- 著者
-
村上 安則
- 出版者
- 日本教育心理学会
- 雑誌
- 教育心理学研究 (ISSN:00215015)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, no.1, pp.30-37, 1981
この実験の目的は, 生徒の話す力, 書く力, 要約する力を高めるための条件を調査することであった。そこで次のような実験が行われた。50分間平常の授業で英語を教えられた統制群(C群)を, 40分の平常の授業の後, 最後の10分間で英問英答によって教えられた第1実験群(EI群), および最後の10分間に暗唱して正しく書けるように指導された第2実験群(EII群)と比較した。これらの3群の学習効果を知るために, 次の測度が用いられた。<BR>英文和訳問題と和文英訳問題においては, 通常の主観的採点法が用いられた。要約においては, 小町谷 (1974) にならって次の測度が用いられた。すなわち, 10人の英語教師によるテスト材料の評定に基づいて決められたところの,i) 有効伝達単位点, ii) 非有効伝達単位点, さらに有効及び非有効伝達単位点の相互関係に基づいたiii) 要約評定点, および iv) 伝達単位数である。各群33名の高校1年生からなるマッチングされた3群の被験者は, 次のように訓練をうけ, テストされた。<BR>pre-testではすべての被験者は, O. Henryの短編小説の前半を, post-testでは後半を与えられ, 50分以内に読んで, かつ, 次の3っの質問に答えるように求められた。3つの質問とは,(1)英文和訳問題,(2)和文英訳問題,(3) 英語での要約問題であった。<BR>訓練期間中は, すべての被験者に, 教材を理解するため次のような授業が行われた。すなわち,(1) 外人吹込みのテープを聞く。(2) 教材を読む。(3) 新出単語と新しい重要な文について学び, テキストの英文和訳を行う。C群はこの手順で授業を最後まで行う。EI群では最後の10分間, 教材全体にわたる重要な文について, 教授者が被験者に英問英答を行う。EII群では最後の10分間EI群の被験者が英問英答を行ったのと同じ文を暗唱し, 誤りなく書けるように指導する。この訓練が4回にわたってくり返された。<BR>英文和訳と和文英訳のpost-testの成績とpre-testの成績との差は, 3群の間ではほとんど見られなかった。しかし, 要約問題においてはEI群が全般的にもっともすぐれ, 次にEII群, C群の順であった。英間英答は, 被験者が教材をよりよく理解し, 要約するのに, より効果的であるといえよう。しかしながら, 学習時間を本実験の場合よりも長くすれば, これとは異なる結果の生じることも予想される。<BR>なお, 本研究を行った結果, 今後の問題点と思われるものには次のようなものがある。<BR>(1) 要約問題は, 教材全体の理解度を測るのに最適の問題形式と思われるが, 問題文の伝達単位の有効・非有効等の判定について, 少なくとも数名の英語の専門教師の協力が得られなければならず, 教材毎にこの規準を作成することは困難である。<BR>(2) 実験に関しては,(イ) training教材そのものだけに関する問題と, post-testだけに関する問題を作成すること。<BR>(ロ)英文和訳問題と和文英訳問題は, 客観テストとすること。(ハ) pre-testの問題とpost-testの問題の難易度を同じようにすることなどが望まれ, さらに,(ニ)学習内容に見合った学習時間が与えられることが望ましいと推測される。<BR>(3) これまでの実験的研究は, 平常の授業の多くの側面の中の1つをとり出して, 平常の授業とは異なる状況で扱ってきたために, その結果の平常の授業への一般化や適用が困難であった。それゆえ, 本研究では, 折衷法により, 全く平常の授業に実験をとり入れたのである。本研究には, まだ, 条件統制の上で, いくつかの問題点もあるが, 今後は, 授業の目標にあわせて, 他の実験が追加されたり, 不要な実験が省かれたりして, より一層の考慮が払われるならば, 本研究のような実験授業による英語教育法の研究は成果をあげることができるものと思われる。