著者
村田 知慧
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

トゲネズミ属3種のうち、アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミは、XO/XO型の性染色体構成をもち、Y染色体だけでなく性決定遺伝子SRYを消失した極めてめずらしい哺乳類である。一方、オキナワトゲネズミ(以下オキナワ)は、一般的なXX/XY型の性染色体をもつが、その性染色体は一対の常染色体の転座により大型化し、SRYは特異的なアミノ酸置換と重複により独自の進化を遂げている。トゲネズミ属のY染色体の進化過程を明らかにすることを目的とし、平成22年度はオキナワにおいて、性染色体のさらなる構造変化の有無の検出、祖先Y染色体領域の同定、SRYの機能性予測をおこなった。29のマウスのcDNAクローンを用いたFISH解析の結果、オキナワの祖先X染色体領域(Xq)および性染色体に転座した常染色体領域(Xp、Yp)は他のネズミ類の遺伝子オーダーと一致し、構造変化はみられなかった。ただし、アマミトゲネズミの性決定候補遺伝子であるCBX2が、オキナワにおいて常染色体の転座に伴い、性染色体に連鎖し、さらに他の染色体に重複していた。また、CGH解析の結果、オキナワのY染色体に性特異的な領域は検出されなかったが、単一のY連鎖遺伝子と同定されたDDX3YとUTYのcDNAクローンを用いたFISHの結果、両遺伝子はYpの動原体付近に存在し、祖先Y染色体領域がYp動原体付近に保持されていることをつきとめた。さらに、SOX9の精巣特異的エンハンサー領域にあるSRY結合配列の保存性を、マウス、ラット、ヒト、オキナワにおいて比較した結果、結合サイトの一つにオキナワ特異的な置換がみられ、保存性が失われていた。今回の結果から、トゲネズミ共通祖先はY染色体にいくつかのY連鎖遺伝子を保持していたことが明らかとなったが、SRYの機能はトゲネズミ共通祖先において、すでに低下もしくは消失していた可能性が考えられた。トゲネズミ属のY染色体進化を解明するために、オキナワは鍵となる重要な種であることが本研究によって強く示された。