著者
辻山 彰一
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.127, 2008

アミガサタケ類は子嚢菌であり,春に発生する食用きのことして親しまれている.これまで栽培試験が行われてきたが,まだ日本国内では商業栽培には至っていない.アミガサタケは腐生性であるとみなされる一方,菌根性の一面を持っていることが報告されており,このため栽培が困難であると考えられている.しかし,人工培地中での菌糸成長は良好であり,腐生的な性質が強いと考えられる.本研究では,アミガサタケ類の栄養生理を調べることを目的として,木材腐朽試験を行い,木質成分の資化性について調べた.供試菌は,京都市内で採集し保存した<I> Morchella esculenta </I> (L.: Fr.) Pers.(アミガサタケ)と<I> Morchella conica </I> Pers.(トガリアミガサタケ)をそれぞれ2菌株使用した.ブナ辺材およびアカマツ辺材(20(R) x 20(T) x 5(L) mm)を試験材として,28℃で腐朽試験を行った.2ヶ月培養後,重量減少率を算出し,木材成分分析を行った.<I> M. esculenta </I>はアカマツ材をほとんど腐朽しなかったが,ブナ材の腐朽力が高く,2菌株による重量減少率はそれぞれ28.1, 26.0%であった.これに対して<I> M. conica </I>は,ブナ・アカマツいずれの材ともほとんど腐朽しなかった.木材成分分析を行った結果,<I> M. esculenta </I>によるブナ腐朽材中のリグニンの減少率は34.4, 32.4%であり,L/H比(=リグニン減少率/ホロセルロース減少率)は1.47, 1.34であった.このことから,<I> M. esculenta </I>はブナ材に対して白色腐朽を起こすことが示された.腐朽材のアルカリニトロベンゼン酸化分析の結果,バニリン酸やシリンガ酸の収率が高くなっており,酸化分解が起こっていることが示唆された.また,バーベンダム反応および色素(レマゾールブリリアントブルーR,Poly R-478)の脱色試験において,<I> M. esculenta </I>は陽性を示した.これまでアミガサタケ類は腐生性を有していると考えられているが,以上の結果から,<I> M. esculenta </I>は木材腐朽能力を有し、木質成分を栄養とできることが示された.
著者
中村 仁 佐々木 厚子 相川 拓也 市原 優 田端 雅進
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.98, 2011

岩手県の栽培ウルシ林の衰退原因について紫紋羽病の関与が疑われている.日本では紫紋羽病の病原菌として知られる<I>Helicobasidium mompa</I>の他に,<I>H. brebissonii</I>が青森県に分布することから,当該ウルシ林で発生している紫紋羽病菌の種同定を行った.2009年および2010年10~11月に岩手県北部10ヶ所のウルシ林で採集した子実体60試料から得た分離菌株の形態観察を行い,一部菌株についてはrDNA ITS領域の塩基配列を決定した.また2011年5月にウルシ林3ヶ所で胞子形成している子実体を採集し,形態観察を行った.その結果,46菌株のうち32菌株(8ヶ所由来)が<I>H. mompa</I>,7菌株(3ヶ所由来)が<I>H. brebissonii</I>と同定された.<I>H. brebissonii</I>については青森県以外での初確認であり,本種は東北地方北部に分布していることが示された.残り7菌株(2ヶ所由来)については,上記2種とは異なっていた.本未同定菌は,酸性V-8ジュース寒天培地上では菌糸塊形成がまれで気中菌糸の少ない菌叢となり,オートミール寒天培地上では貧弱な菌叢生長を示すなど上記2種の培養菌叢と区別できた。子実体上では前担子器のない,2個の小柄を有する,湾曲した円筒状の担子器を形成し,担子胞子は無色,卵形~楕円形で,大きさは7.5-12.8 x 4.5-8 &micro;mであり,これら特徴は<I>H. brebissonii</I>とほぼ一致あるいはその範囲内であった.また,国内の他紫紋羽病菌との分子系統関係を類推するためrDNA ITS領域を用いた系統樹を作成した結果、<I>H. brebissonii</I>とは異なるクレードを形成した.<I>H. brebissonii</I>と近接した場所で発生している場合があり,生殖的な隔離が存在すると推察されたことから,本菌を国内既知種とは異なる種,<I>Helicobasidium</I> sp.と同定した.以上から,岩手県の栽培ウルシ林には,国内初確認の種を含む,<I>Helicobasidium</I>属3種が分布することが明らかになった.
著者
宮入 一夫 大澤 佑斗 白戸 千裕 鈴木 義孝
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.65, 2011

[目的] ヘモリシンは原形質膜に結合し膜孔を形成することにより細胞崩壊を引き起こすタンパク質であり, 細菌, 海産動物, キノコなどにその存在が知られている. キノコヘモリシンは扱いが難しく不明な点が多い. 本研究では, キノコ類のヘモリシンについてその分布, そしてエリンギとスギヒラタケのヘモリシンについていくつかの特性を明らかにした. <BR>[方法と結果] ヘモリシン活性は, ニワトリ保存血を使い, 等張液中で完全溶血の半分の溶血を起こすタンパク量を1HUとした. 分析用キノコは市販品あるいは青森県津軽地方で採取し, -80℃に貯蔵しておいた33科113種類のものを用いた. 凍結キノコを破砕後2倍量の抽出緩衝液(pH8.0)を加え, 遠心分離後, 上清の溶血活性を求めた. 予備実験でキノコの中には抽出時に活性がなく, そのまま1晩放置後活性化するものがかなりあることがあきらかになった. そこでキノコ抽出液を抽出直後のものと一晩放置したものとに分けて活性測定した. その結果, 調査した113種類のうち45種類に明らかな溶血活性が見られた. このうち11種類は1晩放置後に活性が観察された. テングタケ科に属するキノコは12種類中8種類に活性が見られたのに対し, イグチ科の12種類のキノコにはいずれにも活性が見られなかった. 最も活性が強いのは市販のエリンギで1640 HU/g, ついでドクツルタケ1429 HU/g, タマゴテングタケ486 HU/g, ニカワホウキタケ394 HU/g, ヒロヒダタケ71 HU/gの順であった. エリンギのヘモリシンは抽出時にすべて活性化しており, その後活性増加はみられなかった. 一方, スギヒラタケのものは抽出時には全く活性が見られなかったが,5時間後に最大活性(59 HU/g)を示した. エリンギのヘモリシンはきわめて熱に弱く37℃でも1時間後には失活し始めたが, スギヒラタケの不活性型ヘモリシンは20分間の煮沸処理でもキノコ中で安定であった.
著者
吹春 俊光
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.45, 2008

"維管束植物は外側と内側が反転した地衣類である"といわれるように,陸上植物は菌類との共生の上で生存し,陸上生態系で菌の存在は無視できない.北半球では外生菌根性植物であるブナ科,マツ科,カバノキ科が主要な植物景観の構成要素であるが,従来,植生の変遷や景観の変遷が,菌根の側から説明されたことはなかった.提案する「菌根型からみた植生景観変遷モデル」は,菌根の立場で,植物景観や植生の変遷を説明するものである. 図の説明:a.有史以前:人為的な行為の無い森林.山の尾根から斜面にかけて外生菌根型の樹種(ブナ科,マツ科,カバノキ科)が優占する.VA型の樹種はその斜面にスポット的に混在する.b.里山(~1959):人は山のふもとに集落をつくり,集落の背後の谷筋にはVA型のスギなどを植えた.またその他の場所では,コナラ林やマツ林などの人為二次林である里山が成立した.景観としてはまだ外生菌根性樹種が多い.c.現在:尾根の上などの乾いた立地にまでVA型の樹種の植林がある.尾根や稜線にかろうじて外生菌根型の樹種が残された.かつては,北半球のほとんどを覆い尽くした外生菌根型の森は,この景観の中では消滅寸前である.
著者
長尾 侑架 大園 享司 広瀬 大
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.85, 2011

葉や茎を変形させてアリ類を営巣させ、それらのアリ類と密接な相利共生関係を結ぶ植物をアリ植物という。アリと菌類の共生関係として、ハキリアリ類との栽培共生がよく知られている。近年では、アリ植物やその共生アリとのあいだにユニークな関係を持つ菌類が相次いで発見されており、植物―アリ―菌類の三者間相互作用系に注目が集まっている。演者らは、アジア熱帯に分布するアリ植物のオオバギ―シリアゲアリ共生系を材料として、この相互作用系を明らかにする目的で研究を進めている。本発表では、<I>Macaranga bancana</I> 茎内のアリの巣から出現する菌類の多様性と機能についての予備調査の結果を報告する。2009年6月にマレーシアのランビルヒル国立公園において、内側がアリ室として利用され黒色化した茎(直径1cm、長さ2cm、軸方向に半分割)20片を採取した。これら試料片を20℃の湿室内で2週間培養し、出現した菌類の形態観察とDNA塩基配列(ITS領域、28S)により分類群を検討した。その結果、9分類群の菌類が得られた。<I>Nectria haematococca</I> と<I>Lasiodiplodia theobromae</I> の2種はいずれも20試料片中13片(出現頻度65%)ともっとも高頻度で出現した。<I>L.theobromae</I> はマンゴーやカカオの病原菌として知られるが、本種の黒色菌糸はアリ室内部の黒色化に関与している可能性がある。<I>Isaria takamizusanensis</I> はアリ室に共生するカイガラムシの関連菌と推察される。このほか昆虫関連菌と考えられる分類群や、リター菌・土壌菌である<I>Aspergillus niger</I> などが分離された。加えて、アリ植物の葉に見られるfood bodyおよびアリからも菌が分離されており、その結果も合わせて報告する。今後はこれらの菌類種のアリ室における生態的な役割を調べるとともに、オオバギ属の他の植物種を対象とした菌類多様性の比較調査を行う予定である。
著者
細矢 剛 保坂 健太郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.6, 2008

「菌類」は俗に言う「日陰者」であり,一般には,悪いイメージでとらえられる.科博における大学・一般を対象としたアンケート調査(n=29)でも,菌類からイメージされる形容詞には「汚い・怖い・暗い・くさい・しぶとい」など,どちらかというとネガティブな単語が並ぶ.しかし,菌類は自然界では環境の調和を図る存在として重要な役割を担うばかりでなく,人間とも様々な利害関係を持っている.このような重要な存在をアピールし,菌類の知名度を向上するため,国立科学博物館では,日本菌学会にも協力を得て,本年10月より,菌類をテーマにした特別展を開催する予定である.本講演では,この展覧会の内容を紹介し,話題提供としたい.本展覧会は以下のような構成である.0)プロローグ:生命の星地球は菌類の星(コミック「もやしもん」のキャラクターなどによる展覧会全体の紹介),1)菌類の誕生と多様化(菌類の化石を展示し,地球と菌類の生命史を紹介する),2)菌類ってどんな生物(二界説・五界説など生物の世界での菌類の立ち位置を紹介し,バクテリア,変形菌など紛らわしい生物についてもとりあげる),3)菌類のすがた(各門の代表的な菌類を紹介する.大型の菌類は樹脂含浸品,液浸標本を展示する.微小菌類は拡大模型・写真),4)光るきのこのふしぎ(ヤコウタケ),5)きのこKids(においをかいでみよう,音をきいてみよう,さわってみよう,顕微鏡をのぞいてみよう,などの体験コーナーで,菌類に実際にふれていただく,子供を主な対象としたコーナー),6)菌類が支える森(寄生・共生・腐生によって様々な形で他の生物と関わる菌類の自然界の中での姿を紹介し,環境の中での菌類の役割を考える),7)菌学者の部屋(日本の菌学の発展に貢献した菌学者の紹介),7)菌類と私たちの生活(アイスマンのきのこ,縄文きのこ,コウジカビから始まる菌の利用,鎌倉彫,食用きのこ,毒きのこ,など),8)菌類研究最前線(カエルツボカビなど),9)菌類と地球の未来.以上の展示を通じ,菌類が人間の活動や自然界で欠かせない,無視できない存在であることをアピールする.
著者
エストラーダベラスコ ベアトリス ルイスロサノ ファン マニュエル バレア ホセ ミゲル
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.37, 2009

Increased salinization of arable land is anticipated to raise devastating global effects in the coming years. Mediterranean countries already have both arable land salinization and desertification problems. Arbuscular mycorrhizal (AM) fungi have been shown to improve plant tolerance to abiotic environmental factors such as salinity. The AM fungi <I>Glomus coronatum</I>, which is a reperesentative species in salinity environments, and isolated from sand dunes in the Natural Park of Cabo de Gata (SE Spain) was used in our study. Two other AM fungi isolated from non-salinized environments; <I>G. intraradices</I> and <I>G. mosseae</I> were also used in the experiment. <I>Asteriscus maritimus</I> (L.), a member of the Asteracea family, was selected to carry out the greenhouse experiment to be native of lands surrounding the Mediterranean Sea, especially Spain. In this study, <I>A. maritimus</I> plants were grown in sand and soil mixture with two NaCl levels (0 and 50 mM) during 10 weeks of non-saline pre-treatment, following 2 weeks of saline treatment. Results showed that inoculated plants grew more than nonmycorrhizal plants. Unexpectedly <I>G. intraradices</I> was the most efficient AM fungi in terms of fresh weight, dry weight and Qyield although plants inoculated with <I>G. coronatum</I> showed better stomatic conductance. Plants inoculated with <I>G. mosseae</I> showed a intermediate pattern between the other two AM fungi. Based on these results, the AM fungi inoculation helps the growth of <I>A. maritimus</I> in saline conditions and <I>G. intraradices</I> appears to be the most efficient of the three AM fungi studied. This study may be useful in revegetation and regeneration projects by selecting adequate species of AM fungi.
著者
〓[「登」偏におおざと(「都」のつくり)] 志強 鈴木 彰 吹春 俊光 田中 千尋
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.42, 2007

<I>Hebeloma</I>属, <I>Porphyrospora</I>亜属のアンモニア菌の種同定を行なうため, 交配試験を行なった. 尿素区に発生した子実体の形質に基づき, <I>H. vinosophyllum</I> (日本産), <I>H. aminophilum</I> (オーストラリア産) ならびに<I>Hebeloma</I> sp. (ニュージーランド産) と同定された3菌種を供試した. まず, <I>H. vinosophyllum</I>の培養子実体から単胞子分離によって単核菌糸を得た. 同単核菌糸間の交配試験を行い, <I>H. vinosophyllum</I>は4極性の交配型をもつことを確認した. <I>H. aminophilum</I>と<I>Hebeloma</I> sp.については, 分離菌株が子実体形成能を消失しているため, スライド培養した複核菌糸先端部の検鏡下で切離あるいは振とう培養によって遊離した菌糸断片の選別によって, それぞれ単核菌糸を得た. <I>H. vinosophyllum</I>の単核菌糸をテスター株として, <I>H. aminophilum</I>と<I>Hebeloma</I> sp.の複核菌糸をダイ・モン交配したところ, いずれの組み合わせでも交雑は認められなかった. 次に, <I>H. vinosophyllum</I>, <I>H. aminophilum</I>, <I>Hebeloma</I> sp.の単核菌株を用いてモン・モン交配したところ, <I>H. aminophilum</I>と<I>Hebeloma</I> sp.の組み合わせでは交雑が認められたが, <I>H. vinosophyllum</I>と<I>H. aminophilum</I>, <I>H. vinosophyllum</I>と<I>Hebeloma</I>. sp.の組み合わせでは交雑が認められなかった. 以上の結果は, <I>Porphyrospora</I>のアンモニア菌に関する分子系統解析の結果(Deng <I>et al</I>. 2006) を支持するものであり, ニュージーランド産<I>Hebeloma</I> sp.は<I>H. aminophilum</I>と生殖レベルで同一種と取り扱うべきこと, 日本産<I>H. vinosophyllum</I>と<I>H. aminophilum</I>はそれぞれ独立種として取り扱うべきことが明らかになった. * 日本菌学会50周年大会講演要旨集, p. 50.
著者
工藤 伸一 長沢 栄史
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.33, 2006

青森市郊外のスギ植林地内草地で採集された2種のきのこを調査した結果,それぞれアカヤマタケ属のアカヤマタケ節(sect. <I>Hygrocybe</I>)およびベニヤマタケ節(sect. <I>Coccineae</I>)に所属する新種と考えられたので報告する. 1)<I>Hygrocybe niveoconica</I> (sp. nov.)_-_トガリユキヤマタケ(新称):子実体は中形で,全体が淡クリーム白色_から_白色.傘は平滑,湿時弱い粘性あり,初め円錐状鐘形,のち開くが中央突出する.ひだは柄に湾生し狭幅,やや密.柄は細長く,基部で多少細まり,中空.表面は平滑.胞子は楕円形,7_-_10×5_-_7μm.担子器は通常4胞子性,ときに2胞子性.アカヤマタケ節に所属し,アケボノタケ <I>H. calyptriformis</I> (Berk.& Br.) Fayodに最も近縁と考えられる.しかし,同種は傘がライラック色を帯び,胞子が6.5_-_7.5×4_-_5μmと小形,また側および縁シスチジアをもつなどの点で異なる.外観的には北アメリカの <I>H. pura</I> (Peck) Murrill(ナナイロヌメリタケ節 sect. <I>Subglutinosae</I>)にも多少似るが,同種は柄に強い粘性があり,また傘および柄の傷んだところがピンク色を帯びると言われている (Hesler & Smith, 1963).2)<I>Hygrocybe ramentacea</I> (sp.nov.)_-_クロゲヤマタケ(新称):子実体は中形.傘は黄色の地に暗褐色の顕著な繊維状小鱗片を生じ,初めやや円錐状丸山形,のち開いて中高の平らとなる.ひだは直生_から_上生あるいは多少垂生し,広幅,疎,淡黄色.柄は下方で多少太まり,中空.表面は黄色,基部で淡黄白色,繊維状.胞子は楕円形_から_長楕円形,8_-_11(_-_13)×5.5_-_7(_-_8)μm.担子器は4胞子性.側および縁シスチジアをもつ.ベニヤマタケ節に所属し,小笠原の母島から報告のあるクロゲキヤマタケ <I>H. hahashimensis</I> (Hongo) Hongoに極めて近縁な種と考えられる.しかし,同種は胞子が7_-_9.5×4.5_-_6.5μmと小形,縁および側シスチジアを欠くと言われている(本郷, 1987).
著者
秋山 綾乃 広瀬 大 小川 吉夫 一戸 正勝
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.45, 2011

ブルーチーズは, 代表的なカビ付け成熟型チーズのひとつで, その生産には<I>Penicillium roqueforti</I>が用いられている.生産過程でのこの菌の添加は, 特有の臭いとテクスチャーを生むことになる.ブルーチーズとして有名なのは, ロックフォールト(フランス), フルム・ダンベール(フランス), ゴルゴンゾーラ(イタリア), スティルトン(イギリス)などで, 今日では, これらの他にもデンマーク, ドイツ, スイスなどのヨーロッパ諸国において, また, 日本においても<I>P. roqueforti</I>を用いたカビ付け成熟型チーズが生産されている.これら多様な原産地と製法の相違は, いくつかの遺伝的に変異した<I>P. roqueforti</I>がブルーチーズ生産に用いられていることを予想させる.本研究では, 市場で入手した34種のブルーチーズの各々から<I>P. roqueforti </I>を分離し, beta-tubulinのイントロンを含む部分塩基配列(447塩基対)を基にその遺伝的変異を近隣結合法により解析した.分離された34株は, 2つのクレードに分割され, 一方のクレードは, 4種のロックフォールから分離された4株を含29株から成り, もう一方のクレードはフルム・ダンベールから分離された1株を含む5株から成っていた.ロックフォールとフルム・ダンベールの2つは, 最も古くから生産されているブルーチーズで, その歴史はローマ時代にまで遡るといわれている.これら古くから生産されている2つのチーズの生産で異なる系統の菌株が使用されていることは興味深い.ただし, これら2つの系統間で異なる塩基配列数は2塩基のみで, 近縁の<I>P. roqueforti</I>がブルーチーズの生産に用いられているものと考えられる.ブルーチーズの風味やテクスチャーの相違は使用する原乳や共存する微生物の相違によってもたらされると思われる.
著者
廣岡 裕吏 小林 享夫
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.69, 2007

<I>Cosmospora</I>属菌は,<I>Nectria</I>属<I>Dialonectria</I>亜属(Samuels et al. 1991)を1999年にRossmanらが属へ昇格させたHypocrea目,Nectria科の1属である.現在,本属菌のアナモルフは,5属が知られておりアナモルフとテレオモルフの一元化には至っていない.演者らは,日本で未記録の<I>Fusarium</I>アナモルフを持つ<I>Cosmospora</I>属菌2種を確認したので報告する.1. <I>Cosmospora</I> sp. (アナモルフ: <I>Fusarium</I> sp.): 東京都西多摩郡奥多摩町および宮城県宮城郡利府町の枯れ枝より採集,子のう殻は孔口部に短い付属糸を持ち薄いオレンジ色で,子のう胞子は表面に小疣があり,大きさ8-12 × 4-5μmである.アナモルフはSNA(暗黒下)上でポリフィアリディックの分生子形成細胞から鎌形で末端に脚胞があり,1-3隔壁を持つ大きさ22-46 × 2.5-3μmの分生子(大分生子)を豊富に形成した.無隔壁で紡錘形などの特徴を持つ小型の分生子(小分生子)は形成されない.本菌は両世代ともこれまで記録が無く新種と考えられる.2. <I>Cosmospora</I> <I>pseudoflavoviridis</I> (Lowen & Samuels) Rossman & Samuels (アナモルフ: <I>Fusarium</I> sp.): 宮城県宮城郡利府町の落枝より採集,子のう殻は孔口部に付属糸を持ち赤色で,子のう胞子は表面に疣があり,大きさ10-20 × 5-8μmである.アナモルフはSNA(BLB照射下)上でモノフィアリディックの分生子形成細胞から鎌形で末端に脚胞があり,1-5隔壁を持つ大きさ10-57 × 2.5-5μmの大分生子と短い棍棒形から楕円形で大きさ3-20 × 2-4μmの小分生子を豊富に形成した.また,長さ52-135μmの分生子柄を立ち上げた.本菌のアナモルフは,これまで<I>Fusarium</I> cf. <I>melanochlorum</I> Casp. と記録されていたが,極端に長い分生子柄を立ち上げるため新種と考えられる.
著者
埋橋 志穂美 東條 元昭 今津 道夫 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.133, 2008

<I>Pythium</I>属菌は世界各地の土壌や水域環境に広く分布する卵菌類で,現在130種以上,日本では約50種が報告されている.多くの種は野菜をはじめ多くの作物の苗立枯れや根腐れを引き起こす重要な土壌伝染性病原菌として知られている.一方,土壌や水域環境下で腐生的に生存している種も認められているが,それらを調査した研究は少なくその分布や種類相については不明な点が多い.演者らはこれら腐生性種を含む土壌中の<I>Pythium</I>属菌を得るため,日本各地より土壌を採集し<I>Pythium</I>属菌を分離した.その結果,日本未報告種や新種の可能性のある種を含む多数の<I>Pythium</I>属菌が認められ,土壌中の<I>Pythium</I>属菌の多様性が示された.そこで,これら未解析の<I>Pythium</I>属菌の系統関係を明らかにするため,得られた菌株についてrDNA ITS領域およびD1/D2領域の塩基配列を決定し,既存のデータとともに分子系統解析を行った.その結果,得られた系統樹上には4単系統群が検出された.<I>Pythium</I>属菌においてはITS領域の分子系統解析により胞子のうの形状と密接に関わる3単系統群が認められており(L&eacute;vesque and de Cock, 2004),本解析でもこれらと一致する膨状胞子のうを形成する種からなる単系統群と球状胞子のうを形成する種からなる2単系統群が検出された.更に本解析ではこれら3系統群とは明確に異なる単系統群も検出された.この単系統群には,異なる地域より分離された8菌株が含まれており,ITS領域には2種の配列が認められ,その相同性は93.9%(687/732)と低かったが,D1/D2領域の塩基配列は全ての菌株で完全に一致した.これらの菌株はいずれも細く特徴的な分枝形態を示す菌糸を形成し,球形,楕円形,洋ナシ型等様々な形態の胞子のうを形成し,一部の菌株では,付着器や膨状胞子のう様の菌糸の膨らみも認められた.造卵器は平滑で1個から数個の造精器が付着し,雌雄異菌糸性または同菌糸性で造卵器内に1個の非充満型卵胞子を形成した.
著者
早乙女 梢 太田 祐子 服部 力 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.21, 2007

<I>Polyporus</I>(タマチョレイタケ属)は,担子菌類サルノコシカケ科の一属であり,子実体が有柄で結合菌糸骨格菌糸の未分化な2菌糸型の種が広く含められている.このため,本属は子実体の外形が多様な種が包括されており,属内には子実体の外部形態に基づいた<I>Polyporus</I>, <I>Favolus</I>, <I>Melanopus</I>, <I>Polyporellus</I>, <I>Admirabilis</I>及び<I>Dendropolyporus</I>という6つの形態グループが設けられている(N&uacute;&ntilde;ez and Ryvarden, 1995).<BR>本研究は現在1つの属として扱われている<I>Polyporus</I>の分類学的な妥当性を検証する事を目的とし,本属22種52菌株及び近縁属10属15種18菌株を用い,LSUnrDNA領域, <I>rpb2 </I>遺伝子領域及び<I>atp6</I>領域による分子系統解析を行った. <BR>解析の結果,系統樹上には8個の単系統群が検出され,そのうち2単系統群には本属菌と近縁属菌が含まれていた.したがって, <I>Polyporus</I>は単系統群ではないことが明らかとなった. <BR>属内の各グループの系統関係については, <I>Polyporellus</I>グループの種は同一クレードを形成した.一方, <I>Polyporus</I>グループと<I>Melanopus</I>グループの種は複数のクレードに含まれ,これら2グループは単系統なグループではなかった.なお, <I>Favolus</I>グループ, <I>Admirabilis</I>グループと<I>Dendropolyporus</I>グループの種については系統的な位置を特定することができなかった. <BR>以上の結果から, <I>Polyporus</I>は単系統群ではなく,また形態的にも遺伝的にも多様な種が含まれており,分類学的再構築が必要であることが明らかになった.