmundae</I> Sawada (台湾博物学会会報 19 : 31. 1929) として記載した. 原記載文ならびに再記載文(台湾産菌類調査報告, 第五編, p. 11, 1931)とその図解(外生胞子を付けた胞子嚢が描かれている)を見ると, 明らかに H. Nishida et al. (Can. J. Bot. 73 (Suppl. 1): S660-S666. 1995) によって明らかにされた <I>Mixia osmundae</I> (= <I>Taphrina osmundae</I>) の特徴によく似ており, 澤田の誤同定の可能性が強く示唆された. 最新のDictionary of the Fungi, 9th ed. (2001) によると, <I>Phytoceratiomyxa</I> は「疑問名 ?Myxomycetes」と表記されている. 昨年、件の新属新種のタイプ標本が国立科学博物館菌類標本庫に収蔵されていることが判明し, このたび当該標本を詳細に調べることができた. その結果, <I>Phytoceratiomyxa osmundae</I>の形態学的特徴は H. Nishida et al.(前述)定義の<I>Mixia osmundae</I> (T. Nishida) Kramerと合致した. 従って, <I>P. osmundae</I> Sawada は<I>T. osmundae</I> T. Nishida、すなわち<I>Mixia osmundae</I>(T. Nishida)Kramer の分類学的異名となる. 両属の命名法上の取り扱いについては別途正式に提案する. また, <I>Mixia osmundae</I> のバシオニム<I>Taphrina osmundae</I> T. Nishida の原記載文の根拠となった2標本は消失したものと判断し, 上記 H. Nishida et al.(前出)に記載, 引用された1標本(IAM-F 0148)を <I>Taphrina osmundae</I> T. Nishida のネオタイプに指定することとする. なお, 新属新種 <I>Phytoceratiomyxa osmundae</I>と新種 <I>T. osmundae</I> の原記載文はそれぞれ日本語と英語で書かれラテン語記載を欠くが, 発表年 (1911年)が1935年1月1日以前なので国際植物命名規約第36条1に抵触しないことになる.
著者
杉山 純多 斉藤 成也
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

1980年代に登場した分子系統進化学の新しい波は、これまで形態学中心の保守的な立場を堅持してきた菌類分類学にも波及し、1990年代初頭より菌類の分類・系統進化の研究は、新しい局面に入った。すなわち、菌類分子系統分類学と呼ぶ新しい研究分野が登場した。そのような背景を踏まえて、本研究は当初次の諸点を明らかにすることにあった。1.分子進化学的手法を用いて、高等菌類系統論の鍵を握るタフリナ目(Taphrinales)菌類の系統進化的関係を明らかにする。2.担子菌酵母・アナモルフ酵母の超微形態学的、細胞学的研究を行い、それらの形質の系統進化学的指標としての評価を行う。3.分子と形態の両形質の多面的解析から、高等菌類における系統進化の現代的構図を提示し、分類体系再構築の手がかりを探る。4.分子系統樹作成法の開発。その結果、次のような特筆すべき研究成果が得られた。1.18S rDNA 塩基配列の比較解析から、タフリナ目菌類などの系統進化的関係を明らかにして、子嚢菌類中の新主要系統群として“Archiascomycetes(古生子嚢菌類")を提案した。2.分子と形態の両形質の解析から、85年にもわたり子嚢菌類と堅く信じられてきたMixia osmundae(=Taphrina osmundae)は、担子菌類のサビキン菌類系統群に位置づけられることを明らかにした。3.担子菌類における担子菌類系酵母の系統関係を明らかにした。4.高等菌類は単系統であるが、下等菌類のツボカビ類と接合菌類は多系統であることを提示し、さらに複数の系統で鞭毛の消失が起こったことを示唆した。5.植物寄生菌類Protomyces属菌種の18S rRNA遺伝子中にグループIイントロンを発見し、当該遺伝子の異種生物間における水平移動を強く示唆した。6.分子系統樹作成法について、最尤法を用いた分子系統樹作成への並列配列論理プログラムの応用を検討し、論理プログラム言語の一つであるKL1を適用して開発した。