著者
平野 俊夫 村上 正晃 山下 晋 石原 克彦
出版者
大阪大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2003

サイトカインは、免疫応答、急性期反応、造血、炎症性反応に重要な役割を果たしている生理活性分子である。我々が作成した、シグナル特異的な変異を導入したgp130を発現しているノックインマウスは関節リウマチ様自己免疫疾患を自然に発症する。このマウスに見られるT細胞や樹状細胞の免疫学的機能異常のメカニズムを明らかにすることにより、逆にサイトカインシグナルによる正常の免疫応答の制御機構の一端を明らかにする。さらに、踏み込んでサイトカインのシグナル異常によって生じる自己免疫疾患に普遍的な機構を明らかにすることを目的とした。以下の2つの概念を証明することができた。1. サイトカイン刺激による非免疫系組織の活性化が別のサイトカインを介してCD4+T細胞の活性化を引き起こして自己免疫につながる。2. 非免疫系細胞にはIL-17とIL-6の刺激を引き金とするIL-6の正のフィードバックループが正常状態でも存在して生体のIL-6量を制御している。F759マウスではIL-6刺激後正常状態ならば働くはずのSOCS3による負のフィードバックループが働かずにIL-6の正のフィードバックループが暴走し、過剰なIL-6発現が自己免疫性の関節炎を引き起こす。さらに、本研究の過程で発見された亜鉛シグナルの存在を証明して免疫反応との関連を研究して成果を出すことができた。
著者
中川 育磨 村上 正晃
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.160-168, 2017 (Released:2017-07-26)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

脳や脊髄など中枢神経系の血管は,血液脳関門という特殊な構造を形成することで,血管系から中枢神経系への病原体や化学物質,免疫細胞の侵入を防ぎ中枢神経系の恒常性を極めて高度に維持している.しかしながら,中枢神経系においても病原体や免疫細胞の侵入に伴う疾患が実際に存在し,それはすなわち血液脳関門の破綻に伴う侵入口(ゲート)が形成されていることを意味する.近年までこのゲート形成の分子機構はほとんど明らかになっていなかった.著者らは,中枢神経系の難病疾患である多発性硬化症のマウスモデルを用いて,血液脳関門におけるゲートの形成部位と形成機構,及びその分子基盤として局所においてNF-κB経路とSTAT経路の同時活性化により炎症を誘導・維持する機構である「炎症回路」を明らかにした.