著者
杉浦 義典 杉浦 知子 丹野 義彦
出版者
信州大学人文学部
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.33-46, 2006-03-15

This study examined the psychometric properties of the scales intended to measure constructs related to Morita Therapy. Such scales are expected to be useful for empirical comparison of Morita Therapy with different but similar interventions (e.g., cognitive behavior therapy). Two scales were completed by college students: Self Report Morita -Neuroticism Inventory (SRMNI) and Self and Anxiety Questionnaire (SAQ). SRMNI is intended to measure vulnerability to neurosis (anxiety disorders); SAQ is intended to measure beliefs about anxiety, which is relevant to development, maintenance, and treatment of anxiety. Correlations with personality traits, anxiety, and depression revealed the psychometric properties of the subscales of each inventory. Morita-Neuroticism of SRMNI reflected per. 森田療法で仮定される病理学的要因や治療における変化プロセスを捉えることを目的とした尺度の心理測定的性質を検討した。このような尺度は森田療法を認知行動療法など他の心理療法と実証的に比較するために有用である。具体的には,神経症(不安障害)の素因とされる森田神経質を測定する神経質自己調査票,および「とらわれ」や「あるがまま」といった概念と密接にかかわる不安への態度を測定する自己と不安の質問紙を取り上げた。大学生データをもとに,他のパーソナリティ特性や不安や抑うつ症状との関連を検討した。神経質自己調査票の下位尺度である神経質傾向度は完全主義的傾向を反映しており,いわゆる神経症傾向(ネガティブ情動)とは異なった側面を捉えていた。一方,幼弱性という傾向が症状と一貫した関連を示した。幼弱性は,自己中心性や依存性を反映する。一方,自己と不安の質問紙については,不安感や不安を感じる自己を受容できる傾向および問題に対処する効力感が,特性不安などと負の相関を示した。神経質自己調査票の神経質傾向度や理知-感覚傾向度,自己と不安の質問紙の感情制御欲求は本研究では症状との関連が見いだされなかったが,理論的に有用な次元であると考えられた。それぞれの尺度は一定の妥当性を示したため,森田療法の関連概念を測定する研究は今後も継続する価値があると考えられる。しかし,尺度の項目など今後の洗練が必要であろう。
著者
杉浦 義典 杉浦 知子
出版者
信州大学高等教育システムセンター
雑誌
信州大学高等教育システムセンター紀要
巻号頁・発行日
vol.2, pp.75-81, 2006-03-31

近年,個人的な経験や直感ではなく,科学的・客観的な研究知見の蓄積をもとに介入を行うエビデンス(実証)に基づいた臨床心理学が盛んである.臨床心理学やカウンセリングは多くの学生が興味をもつテーマであるが,エビデンス・ベイストの考えを導入することで,臨床心理学を手掛かりに,統計的思考法,批判的思考力,自己観察のスキルなどを磨く機会になると期待できる.臨床心理学教育というと,大学院レベルでの専門職の養成に焦点がおかれる場合が多い,それに対して,筆者の所属する信州大学の人文学部では,(専門職の養成を直接には目指さない)学部レベルの教育と,教養教育レベルが中心になる.そこで,幅広い学生を対象とした一般教養レベルにおける筆者の実践を紹介したい.
著者
杉浦 義典 杉浦 知子 丹野 義彦
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.79-89, 2007-03-15

強迫症状と関連の深い意志決定の困難さを,強迫症状に限定されないパーソナリティ特性として測定する不決断傾向尺度(Frost & Shows,1993)の日本語版を作成し,その信頼性と妥当性を検討した。非臨床群を対象とした質問紙調査の結果,以下のことが明らかになった。(1)不決断傾向は1因子構造であり,十分な内的整合性を示した。(2)不決断傾向は,強迫症状と正の相関を示した。(3)不決断傾向は,責任の認知および完全主義(ミスを恐れる傾向)との正の関連を示した。(4)不決断傾向は,一般的なパーソナリティ傾向(ビッグファイブ),および,責任の認知と完全主義で説明出来ない強迫症状の分散を説明していた(増分妥当性)。(5)否定的な思考の暴走を防ぐ認知的なスキル(認知的統制尺度の「破局的思考の緩和」)は,不決断傾向を低減できる可能性が示唆された。以上の知見から,日本語版不決断傾向尺度の一定の信頼性と妥当性が確認された。