- 著者
-
村山 眞維
- 出版者
- 千葉大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1989
1.今回東京で行った質問票調査によれば、我国の法律業務は個人の不動産や相続・離婚など主に個人を顧客とする仕事と、中小企業を主な顧客とする仕事とが中心となっている。渉外関係などを突出した部分とする大企業関係の法律業務は、増えてきているように見えるが、まだ法律業務の基本構造を変えるには至っていないように思われる。2.刑事弁護の担手は徐々に減少してきているようである。少なくとも国選受任者の割合は2割に満たない。国選弁護の主な担手は、登録後十年未満の弁護士と老令の弁護士、および刑事弁護を続ける意志のある比較的少数の中堅弁護士である。これに対し、私選弁護はより広い弁護士層によって受任されており、いわゆる一般民事案件と同様なものとして受任されているように見える。3.以上の状況は、今世紀初頭の米国と比較し、国選弁護に類似の問題をもつ反面、弁護士会について大きな相違いがある。ビジネスロイヤ-が主導権をもった米国と異なり、東京では一般民事案件を扱う個人経営弁護士が運営の中心となっている。これは、法律業務の構造と、法律専門職の理念の相違とも関連しているのかもしれない。4.国選弁護活動は、私選弁護活動に比べ余り活発に行なわれているとは言えない。ただし、それは国選事件の内容が活発な弁護活動を必要としないようなものであるからかもしれず、その点の今後の検討が必要である。5.法律業務の構造変化がもたらし得る影響をより明確にするためには、刑事事件の受任がいかなる業務環境の下で、どのような動機によってなされているかを、面接調査などの方法により明らかにすることが必要であろう。