著者
今井 猛嘉
出版者
日本刑法学会
雑誌
刑法雑誌 (ISSN:00220191)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.495-500, 2011-03-10 (Released:2020-11-05)
著者
今井 猛嘉
出版者
法政大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

1.今年度もEUに見られる刑事実体法・手続法の統合への動きをフォローし、その理論的意義を検討した。2.手続法の分野では、EU加盟国相互での手続の統一化を目指す動きが加速されており、重要な進展が見られた。具体的には、EUROJUSTが設置されるとともに、ヨーロッパ共通逮捕状の新設も合意された。後者はEU域内でのテロ対策として、特に、2001年9月11日のアメリカにおける同時多発テロを受けて議論され、提案されたものである。ヨーロッパ共通逮捕状の実施条件に関する最低限の情報は集めたので、今後は、この具体化をフォローしたい。合わせて、ヨーロッパ検察設立の動きについても、理論的な検討を開始した。3.実体法の分野でもEU統一刑法にむけた動きに進展が見られ、個別の重要な犯罪に即して統一を図っていくという現実的なアプローチが特徴的であった。2001年度に確認された、EU実体刑法に関する重要な点は、次のとおりである。(1)EUの財政的利益保護を図るため、EUに対する詐欺罪(fraud)の処罰が、各国レベルで要請されている。それを受けて、例えば、ドイツでは、刑法264条(補助金詐欺罪)が新設され、既にその運用が始まっている。(2)賄賂罪(corruption)に対する各国の政策を統一する動きも進んでいる。これは、EUがOECDの勧告を尊重する形で、EU加盟各国に相当の対処を要求しているものである。賄賂罪の実体的要件を各国で統一するには至っていないが、賄賂罪の実行に付随して犯されやすいマネー・ロンダリングの防止については、つい最近、EUが、統一的な犯罪構成要件の提示を行った。今後の動向が注目される。(3)(1)、(2)を包括する形で、統一したEU刑法典を作ろうという動きも数年前から生じており、刑法学者のグループにより、Corpus Jurisが発表されている。これは、各国の伝統的な理解を超える提案も含んでおり、注目される。例えば、その13条は、法人処罰を規定するが、ドイツでは法人は処罰されず、OwiG[一種の行政刑法]によって課徴金が科せられるに止まる。しかし多国籍企業の違法活動には各国レベル、少なくともEUレベルでは統一した処理が望ましいから、ドイツにおいても法人処罰に踏み切るべきではないかが議論されている。近時、政府の諮問機関は、法人処罰に反対する旨を表明したが、今後の政策変更もありうるようであり、引き続いた検討が必要である。(4)以上のように、EU全般にわたる実体刑法の領域では、fraud, corruption, money-launderingが主たるtopicsとなり、可能な限りで加盟各国の犯罪構成要件を統一しようとする動きが具体化していることが確認された。我国も、この三つの犯罪につき、国際標準に合致した条文を作ることが要請されているので、本研究で得た知見を立法論的提言にまとめたいと考えている。4.以上から理解されるように、EU刑事法は、この二年間でかなりの進展が見られたが、昨年の米国多発テロ後に急進展した分野も多く、今まさに、関連情報が入手可能となりつつある。そのため、研究年度中に一定の結論を見出すことは困難であった。2002年度においても、鋭意、研究を継続していく所存である。
著者
今井 猛嘉
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.173-179, 2023-02-28 (Released:2023-02-28)
参考文献数
9

日本の道路交通法(道交法)は、令和4年4月27日法律第32号により一部改正され、自動運転の、いわゆるレベル4が許可されるに至った。そこでは、運転者がいない「運行」が特定自動運行として整理され、自動運行装置による自律的な運行の実施を、特定自動運行実施者(および特定自動運行主任者と現場措置業務実施者)が監視する制度が創設された。特定自動運行も、概念的には「運転」に含まれるから、誰が運転者であるのかが確認されるべきだが、日本では、この点への関心は乏しく、特定自動運行の妥当範囲という具体的な課題に議論が集中しつつある。特定自動運行が、高速道路上のトラックの隊列走行や、公道で個人等が乗り込む自動車の運行にも認められるのかが、今後の検討課題である。
著者
松村 良之 木下 麻奈子 白取 祐司 佐伯 昌彦 村山 眞維 太田 勝造 今井 猛嘉 林 美春 綿村 英一郎 長谷川 晃
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2020年度には実査が予定されているので、総括班、社会調査班を中心に実査の大枠を固めた。本調査は継続調査であり、第1、2波の調査と同一の調査方法によることが必須であることが確認された。予算制約の結果、抽出サンプル数は900(予想回収数500)であり、第1波、第2波調査の半分程度となるが、統計学的に許容できる水準であることが確認された。調査票については、16頁構成のうち、シナリオ部分約4頁を新規設問に入れ替えることが確認された。そして、心理学班も加えて検討した結果、責任主義関連項目では、心理学的な能動性(moral agency)評価と責任能力、少年、過失・故意を取り上げることとした。心理学班は第1に、日本人の法意識の背後にあると想定される公正観(公正世界尺度に由来する「運の等量仮説」、ハイトに由来する道徳尺度の日本バージョンなど)尺度の開発を試た。さらに、agency性評価の心理尺度について、その妥当性、信頼性を検討し調査票に組み込むべく準備した。第2に、少年犯罪について、人々が少年を罰しようとする応報感情の性質について検討した。世論は非行少年に対して厳罰志向的な態度を有しているが、他面、非行少年の置かれた環境的負因(責任主義につながる)について全く意識していないわけではない。そのことを踏まえて、少年に対する保護と刑罰という観点からの質問票作成を試みた。第3に、刑事法学班と協力して、刑法学の観点からは学説史に遡りつつ、また近年の脳科学の成果を踏まえた自由意思についての見解にもよりつつ、錯誤論、共犯論と関連させて過失・故意の教義学的議論について検討を深めた。それを踏まえて、大きくは結果責任と主観責任という枠組みで、質問項目を検討した(なお、少年、過失・故意については、シナリオを用いた実験計画法による)。
著者
白取 祐司 仲真 紀子 川崎 英明 今井 猛嘉 高倉 新喜 田中 康雄 松村 良之 藤田 政博 森直 久 城下 裕二 内藤 大海
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

刑事裁判において法心理学は、法専門家(実務法曹)と司法に関わる市民とりわけ裁判員の間のコミュニケーションの実証分析、刑事司法に対する実務家、市民の意識分析による制度見直しへのデータ提供など、様々なかたちで貢献しうることを、実験や調査等を通して明らかにしてきた。また、子どもに対する心理学的観点からの面接法の研究を進め研修など実践段階までいたったほか、外国調査により、刑事司法における心理鑑定の制度化の可能性と必要性を示すことができた。