著者
篠原 明男 山田 文雄 樫村 敦 阿部 愼太郎 坂本 信介 森田 哲夫 越本 知大
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.335-344, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
38
被引用文献数
2

アマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)は奄美大島に生息し,性染色体がXO/XO型(2n=25)という特異的な生物学的特性を持っているが,絶滅に瀕している.そこで本研究ではアマミトゲネズミの保全および将来的な実験動物化を目的として,その長期飼育を試みた.鹿児島県奄美大島で捕獲されたアマミトゲネズミ7個体(雌6個体,雄1個体)を,一般的な実験動物と同様の飼育環境(環境温度23±2°C,湿度50±10%,光周期L:D=12h:12h)に導入し,実験動物用の飼育ケージ,給水瓶,床敷きを用いて飼育した.飼料はスダジイ(Castanopsis sieboldii)の堅果,リンゴおよび実験動物用飼料を給与した.導入した7個体のうち6個体は937~2,234日間生存し,平均して4年以上(1,495.8±434.3日)の長期飼育に成功した.体重変動,飼料摂取量,摂水量および見かけの消化率の結果から,本研究に用いた実験動物用飼料はアマミトゲネズミの長期飼育に適していると考えられた.また,中性温域は26°C以上である可能性が示唆された.さらに,本種は飼育下においても完全な夜行性を示すことが明らかとなった.本研究によりアマミトゲネズミの終生飼育には成功したものの,飼育室下における繁殖の兆候は一切観察されなかった.今後,アマミトゲネズミの保全および実験動物化を目的とした飼育下繁殖には,飼育温度条件の見直しが必要であると考えられる.
著者
笠井 憲雪 打越 綾子 越本 知大 加隈 良枝
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

我が国では動物実験について実施者側から一般市民への情報発信が極めて少なく、このため一般市民の動物実験への理解が乏しいと考えられる。そこで本研究では動物実験について広く社会に受け入れられる発信方法について研究し、試行し、その基盤の構築について提言する。具体的には次の4つのサブテーマを目的とする。1. 一般市民の動物実験に関する意識調査の実施と継続調査の基盤確立、2. 高校生物教育の動物を用いた学習の適切な支援方法の提言と支援組織の構築、3. インターネットによる動物実験情報発信基盤の構築、4. 動物実験に関する情報発信における倫理に関する研究。
著者
八木 千尋 北山 みずほ 坂本 信介 篠原 明男 枝重 圭祐 越本 知大
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.106, pp.P-39-P-39, 2013

<b>【目的】</b>宮崎大学フロンティア科学実験総合センターではマウス(<i>Mus</i>属)やラット(<i>Rattus</i>属)とは異なる分類群である<i>Apodemus</i>属の1種,ヨーロッパモリネズミ(<i>Apodemus sylvaticus</i>)を飼育維持している。本種は高脂血症を自然発症し,さらには高コレステロール飼料給与によりアテローム性動脈硬化が誘導される個体や,Ⅱ型糖尿病様の病態を呈する個体が存在することから新たな病態モデル動物候補として特性評価研究を進めている。本研究では自然交配により維持している本種のコロニーを効率的に管理するために必要な,卵子および胚の凍結保存法開発に向けた知見の集積を目的として,卵子および2細胞期胚の水と耐凍剤の膜透過性を評価することによって凍結保存の可能性を検討した。<b>【材料・方法】</b>排卵誘起処理後M-II期卵子と,雄との自然交配を経て得た2細胞期胚を回収し,15℃および25℃でスクロースおよび5種類の耐凍剤(グリセロール,DMSO,エチレングリコール,プロピレングリコール,アセトアミド)添加PB1液に曝露し,経時的な相対体積変化から水透過性(μm/min/atm:Lp)および耐凍剤透過性(×10<sup>–3</sup>cm/min:Ps)を算出した。<b>【結果・考察】</b>25℃での卵子および2細胞期胚のLpは,15℃の値よりも2倍以上高かった。 また卵子および2細胞期胚のPsは,グリセロールで0.01~0.05と非常に低く,その他の耐凍剤で0.23~2.26を示し,また15℃よりも25℃で高い値を示した。このことから水と耐凍剤は温度依存的に膜を透過していると考えられた。これらの結果は,マウスで報告されている値と非常に近似しているため,本種における卵子および2細胞期胚の凍結保存法はマウスと同様の手法が適用できる可能性がある。今後はさらに発生の進んだ胚のLpおよびPsを測定するとともに,これらの凍結保存を試みたい。
著者
酒井 悠輔 坂本 信介 加藤 悟郎 岩本 直治郎 尾崎 良介 江藤 毅 篠原 明男 森田 哲夫 越本 知大
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.57-65, 2013 (Released:2013-08-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1

飼育下でアカネズミ(Apodemus speciosus)の自然交配による繁殖を誘導できる飼育交配手法を検討した.巣穴環境を擬似的に再現することで繁殖が誘導できるとの作業仮説のもと,ケージ内の床敷きを覆うように板を設置した中蓋あり飼育ケージを考案した.季節的な環境要因の影響を考慮するため,自然環境温度・自然光周期条件である半野外飼育施設において中蓋あり条件と中蓋なし条件で交配実験を行った.さらに環境条件が一定の室内飼育施設においても中蓋あり条件で交配実験を行った.その結果,半野外飼育施設の中蓋なし条件で雌個体の妊娠が確認されたのは11個体中1個体で1例のみだったのに対し,同施設での中蓋あり条件では9個体中4個体で6例の繁殖が誘導された.さらに室内飼育施設での中蓋あり条件では10個体中4個体で12例の繁殖が誘導でき,繁殖したペアの多くが複数回の繁殖を行った.半野外飼育施設の結果から,飼育ケージに中蓋を設置し疑似巣穴環境を再現することで,飼育下においてアカネズミの繁殖が誘導できることが示唆された.さらに繁殖の誘導が困難とされてきた室内飼育条件においても,繁殖に適した物理環境条件下であれば中蓋を用いることで繁殖を誘導できることが明らかとなった.これらのことから,飼育下における本種の繁殖誘導には飼育ケージに中蓋を設置するという簡便な手法が有効であると考えられる.
著者
酒井 悠輔 坂本 信介 加藤 悟郎 岩本 直治郎 尾崎 良介 江藤 毅 篠原 明男 森田 哲夫 越本 知大
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.57-65, 2013-06-30

飼育下でアカネズミ(<i>Apodemus speciosus</i>)の自然交配による繁殖を誘導できる飼育交配手法を検討した.巣穴環境を擬似的に再現することで繁殖が誘導できるとの作業仮説のもと,ケージ内の床敷きを覆うように板を設置した中蓋あり飼育ケージを考案した.季節的な環境要因の影響を考慮するため,自然環境温度・自然光周期条件である半野外飼育施設において中蓋あり条件と中蓋なし条件で交配実験を行った.さらに環境条件が一定の室内飼育施設においても中蓋あり条件で交配実験を行った.その結果,半野外飼育施設の中蓋なし条件で雌個体の妊娠が確認されたのは11個体中1個体で1例のみだったのに対し,同施設での中蓋あり条件では9個体中4個体で6例の繁殖が誘導された.さらに室内飼育施設での中蓋あり条件では10個体中4個体で12例の繁殖が誘導でき,繁殖したペアの多くが複数回の繁殖を行った.半野外飼育施設の結果から,飼育ケージに中蓋を設置し疑似巣穴環境を再現することで,飼育下においてアカネズミの繁殖が誘導できることが示唆された.さらに繁殖の誘導が困難とされてきた室内飼育条件においても,繁殖に適した物理環境条件下であれば中蓋を用いることで繁殖を誘導できることが明らかとなった.これらのことから,飼育下における本種の繁殖誘導には飼育ケージに中蓋を設置するという簡便な手法が有効であると考えられる.<br>